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堀内統義『恋する正岡子規』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.07.13 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

これまであまり語られることのなかった正岡子規の「恋」について、子規や友人の文章、手紙などから丁寧に拾って検証した一冊です。女性に縁のないイメージの子規ですが、松山市立子規記念博物館の子規俳句のデータベースを見ていると、「傾城」「遊女」「吉原」といったワードの句が多く気になっていたのもあり、知られざる子規の一面を覗いてみたくて手に取りました。

子規の「恋」はあったのか……。生前子規が、漱石と碧梧桐にしか語らなかったという「秘事」・「流産」のエピソード(これに一番驚きました)は本当にあったのか……。壮絶な病に倒れた子規の生涯の中にもあった、子規の前を取り過ぎていった女性たちとのエピソードからなっています。また、「恋」という文章で「八百屋お七の恋に同情する」と書いた子規を取り上げ、彼の喀血後の「文芸への燃焼」をお七の「燃焼」に重ねたり、野球への執心ぶりを、ベースボールへの恋と題した章もあります。

花街に関する言及はありませんでしたが、実際に名前の挙がった女性は5名。彼女たちとの関係を詳らかにしていく中で、子規が「垢抜けして口が達者」で、「人を逸らさぬ機知に恵まれた、明るく社交的な女性に惹かれる傾向があった」というのも興味深く読みました。彼女らに抱いた恋心(恋のイメージ)が、子規の作品という「現実をしのぐ詩的リアリティ」へと昇華していくという分析に納得! 子規が「自分の切ない情緒の記念」だといった「流産」エピソードが、現実のものであるのか、はたまた子規の物語であるのか……。具体的な人物とつなぎながらもどちらともとれそうなところもまた子規らしいエピソードなのかな……と感じました。