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真山仁『ハゲタカ』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.09.17 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

真山仁さんのデビュー作で、テレビドラマ化や映画化もされた「ハゲタカ」シリーズの第一作目です。

1989年から2004年を舞台に、「不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる」バルチャー(ハゲタカ)・ビジネスが描かれた経済小説です。

ニューヨークの投資ファンドの日本法人運営会社長・鷲津政彦が、瀕死状態の企業を次々と買収していくのですが、敵対するファンドによる妨害や、買収先の社員からの反発を受けながらも、斬新なプランで企業を買い漁る展開は、経済用語は多いものの、これまで知らなかったビジネスの世界を垣間見せてくれるもので、門外漢の私としては興味深く読みました。なんと言っても一番の読みどころだったのは、ビジネスとは違うところにあった鷲津の真意(復讐劇)が重ねられていくことと、それ故に、読み進めば読み進むほど主人公鷲津の印象が変わっていく点でした。

身長は165センチ、華奢な身体とソフトな表情、外資系企業のトップというよりも物腰の柔らかい有能な秘書の風情、ニューヨーク製スーツも彼が着ると安っぽく見える、渋いというより地味、卑屈に響くしわがれた声

の鷲津。(ブックカバーのドラマで鷲津を演じた綾野剛さんとは全く違ったイメージで……)主人公らしからぬ風貌で登場して驚かされましたが、読み終わってみると、鮮やかな手腕を発揮して決して勝負を落とさない、まさに金融界の「最強の鳥」である彼が、自らの信じる「正義」を突き通す物語でした。この彼の外見と実像の二面性は、世間から見ると「ハゲタカ(コンドル)」のようでありながら、鷲津自身が目指すのは神の化身である「ゴールデンイーグル(イヌワシ)」であることに重なっていくものでもあり、また、ハゲタカビジネスが一見無慈なようでありながら、結果的には何らかの救済をもらたしていることを象徴しているようにも感じました。