周りがみんな行くらしいので、適当に大学行った6
11 女神を取り合う二人の男たち
バイトを始めてから三週間。前述のとおり研修という名のお店屋さんごっこを堪能している僕に、チーフが声をかけてきた。
「そろそろ、お客さんの前に立ってレジを打ってみようか。」
その言葉を聞いて一気にしんどくなってきた。
今までバイトは塾しかやっておらず、それは子供相手だったのでなんてことはなかった。しかしこれから始まる僕の物語というのは、見ず知らずの人たちの前に立って仕事をこなさなければならない。責任はこういう風に生まれていくのだと社会の厳しさに(一秒も人前に立っていないのに)おびえていた。
僕はあ、、はい。という弱弱しい返事をしてから、とある女性のレジへ向かった。Uさん。とても小柄でかわいらしい女の子だった。
「Uさん。○○くんね。今日から二人制だから、よろしく。」
チーフはその人に向かって言う。Uさんはまだ入って半年もたっていない初心者だということで「私ですか!?まだまだなんですけど…」とごもごもしていた。しかし、気の強いチーフに押されてしまい僕のレジの面倒を見ることになった。
(二人制とは、一人がレジを通し、もう一人がカゴに商品を詰めるやりかたのこと。混んでいる日のスーパーとかでよくみられるぞ!)
かわいい女の子に見られながら、クッソ遅いスピードでレジを打つ。恥ずかしさと緊張と責任感で三時間がすぐに過ぎていった。
「いやぁ…初めてやるので時間があっという間に過ぎていきますね!」
「最初のうちだけだよ…私なんて今日暇だったもん……」
と、適当な会話を交わし、その日のバイトは終了した。
その日分かったのはUさんと僕は同い年だということと、一年先輩であるということだった。ゆえにSくんと同期なのである。
向かいにあるゲームセンターに足を運ぶと、Sくんの姿があった。
「Uさん、めっちゃ可愛くない?普通にいいなあって思っちゃったさ。」
僕はちょっと浮足立ちながら今日のエピソードを語る。Sくんは笑いながらちょっと不穏な一言を言った。
「いやぁ…やめときwマジで面倒くさいことになるよ」
その次のバイトの日、Sくんと同期のizさんとikさんと一緒のシフトになった。挨拶を済ませたのちその人越しにUさんを観察する。今日もかわいらしい。
Uさんはizさんとバイト中よくだべっていた。スーパーの店員というのは暇なときくっちゃべるものなのである。
付き合っているのかなぁ…と少し悲しげに思いながら四時間を過ごす。その間僕はビールの6缶セットを間違えて単品として打ち込んでしまったり、ほうれん草と小松菜の区別がつかずに焦ったりと忙しい時間を過ごした。
バイトも終わり際。よくよくizさんとikさんを観察しているとなぜか一言もしゃべらない。仲が悪いのかな?と軽く考えていた。しかし、帰宅の時Sくんの語った一言が急によみがえるような風景が見られた。
Uさんとikさんが一緒に歩いて帰っているのだ。
こ~~~~れは……なるほど。
Sくんの言っていた面倒なこととはこういうことだったのか。
素直に何も考えずバイト仲間としてUさんを見ることを決意した僕は、向かいのゲームセンターにいるSくんに今日あったことを話した。そして、名探偵っ!のように推理をし始めた。
「Uさんとikさんは付き合っている。んで、izさんはUさんのことが好き。ほんでなんかの拍子にいろんなことがバレてしまって気まずくなってる。こういうこと?」
Sくんは興奮気味に「いやぁ~~~~おしいですねぇ!!」とはしゃぐ。
結末としては、Uさんのことがizさんはずっと好きだった。izさんと仲のいいisさん、ikさんは恋を応援すると言った…しかしながらikさんは横取りするような形でUさんと付き合ってしまった。ほんでもって敵対関係のような形になってしまった。だそう。
最高のタイミングで、最高のバイト先に足を踏み入れてしまったと大興奮気味な僕だった。
12 授業行けなくて对不起
2018年も終わりに近づいてきたころ。僕は週に二回しか大学に行かない完全引きこもりモードに入っていた。プログラミングの授業と中国語B。ギリッギリその二つだけは出席が足りていたのだ。最終的には中国語以外落とすんですけどね初見さん。
中国語に関しては、なぜか死ぬほど面白いと思っていたぼくは毎回出席した。周りの発音(自分も含めて)が回を重ねるごとに本物の中国人みたいに変わっていくのがとても好きだった。
英語を初めて習った中学一年生のとき、同じような感情で塾の授業を受けたことを思い出す。新たな言語を習うことに抵抗がなかったのだろう。当時から新しい文法に出会うたび、パズルのように自分の中で何かが溶けていくのが快感でしかなかった。ポケモンルビーサファイアを初めてプレーする…あのレベルを上げてボスに勝ってジムバッジを集めて自分の中の何かがレベルアップしていく。みたいに。
そんなこんなで今になっては何も覚えていない中国語だが机には必ず僕がいた。楽しいことに関しては大学に行くことができたみたいだ。
生きる目的はもうビートマニアしかなくなっていた僕に、初めての北海道の冬が訪れた。
11月も終わり際。雪が降ったのだ。
そのころもう室蘭の音ゲーマーグループに飲み込まれていた僕は、毎日のようにゲームセンター閉店までいてそのあとは近くのセブンイレブンでたむろするようになっていた。これがまた楽しい。
先輩の車に乗せてもらって深夜のセブンに着く。外に出ると雪がうっすらと積もっている。関東の血が騒ぎ散らかした僕は夏靴なのにも関わらずタイルの上をすべってはしゃいだ。周りの20年選手の方々は僕のことをもっともっとトキめきのマモニスくらい穏やかな笑顔で見ていたのが印象に残っている。
クリスマスイブは恋人と過ごすわけもなく、いるわけもなく、高校時代の友達が北海道でアイスホッケーをやるとのことだったので早来まで鈍行で向かった。そこでの思い出としては、その子は秒で試合に負けたことと寂れすぎてるパチ屋で”ラブリージャグラー”とかいう化石みたいなスロット台を打って1万5千円くらいスッたくらいだろうか。ろくでもない思いでしかなかったので二度と行かんと心に決めた。ま、車持った瞬間安平町に行きまくるようになるのだが…それはまた別のお話。
2018年も終わり。平成は31年に突入する。覚えていないけど「令和」って言葉もできたのはこの辺だったのかな?
自分の中で相当濃度の濃い一年はこうして幕を閉じた。
来年はいい年に。大学に復帰できるように。彼女の一人でもできるように。そんなことを神に祈りながら僕は2019年を迎えた。
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