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ニワトリとスベリ台

 おじいは兵庫県稲美町と香美町に山のほんの一部分だけ持っている。私たちはその2つの場所をおじいの山と呼んでいて、よく遊びに連れて行ってもらった。

 今日は稲美町の山の話。

 そこではニワトリ、烏骨鶏、うさぎ、たまに野良犬。色々飼っていた。おじいお手製の檻の中で。世話をするため、しょっちゅうおじいにくっ付いて、私も山へ。常に人がいる場所ではないし、ほとんど野生みたいな性格の動物達。おじいには慣れていたけど、私は全然ダメ。私の姿を見ると、うさぎはパニクったみたいに逃げ回るし、ニワトリは威嚇して襲ってくる。烏骨鶏だけはのんびり屋さん。頭のてっぺんに白いモコモコが乗ってる烏骨鶏。緑の卵を産む烏骨鶏。

 野良犬もよく迷い込んで来ていた。その中でもアカとおじいに名付けられた犬は特別賢かった。犬達の話も書きたいけれど、今日はニワトリの話。

 ニワトリは気が強い。突いてくるし、蹴ってくる。たまに生まれてくるヒヨコはとても可愛かった。何匹かいたニワトリの中でも一際大きなオスがいた。私たち姉妹はそいつをボスと呼んでいた。

 ボスは私にとって1番の強敵だった。山へ行くとおじいはニワトリの檻の扉を開ける。ニワトリ達はケコケコ言いながら外を散歩する。檻の中へさえ入らなければニワトリともいい関係でいられた。平和な時間。そんな時間でもボスだけは違った。

 私を弱い奴だと見透かして、後ろをひたすらに追いかけてくる。大きい羽を広げながらずっとついてくる。立ち止まれば襲われる。ただただ恐怖。

 それでも私はボスが嫌いではなかった。怖かったけど。オレンジ色の艶々の体、尻尾の羽は玉虫色。光の加減で緑の濃さが滑らかに変化する。びらびらのトサカを震わせて、堂々と歩く姿。立派なオスのニワトリ。かっこよかった。

 ある日、山へ行くとボスはいなかった。

じいちゃん、ボスおらへんで。キツネに獲られたんちゃん?

家におるよ

 何で家なんやろ?少し疑問には思ったけど、おじいのする事を深く考えてはいけない。理解が出来ない事ばっかりだから。

 しばらく、山で遊んでからおじいの家へ。おじいの家は団地の1階。家の裏はすぐ公園。ベランダの窓からスベリ台が見える。

 ベランダから見えたものは私にとって、とてもショッキングだった光景。

 スベリ台からぶら下げられたボスの姿。下にはドラム缶。今でも、夢の中の話みたいに思う出来事。

 この後の事を簡単に言えば、おじいが朝絞めたボスをドラム缶の上で焼いて団地の知り合いみんなで食べた。野生バーベキュー。

 この間まで偉そうに山を走り回っていたボスの肉は硬かった。生きてる味。

 団地の公園で普通に火を焚いて今まで飼っていたニワトリを食べる。こんな事が普通に出来てたんやねぇ。今なら考えられない。団地内に焼却炉もあったくらいだから、火にはそこまでうるさくなかったのかな?ちなみに団地は一応神戸市内。住宅地にある。

 命を美味しくいただく、という事を身を持って体験出来たお話。

 

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