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ありがとう、浮気するように選んでいいと気づかせてくれて

緑の川面に浮かぶのは

目の前に広がる光景が、一瞬信じられませんでした。
どこにでもありそうなアーケード、普通であれば両側に店が立ち並ぶだけのその空間。
ところがそこには見慣れないレッドカーペットならぬグリーンカーペットが敷かれています。
緑の帯の上に並べられているのは、本、本、本。
遠目で見ても様々な大きさのものがあり、アーケードの果てまで続いて見える様子は、さながら本の川のように見えました。
「これ、全部貰っちゃっていいの……?」
思わず呟きました。
それに答えるかのように、スタッフと思しき人の声が聞こえてきます。
「イベント参加者用のリストバンドをつけた人は無制限で本を持ち帰れまーす」と。
頭の中で鳴るゴング。
その音と同時に、私の胸はこれから訪れるたくさんの出会いに高鳴り始めたのです。

高揚感と一体感と過ごした夏

そのイベントを知ったのは、もう少しでお盆休みに入りそうな夏の夜のことでした。

「本でみんなが元気になる『前橋BOOK FES』です」

仕事後にぼんやりとスマホでメールを確認していた私の目に、そんな一文が飛び込んできた。「ほぼ日刊イトイ新聞」から定期的に来るメルマガ「ほぼ日通信WEEKLY」。その中でイベントのことが紹介されていたのです。

バイク乗りが好きなバイクに乗ってきて集まるみたいに、音楽好きが野外フェスに集まるみたいに、とにかく『本で集まろう』というフェスです。
(中略)「誰かが読んでくれるならあげるよ」という本は、世の中にたくさんあるということがわかりました。(中略)「それを、ください」「前橋に集めましょう」なのです。で、そこに集まる本に出会いたい人もたくさんいます。ルールはまだよりよいものにしていくのですが、「持って帰ってください」がおおもとの考えです。

【ほぼ日通信WEEKLY 第104号】あのことがなかったら、いまの私じゃないかもしれない

本が大好きな自分としてはたまらない催しだと、すぐに感じました。少なくとも自分は100%元気になれるのは間違いなさそうです。本がたくさんあるだけでなく、それを持ち帰れるとな!? 
どんなイベントになるか想像するだけでわくわくしました。そして極めつけは糸井さんの最後の呼びかけでした。

「BOOKとROCKは、かたちが似てる。そんな気分で集まれ~」

【ほぼ日通信WEEKLY 第104号】あのことがなかったら、いまの私じゃないかもしれない

その思い付きも見事だし、ROCKという単語を使うことで本に興味がない人にも届くようになってる! 勝手ながらそんなふうに解釈して、多くの人を巻き込もうとするこのイベントに、ますますの好奇心が湧いてきたのです。

お盆明けからはイベントに向けたクラウドファンディングも始まり、ささやかながら私も協力しました。
不思議なことに自分自身は何もしていないのだけれど、自分もイベントの一員になった気分になれました。
事務局から来る一次目標金額突破や、前橋市の企業と協賛するリターンが増えていく通知を見て、イベントが大きくなっていく。フェス感が増していく。それが自分のことのように嬉しかった。
こんな気分になったのは学生時代の文化祭以来かもしれない。皆で協力して1つのものを作り上げていく、あの感覚。懐かしい高揚感と一体感で、夏の間は心の中がお祭り状態でした。

現地に行ったからこそ分かったこと

そして迎えた10月29日14時30分頃。
イベントが盛り上がりを見せている頃に会場に到着しました。今日しか参加できないので、後悔のないように選ばなければ!!
グリーンカーペットもといビニールシートにずらっと並んだ本の前にしゃがみ込み、1冊ずつ目を通します。
林真理子のエッセイ本の隣にはヨガの本、その隣には英語で書かれたガーデニングの本、更にその隣にはだるまと天狗の子供が描かれた絵本。あまりに混沌とした本の並びに、頭がくらくらしてきます。
「『燃えよ剣』はないんですか?」
「すみません、著者別に並んでいないんです。お目当ての本があったら1冊ずつ探していただかないと……」
隣にいた若い男性が戸惑いながら服にプレートをつけた女性に声をかけています。どうやら女性はボランティアで、本を並べるのを手伝っているようです。「分かる、混乱するよね」と心の中で男性に共感して気づきました。
自分の今までの本の選び方は婚活と同じだったということに。
 
Amazonであれ本屋であれ、本を買うときは小説、エッセイ、ビジネス書など、カテゴリー分けされた中から本を選んでいました。
本屋なら書店員、AmazonならAIによってある程度セッティングされた中での選択肢しか目に入っていなかった。だから本屋に行っても興味のない棚の前には行かないし、フィルターをかけられたように目に入ってきません。

しかしこの会場はどうでしょう? 全く違うジャンルの本が隣に並んでいて、こちらの意思とは関係なく、問答無用で目に入ってきます。
いうならば選びたい放題の自由恋愛方式。
今だって辻村深月の本を手に取ろうとしたはずなのに、隣の「月刊バレーボール」の表紙の大林素子が気になって仕方ありません。何なら深月を捨てて素子に浮気しても良いし、二股をかけるのだって自由なのです。この組み合わせだって、本屋やAmazonでは絶対にお目にかかれないでしょう。この混沌さこそが思いもよらぬ出会いを生み出すのではないでしょうか?
 
「お嬢さん、怖い話はお好きですか?」
ぼんやりとそんなことを考えている間に、年配の男性に声をかけられました。このイベントは個人でも出展できて、本を好きなだけ持ち込めます。彼のブースを見てみると、出す作品がレンガ本と呼ばれる作者の本やイヤミスで有名な作家の本が所狭しと並んでいました。
「大好物です!」
「では、これはどうですか? 殺し屋専門の食堂が出てくる話なのですが……」
「あ、これ漫画化もされてるやつですよね?」
しばらく頭の中には深月と素子がいましたが、次第に二人の存在は消えていきました。人の言葉で容易く心変わりしてしまう、これが恋愛ならば怒られてしまうところです。
しかし本の世界では出会いも別れも自由。同じく自分の直感を信じるのも、人に背中を押してもらうのも自由なはずです。本の選び方って、こんなに自由で良いんだと目から鱗が落ちた、開放感に満ちた気分になりました。
結局当日あった講演会や私は時間いっぱいまで本を選びました。 

お願い(「終わりに」に代えて)

結局このイベントでは8冊の本を持ち帰らせていただきました。

今回の戦利品(?)

イベント中に選書観が変わったおかげか、今まで読んだことのないジャンル・作家の本が大半を占めました。
夜のBOOKFES酒場にも参加させていただいたのですが、主催したスタッフの方にこの気づきを話したら「そういうことが起こってほしいなと思っていたんです」と嬉しそうに話されていて、こちらまでとても嬉しくなりました!

他の人にも同じような気付きをしてもらいたく、ぜひとも来年も開催していただきたい! 私本提供します!! 本がいらなければボランティアとしてでもいいので、来年のこのイベントに関わらせてください!!!(必死)

最後に一言だけ。
前橋BOOKFESよ、新しい本の選び方を教えてくれて、本とにありがとう!

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