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深夜の馬鹿力がくれた力


馬鹿力と長州力


力(ちから)というのはいいものだ。
体力とか破壊力とか長州力とか。

で馬鹿力。
子供の頃からはみ出し者で、自分を持て余したり感情の制御が出来なかったり、そのうえに育ちが悪くてどんどん鬱屈としていった。
元々そう言う資質の人間だったのだろう。

クラスの一軍に馴染めず、女の子にもモテず、フルーツポンチかプリンアラモードみたいには生きられず、数少ない仲間と一緒にあまり美味しくない山野草をグツグツ煮込んで雑穀で雑炊にしたような思春期を過ごして来た。
将来の夢はプロレスラーだった。
夜中まで起きてラジオを聞き、内村プロデュースを欠かさず見て、ワールドプロレスリングと全日本プロレス中継(のちプロレスリング・ノア中継)は録画して何度も見て、柔道場の投げ込みマットでオリジナル技の開発にいそしんだ。絶対に真似をしてはいけない。既に屈折率がプリズム並みだった私は自分で開発した技を柔道の強かったヤスオ君に頼んで自分でかけてもらい、マットに叩きつけられては満足していた。

そういう奴が本当にプロレスラーになり、カネの雨を降らせたり鎖を巻いてケーキでも食べれれば、これもまたいい話なのだろうが、あっさりと挫折。
地元に舞い戻って怠惰な生活を送っていた。
もう夢もない、体を鍛える意味も無い。
友達の組んだバンドに入れてもらい、ベースと作詞を担当して、売れやしないが楽しく過ごし、旅に出たり彼女が出来たり別れたりふられたりして、それなりに充実しているようで、何かが足りないまま生きていた。

そのうちに月日だけが流れて、世の中にはインターネットというものが発達し便利になっていた。知りたいこと、ふと疑問に思ったことなんかが即座に検索できる。答えの質や正誤はともかく、大抵のことはすぐにわかる。

たとえば、
よくテレビで見かけるあの伊集院光って元々なにをやってる人なんだろう?
とか、そういうことだ。

答えはすぐに出た。
ニッポン放送の深夜ラジオで人気が出た人で、現在もTBSラジオ
「伊集院光 深夜の馬鹿力」
をライフワークとしている。

1995年放送開始。
その当時だったら、もう深夜のテレビやラジオなんか見聞きしまくってた頃だ。でも何故か知らないままだった。
そりゃそうだ。我がCBCラジオはオールナイトニッポンを放送していたから。私も一時期、聞いてたもん。ナインティナインのオールナイトニッポン。
ちなみに中学生の頃、好きだったのは松村邦洋さんの本気汁(まじる)とタングショーで、ここでハガキ職人とかラジオネームというものを覚えた。
青梅市のライブ王2号さんが特に面白かった。
ステキなバカ24歳さんは今お幾つなのだろうか。

閑話休題。そんなわけでまだラジコがなくて、ネットで検索して
アーカイブ
とか
深夜ラジオ放送局
とかいって出てくるのも全部ブートレッグだった。中には如何にも公式っぽいのもあったけど、そんなわけがない。だって今に至るまで公式アーカイブ音源はおろか番組本の一冊も無いんだから。

初めは正直に言うと、そういう音源を聞いていた。
確かに面白かった。フリートークやコーナーだけをまとめたものもあって、ひっくり返るぐらい笑った。
でも心の中では後ろめたく、それ以上にちゃんと全部聞きたかった。
これでは「ラジオを聞いていることにはならない」と、子供のオレが年老いたオレを(おっ、布袋寅泰)睨みつけている。

https://www.youtube.com/watch?v=AiQ9BQiT0II

そこで私は考えた。
別れた彼女に頭を下げよう、と。

あの頃、横浜は弘明寺のマキちゃんという女の子とTHANK YOU & GOOD BYEしたばかりだった(布袋寅泰好きだなお前)。
幸か不幸か私にしては珍しく綺麗なお別れをさせてもらっていたのでお互い(たぶん)悪感情とかは無いのだが、ウィルコム越しにビービー泣いて別れ話をして半年ぐらいしか経ってなかったのでちょっと恥ずかしかった。同じ半年でも「半年で復帰するならプロレスラーの引退にしちゃ長続きしたほうだ」と今なら思うが。

まあしかしヨリを戻したいわけじゃないし、深夜の馬鹿力のためだ。
電話の向こうのマキちゃんは元気そうだった。そしてしばらくの無駄話のち用件を伝えると、
「また始まったか」
と爆笑された。マキちゃんは私が色んなことにのめり込むとどうなるか、身をもって知っているからだ。

空手と柔道の区別も怪しいほど格闘技には縁のないマキちゃんだったが、付き合っている間じゅう延々と名前を聞かされたおかげで
前田日明(まえだ・あきら)
という四文字だけは覚えてしまったこともある。
今でも時々、前田さんがニュースになるとメールをくれたりする。

そんな彼女が放送をMDに録音して送ってくれることになったのだ。
平成の終わりとは思えない手法だが、こういう時は結局アナログなのだ。MDがアナログと呼べるかは別として。

そうやってしばらくは音源を送ってもらい、お返しに長坂養蜂場の蜂蜜ぶんぶんラスクや三ケ日みかんジュースなどをお送りしていたのだが、それも流石に長くは続けられなかった。

漸くラジコが出てからは毎週、欠かさず聞くようになった。
配送の仕事をしていて移動の時間も結構あったし、聞きながら仕事が出来たのもよかった。
そうしてまた月日が流れて2016年11月。私は国道1号線を走っていた。
岡崎市は美合町のあたり。チャーハンの美味しい三国志という中華料理屋さんが見える交差点で信号待ちをしていたら伊集院光さんが
「えー、ペンネーム…ダイナマイト・キッド!」
と言ったのだ。私のことだ。
他人の、それも偉大なる伝説的プロレスラーのリングネームをそのまま拝借している由来やおこがましさはさておき、そこで読み上げられた
「楽しくない犬棒かるた・は行」
のネタは確かに、私が思いついて送ったものだった。

それまでもプロレス雑誌の投稿コーナーや週刊ジャンプのジャンプ団なんかにハガキを出してたことはあるけど、まさかここで読んでもらえるとは思ってもおらず。でも聞いているうちに思いついちゃったし送っちゃえ!と送ったうちの一つだった。

ラジコなので後からちょっとシークバーを戻して、そこだけ何度も聞いた。
こういうときラジコで良かったと思う。
ありがとうラジコ!
ラジオ放送全般の手柄をテメエのことみたいに言うあのCMはクソほどイケ好かないけど便利だぞラジコ!

このことに味を占めて勇気をもらい、それからも何かあまりにくだらないことを思いついたり、テーマに合致する形で世の中の気に食わないことを文章(ネタ)に出来たりしたときには、メールフォームからドンドン送り付けるようになった。
あの番組は面白い人がいっぱい居るし、ラジオネームからネタから、一体どんな生活をしているとそんなことを思いつくのか!と常々に思う。
テレビに出ている芸人の名前とか出してると通っぽいけど私はイケ好かないと思っている

そんで自分が読んでもらえるのは、そういう大爆笑ネタと大爆笑ネタのあいだに、スッと(こんなんもあるよ)と入れてもらえることが多い気がしている。今も昔も、そこでメインを張っている連中のかげでカウンターに属している方が性に合っているのだろう。

伊集院光さんにハマったのは、やっぱりそこに挫折や鬱屈を感じ、それでも努力を欠かさず、自分の性根に自分で首を絞められ七転八倒するさまをそのまま喋りの題材にしているところが取っ付きやすかったからだった。
全部が全部、本当のことを話すわけじゃないにしても、同じラジオ放送ならこれを聞きたいと思えるのが深夜の馬鹿力だった。

どういう番組なのかと言えば、例えばこの #好きな番組 という企画のお知らせを見た時、そこにズラッと並んでいる参加有名人どもの御芳名を拝見したときにも
「ケッ」または
「ヘッ」もしくは
「ウワッ」などという生体反応を見せたり、世の中のイケ好かない連中に向かって両目からドクダミ光線を放射しつつ暁のギエロン星獣かくのごとしとばかりにでりゃおおおおおう!と咆哮する(さてはお前、シーナ誠好きだろ)ような奴が聞く番組である。
要するに世の中の主流、キラキラした場所にはフルーツポンチの小豆の粒やチョコレートパフェのカサ増し用コーンフレークとしてすら紛れ込むことが出来ず、山野草の雑穀雑煮、しかもオーガニックとかじゃなく河原の土手でつんできたヨモギとかツクシ、みたいな場所である。
10年以上、愛聴している番組に対してあまりな言い草(おっ、野草だけに言い草?死にたい)だけど本当だから仕方がない。

旅情、人情、欲情のバランスがとても良く、しかし時々(往々にして)それらを自らぶち壊しつつ、何処で何をしていてもオレたちみたいな人間に生まれて育ってしまったからにはもがきながら生きるしかないんだよ、と。
そういう答えを、とりあえず聞かせてくれている気がする。ウンコ拭いた手で。

人間、誰しもが仕事や人生や私生活に大した目標や問題意識や改善案を持って暮らしているわけじゃない。
日々とりあえず楽しみがあって、
しんどいことやキツいと思うことを抱えて、
仕事なんか基本的に適当やって我慢して。
そうやってボンクラがボンクラらしく暮らしてゆけるのが、本当に豊かで余裕のある世の中だと思う。

誰もが意識の高いところで日々を彩り、小ぎれいな楽しさと感動を言語化したり写真に撮ったりして誰かの描いたモチといっしょに柏の葉っぱで巻かれて暮らすのなんかゴメンだ。

ボンクラはボンクラでもいい。
何か思いついたら送ってくれ。
一緒に謝ってやるから。

伊集院光 深夜の馬鹿力は、その番組そのものが私みたいな奴にとってのお師匠さん、長屋のご隠居みたいなもので、番組HPにあるとおり、
そういう連中の憩いの時間
になっているのだと思う。

頂いたカードは現在32枚。
写真を撮って自慢したいけど、
とてもじゃないが載せられないような絵面も多いので自粛する。

他に読まれた人たちは、あれを家や部屋のどこに隠しているのだろう。

#好きな番組

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