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未承認国家アブハジア

旧共産遺産という写真集以来、ファンである星野藍さんの作品
未承認国家アブハジア
という写真集。名古屋・栄の特殊書店ビブリオマニアさんに入荷しており、買いに行く機会を伺っていた。
冒頭に書いてある説明文によると、アブハジアという国は実際にあって今でも機能はしている。滅んでしまった国ではなく、条約の要項は満たしているモノの色んな国際的な事情から国家として認めてもらえない状態、なのだそうな。それが未承認国家。

前回のスポメニックのイメージから廃墟ばかりかと思ったらそうではなく、生けとし生きるものと廃墟、の言葉通り、人の営み、生活、温もりが包まれた写真もある。だけどやっぱり風景は茫漠としてモノ寂しいものが多い気がする。
ここで暮らしてる人がいる、国家として国際社会に承認されてるか否かと、自分たちが生まれて生きてゆくことなんてホントはカンケーないのにさ。だけどそれによって多分いろんな不利益や理不尽も生じているだろうし、オリンピックとかスポーツの国際大会とか出れるんだろうか、とかも考える。

元は同じ社会主義国家の一部だったから言葉もそれだ。だから英語でもなければなんだかよくわからない文字が並んでいる、奇天烈な姿の巨大な建造物を見ていると熱を出した時に見る夢みたいで圧倒される。海をイメージした公園とか、表紙にもなっている宇宙船のハッチみたいな廃墟とか、ホールかスタジアムみたいな建物とかも。
丘の上から撮ったのか丘陵地帯に広がる家、そのふもとのデカい廃墟、どんよりした空。
冒頭の文によれば雨の多い土地なのだそうな。

人、花、顔、空、海、動物。同じものを描くにもセンスやタッチがこんなに違うかと思うようなイラストやモザイクアートが目白押しになっている。中でも教会や公園のそれは特に印象深くて、アッチ側だった国や政治のプロパガンダとかルーツにこだわるのとはまた違った文化の歴史を感じる。ずっとこういう世界観のもとで生まれ育っている人たちの場所なのだ。

それにしても、廃墟やコンクリートの壁なんかには必ずスプレー缶の落書きがあるんだけど、それは日本もアブハジアも似たようなものを描いているように見える。
コッチじゃああいう落書きなんか99.9999%ぐらいの超高純度で視野に入れる価値もないようなものだけれど、向こうでも同じように思われてるのかな。

犬や猫も牛も鶏もいる。おじさんたちが食卓を囲んでいるところや、おばさんたちが市場で野菜などを売っているところもある。フツーに生活している人たちがいる。スマホ持ってるお兄さんもいる。スマホとか電波、ネットは使えるんだな。ホントに隔絶された地域、忘れられた場所というわけでなないんだ。

ただ、あの連邦のあった大陸が今こんなことになってしまって、アブハジアの人々はどう暮らしているのだろう?
どう思っているのだろう?
大きなお世話だろうし知ったところで別にどうも出来ないんだけど、そんなことも考えた。

チュルチヘラ、という、ブドウの果汁と小麦粉、ナッツ類などを使って作られる郷土菓子がある。見た目ちょっと不気味だそうだが、材料を見ていると美味しそうだ。
実際、星野さんによればこの国の料理は実に美味であったという。
食ってみてえな、知らない国の郷土菓子。海外の人がニッポンに遊びに来て、浅草で大福モチを食うような気分なのだろうか。

プロレスラーのスタン・ハンセンは神奈川県で暮らしていた時期もあるくらいで、ジャイアント馬場さんと時に戦い、時に組み、行動を共にする中で馬場さんの大好物だった大福モチやお饅頭が自分も好きになったという。日本に来るとデパ地下とかで、大福モチを買って食べることもあるそうだ。

そんな風にして、アブハジアの郷土菓子を買って食べて気に入ったところを想像してみるけど、果たしてよくわからない。ブドウの果汁ってのがまた異国情緒あふれまくりで想像を掻き立てられる。

赤ちゃんやお母さん、小さな男の子、カップル。
彼ら彼女らは、今もアブハジアで普通に暮らしているのだろうか。
この本が発行されたのは2019年だ。3年が経ち、赤ちゃんは子供に、子供はちょっと大きく、カップルは夫婦になっているかもしれない。

巻末に添えられた星野さんの言葉を、私もそのまま繰り返したい。
この激動と魂の国の行く末が幸多き事を。

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