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ファッキン・罰金・ガール

麗らかとは長閑ということ。
風が吹けば若い緑がまだ柔らかいため頭がゆれる。
今年の冬は例年より暖かく、バッタなんかは平気で冬を超えて自転車のカゴに隠れていたりした。
花粉や黄砂で空がすこし黄色。
おかげでみな鼻や目をぬらしている。
春を感じるのは桜だと皆いうが、私が住んでいた田舎では春になると田んぼに水が張られる。
稲を植える準備が始まるためである。
春満開と言える今に外で歩くこと以外で楽しむすべを私は知らない。
こんな生命をおびている風を光を地面を
のどやかで麗らかな毎日に感謝をこめて
春という日を実感していた。


1.みんなのヒーロー"ファイアーマン"
子供達といっても保育園に通うような小さい子が集まる中、舞台に3人の大人がほぼ裸のような格好で立っている。
顔と体に真っ赤なペイントをして所々に白と青のアクセントをつけて、
体の真ん中には乱雑に「火」の文字と背中にヒーローと白で書かれている。
私の子供が通う保育園はキリスト教を信仰していて園内に教会があったり、牧師がいたりする。
かと言って何か変わるかというと、そんなことはなく、イベントがキリスト教での聖書の出来事に関することになっている。
例えば、パンを作りそれをみんなで分けてたべる。それはキリストが わずかなパンをちぎって分け与えたら、何百人もが満腹になるほど配ることができて、さらにそのパンくずが籠一杯になったことからパンをちぎって配って食べ物に感謝するということしたり、
裸足で公園を走り回ったりなど。
そーやって子供達が知らない間に宗教や自然に関わって成長する姿はいいものである。
そして今日は年に一度の"ファイアーマン"と呼ばれている言わば子供達のヒーローが来る日である。
今年で40になるあかりパパは大手企業の社員として働く傍ら"ファイアーマン"をしている。
あかりパパは断れない性格というより、やる時はやる性格といったほうがあっている。
頼まれた時には腹にきめていた"ファイアーマン"としてのあるべき姿を想像していたとおもう。
ちなみに"ファイアーマン"は毎年違うパパが担当して次のパパに世代を繋いできた。
家族以外の場で半裸になることはなかったあかりパパは最初こそ恥ずかしがっていたが、
体に色を塗って舞台袖に立った時スイッチがはいった。
"ファイアーマン"が自分の中にふと入ってきた。
「火」の文字から染み込むように"ヒーロー"が体を乗っ取ったのを感じた。
腹を決めた時にはすでに子供達の歓声が聞こえていた。
"ファイアーマン"が登場した時の子供達の反応はまさに"ヒーロー"をみているような目をしている。
光を浴びるように立つ。
そこからの記憶はあまりないのだが、
練習したダンスを踊り、
子供達と握手したり、
リハーサル通りに物事を進めて行ったのだろう。
そして舞台から降り、今回の"ファイアーマン"が終わった。
"ファイアーマン"が終わるとペイントを落とすためにみなが同じ場所で体を洗う。
しかしちゃんと落とし切ることはできず、
それは前日に"ファイアーマン"をしていたのか、
はたまた"映画のジョーカー"かどちらかでしかないような色の残り方をしている。

「昨日よかったよ」

「ありがとうございます。このまま会社いけないですよぉ」

毎年そうやってお父さんたちは笑いをとる。
あかりパパは少し恥ずかしそうな顔をしているが、内心はすごく気持ちがよかったんだろうなあとおもう。
なぜなら本当に消そうとしているなら
なんとかして落とすからである。
落とさないということはそーゆーことである。
そうして年に一度のイベントが終わり、また次のお父さんに"ファイアーマン"が託される。
あの時見せた3人のお父さんは紛れもないヒーローであった。

ちなみに"ファイアーマン"という存在や話はキリストの聖書には載っていない、存在していない。



1.『1.2.3.4!ガジェット&天一さん!』


森姫駅から徒歩15分の住宅街から少し外れたところにある
"クリマタハウス"
そこは森姫に住む住民がほぼ全てと言えるほど使い、
日常生活で必要不可欠な場所である。
私はここで働く24歳アルバイトで
社員は二人とバイトが三人に店長の"クリマタ"でなんとかお店を回しているが
先日クリマタハウスは先日で二十周年を迎えて、感謝御礼で大セールを行っていた。
人の出入りは普段の三倍から五倍に増え、
明らかに人手が足りなくなることを考えていたが、
うちには秘密兵器がいる。

それが

"ガジェ天さん"である。


ガジェ天さんはこの忙しいセール中に
全ての業務をちょうど1/3〜1/5に時間を縮めることができる。
どうするか。
それは忙しい時にのみ発動するガジェットモードと言われる
ガジェ天さんの名前の由来の前半にもなったモードチェンジが発動する。
ガジェットモードを発動したガジェ天さんは
行動が3倍になり、口数も3倍になり、ムダも3倍になる。
「あ!すごい!はやい!」とその瞬間は思うが
無駄が多く、結果時間としたら一緒ぐらいになる。
そして声が3倍になる。

お客様 は

"おきゃくたまぁ!" に

かわり、

お次の方こちらはどうぞ は

自分で作ったタクシーの空車のマークの札を作り替えて、「次の方!」と光をつけて掲げ、


PayPayは"パイパイ"になる。


つまり

「"おきゃくたまぁ!!!!!!
     ピカ!(次の方)
   ピッ!ピッ!ピッ!
 3点で1520円です!!!!
 パイパイOKでぇす!!!!!」


となる。



休憩に入るとガジェ天さんは
絶対クリマタハウスの斜向かいにある天下一品でご飯を食べる。
これがガジェ天さんの名前の由来の後半である。
それをガジェ天さんはレギュラー満タンにしてくると言う。
とても暑苦しい。
いつもコッテリに煮卵をトッピングして、
店主がラーメンを作るより速く食べて出てくる。
これは店主も作り甲斐があるというものだ。
食べるのは7倍ぐらいはやい。
そしてなんなら店主も早い。
ガジェ天さんが席について注文をしたと同時にラーメンは運ばれる。
これは店主とガジェ天さんの間に生まれた信頼による匠の技なのか

黒渕の太メガネが白くなり、何も見えなくなっているはずだが、
そんなことはお構いなしに
綺麗に丸呑み。
そしてその後を休憩室で流れている相撲を見て
勝敗の記録を10年ノートにつけている。
このノートは相撲ノートと書きたかったのだが、
心が付け足され、想撲ノートと書かれている。
想いは同じなのだから良しとしているのであろう。
そんなガジェ天さんは休憩室のテレビをみて、ぶつぶつ言っている時がある。
私はつい反応してしまい、

「何がですか?」

と聞いたことがある。

「プリングルスの蓋無くした」

「あぁ」

ガジェ天さんはそう言いながら机の上を探し、
少し経ってから諦めてプリングルスをかき込むように口に運び始めた。

「欲しい?」

「いや、大丈夫です」



「やっぱりください」

「ん」


そっけない返事から2枚だけもらえた。
そしてテレビに目を向けると
海外の映画俳優が出ていた。
最近公開された映画の感謝祭がアメリカで行われている様子がうつる。

「ブラッドヘッドピットはアンジェリーナジョリーナと結婚したよねぇ」

「は、はぁ」

すぐにケータイでブラピとアンジェリーナジョリーのミドルネームを調べる。
案の定ブラピはブラッドピットである。

「テイラースウィフトウッドってアメリカ人?」

「知らないです」

テイラースウィフトウッドなんて人を。

ここでもまた一つ結論を導いた。
ガジェ天さんは人の名前を語感で覚えやすいように付け足してから頭に入れている。

そして何気なく胸ポケットからプリングルスの蓋を取り出し、蓋をしてゴミ箱に入れる。

そして休憩をあける2分前から出勤カードをもち、1秒の狂いもなく打刻をしてすぐに仕事に戻っていく。

ガジェ天さんの口の中にはまだプリングルスがあるのだろう。
むしゃむしゃ口を動かしながらガジェットモードになっていた。



「おきゃくたまぁ〜?」 



                  いじょ


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