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レンジローバーとかけましてシンディーローバと解きます。その心は…

まんせー。
少しこないだの話をしていいですか?
あれは…夏の始まり感じるような蒸した夜のことでした。


6月のはじめ、日中の雨が降った影響で今もなお湿気が街を覆っていた。
ほぼ雨と同じ不快感はこの時期特有のもので、
居酒屋のpopに書いてある
「ニラレバイタメ」
と変な日本語と同じぐらいの不快感である。
ちなみに中華だから余計変である。
話は前の続きになる。

1.みさきのお店無くなっちゃった。あれから
3/31に大きな地震が発生した。
みさきはアラビアータを作っている途中で、すぐに火を消して地震が収まってから実家の茨城に電話をかけた。父への電話である。

「もしもしみさきか!」

あ、お父さん!お家だいじょーぶ?

「あぁ、大丈夫だよ。そっちも大丈夫そうだな。」

うん。料理作ってた。

「そうか。そういえば…」

ごめん。彼氏帰ってきたからまた今度。

これからの話をしようとしたのを察してすぐに電話を切った。
今の彼氏は20歳年上のヨシという人で、
言われてはないが不倫関係であるのは雰囲気でわかる。
それでも良いと思っている。
あの日以来
なるようになる。なるようになるから。
と思って生きてきて、
結局はなるようにしかならないのだとおもった。
少し辛めに作ったアラビアータにチーズをかけて食べ始めた。
彼氏は来ていない。来たのは宅配便で最近雑誌が乗っていたサプリメントが届いた。
その段ボールをあけずに机の上に放り投げてすぐにベッドに寝転がる。
液晶に並ぶ自分より幸せそうな人を見て、自分がいる今の現実を受け入れられずにいる。
明日はユウコの誘いでキャバクラの体験があることを思い出して、少しゲンナリした。
気づけば夜になり、仕事へいくための準備をする。
無気力ながらもユニットバスの鏡を使ってイブサンローランの下地を塗り始めた。

ー翌日ー
仕事は朝まで続いた。私が帰る電車に乗ってるのはスーツを着た臭いおじさんが仕事に向かう時間である。
今日は昼にユウコを運転免許の更新につきそう約束をしている。
ユウコは自分のことを愛称で呼ぶ。

「ユンさ、運転おっかないからみさき送ってってよ」

うん。いいよ。

レンタカーを借りて一年ぶりに車のハンドルを握る。
ユウコと湘南へ旅行以来の運転に少し緊張もしていた。
無事に集合場所のKFCについた。
車を止め、電話をかけようとしたら逆に着信がかかってきた。
倖田來未の「愛のうた」に着メロを設定しているのはユウコである。
ケータイを開かずともわかるため、すぐに出て着いたことを伝えると、
2階から見ていたらしい。
そこから時間になるまで話をして、そろそろ出ようかとトレイに乗っていたゴミを片付けようとゴミ箱に触れた時だった。

ドバドバ

びたっびたっびたっ

みさきは何が起きたかわからない。
ゆっくり下を見ると血溜まりが二つ出来ていた。

えっ。

慌てて右手の甲を見る。
血は人差し指から流れていた。
KFCのゴミ箱は蓋を押すことで捨てることができる。
蓋アルミでできていて押した反動で跳ね返ってくる。
そのスピードは一昨日にネイルをした8センチほどの長さの爪を吹き飛ばした。

うそ…

爪がなくなっていた。

うそうそうそ…

慌ててトイレに駆け込みティッシュでぐるぐる巻きにした。

先に行っていたユウコから電話がかかってきた。
内容は車がないということだった。

どーゆーこと?

「いや、みさきの乗ってきた車ないよ?」

爪が剥がれて気が動転していなくてもわからない。

なんでなんで?

「多分レッカーされたんだと思う。
 ここの駐車場先払いだったっぽい。」

は!?

ますますわけがわからない。

ちょ、いまいくね。

実際にその場には車はなく、張り紙が貼られていて、その場所に電話をかけた。

ユウコは私が唖然としているのを横目に、彼氏にすでに連絡していて、
更新に間に合うかどうかを考えている。
15分ほどでユウコは彼氏の車に乗って去っていった。

あまり記憶はないが、キャバの体験の時間を確認していたとおもう。
そして、車を取りにいく。
重い足取りと頭の中に靄がかかっできた。
タクシーを使い、4000円もかかった。
そしてレッカー代と場所代で四万だと言われた。
そんなお金持ち合わせているわけもなく、そのままアコムに駆け込んで四万借りた。
もうどうせなら満額かりて豪遊でもしようかと思うような気分であった。
車を取り返してからすぐさま車を返し、そのままキャバの体験の準備をする。
ぐるぐる巻きにした人差し指のティッシュをゆっくり外し、痛みに耐えながら消毒をする。
一人暮らしを始める時に母親が持たせてくれた薬箱を引っ張り出し、なんとかした。

大きなため息をした。
部屋の電気をつけることさえ忘れていた。
薄暗い部屋の中で少しだけ泣いた。
指の包帯を見て、少しさすりながらケータイを探す。
大きく息を吸い、
また大きなため息をした。

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