見出し画像

『"FUCK神mili(ファクシミリ)"』

梅雨を感じる隙間ないような陽気は雨雲を吹き飛ばして図々しくも天高く、そして大きく、笑顔のようにそこに居座る。
随分と水分を取ってから外へ出る。
引き寄せ引き寄せとみな口を揃えていうが、
なぜこんなにも明るい毎日なのに明るい気持ちで歩くことができないか説明して欲しい。
私は夏を引き寄せてきただけで、不快感を引き寄せてきたわけではない。
私が好きな夏を少し。
夏はバレないように近づいてきて、振り向いた時にはもう夏になっている。
季節の言葉や物を表す季語は夏になると急にリバーサイドやオープンカーとかなんでもありになる。
日本の夏はイメージすれば虫で、固く黒く野暮ったい。
リュックにパンパンに荷物を詰め込み田舎から東京というジャングルに。
みさきは22歳を今月迎える。


①みさきのお店無くなっちゃった。蜜月

赤いスカートは肌にそうようにぴちぴちで短めで、その日から色味の担当は赤になった。
本当はピンクがよかったのだが、ピンクは私よりももっと派手な子が来ていたので、渋々赤になった。
コンパニオンのママから「ひとみ」という名前をもらい、つい先月から7人の"オンナノコ"の1人になった。
前の男から別れて伊豆に引っ越して、仕事を探すのに、伊豆新聞にデカデカと掲載されていたコンパニオンを選んだのに理由とかはなかった。
ただ気づいたら載っていた番号き電話をかけ、その次の日に面接をする流れになっていた。

「ひとみ!」

はい

「お客様の隣にいたらダメよ。対面で察してね」

わかりました。

コの字方に並べられたテーブルに外側に13人のおじさまたちが浴衣姿で座っている。
そして私たちコンパニオンは内側でお酌をして一緒に歌うだけでよかった。
みさきが思っていたコンパニオンとは少し違った。

なーんだセクキャバだと思ってたけど、移動式のスナックみたいなもんなのね。

たまにピンクと間違えてお触りしてくるジジイもいるけど、辛いとかそーゆーのはなかった。
しいて言うなら星座で居なければいけないのが辛いぐらいだった。
大体2時間ぐらいでみなベロベロになってきてそこから延長するかしないかで給料が倍ぐらい違う。
だからこそ楽しませたり、すこしのおさわりぐらいはゆるしたりした。

「ひとみあのデブによーに気に入られてたね」

最悪だったよ。浴衣からちんこ見えたんだけどイヤホンジャックぐらいしかなかったよ。

「ひとみまぢでウケる」

まやは私と同い年で同じ口紅持っていたことで意気投合してすぐ仲良くなった。
まやはこのコンパニオンを続けているのには理由があって、
ハグピーのおかげである。
ハグピーとは見てくれだけで言えば24歳なのにハゲで気持ち悪いさえないおじさんであるが、
まやが一度そーゆー行為までいったときに、ちんこが2段階に曲がっていたらしい。

原付の右折じゃないんだから

とつい突っ込んでしまうのも無理もない。
それがまやのベストの位置にきたらしい。
それ以来コンパニオンで曲がる"モノ"をもつ者を探しているらしい。
一度だけハグピーに会ったことがあるのだか、ほんとに冴えないハゲの老け顔だった。
そして軽い挨拶をしてハグピーにあだ名由来の話になった。

まやはなんでハグピーってよんでるの?

「え?ハゲグッドペニスが一回曲がったとかそんなんだったような」

「違うだろ。名前が葉口だからだろ」

気づいたら夫婦漫才をはじめられていて、気づいたら笑っていた。

コンパニオンに行く時は車で行っていた。
まやも同じでよく乗せていくこともあるし、乗っけてってもらうこともあった。
今日は団体が三名入っている。
繁忙期になれば散り散りになって交代でちょっと休憩に入りながらまわしたりする。
ようやく休憩が自分に回ってくるというところで、ナカイさんから声をかけられた。

「すみません。お車を動かすので、鍵をお借りします。」

次の団体のバスが到着したのだろう。
みんなの車をどかして停めようとしていたのはなんとなくよくある。
タバコに火をつけて明日の時間を確認していた。
休憩からあがるときにナカイさんが人を探していた。
どーやら私のことを探していたらしい。

どーしたんですか?

「いや、すみません。あの…えっと…。
 と、と、とにかくきてください。」

嫌な予感は車をぶつけてしまったのだろうぐらいに思っていた。

実際は車が半分になっていた。

いや、半分といっても真っ二つになったわけではない。
縮んでいたというのがいいか、
凝縮したというのがいいか。

私の車は生レモンサワーのレモンを絞った時のように濃縮してしまったのである。

濃縮したものは還元してくれなければ美味しく飲めないのだが、車は飲み物ではなく乗り物なので、還元することはできない。

へ?!
   …これは鉄屑ですか?

こんな事態にトンチンカンなことを聞いてしまうのは、現実から目を背けたいからである。
あとで何があったのかを聞いた。
要約すると
ブレーキとアクセルを間違えて駐車場の真ん中にある紅葉の大樹にぶつかり、焦ってバックをしたら、今度は後ろあったバスにぶつかり…
とそれを3回繰り返して止まったらしい。
運転手のおじさんは白目が無くなるぐらいめが赤くなっていて、頭から流れている血をタオルで抑えていた。

仕方なく家に帰ることはできないので、旅館に泊まることになる。
もちろんまやも一緒に。


                  いじょ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?