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【イベントレポート】これからの企業・個人に求められるソーシャルアクション(前編)

 2ヶ月に1回のギャザリング、One Hundred GIFTs(過去の開催内容は、こちら)。
2022年8月4日に開催されたテーマは
「これからの企業と個人に求められるソーシャルアクション」について。バラエティーに富んだ活動紹介で、あっという間の2時間半でした!
 
前半は、メインスピーカーに高山千弘さん(エーザイ株式会社)を迎え、ソーシャル・ビジネス探究家のカーン宇愛乃さん、GIFT・岩波を交えてソーシャルアクションについて対話しました。
後半は、ソーシャルアクションに取り組まれているゲストスピーカー4組にGIFT&ACTION実践内容を語っていただきました。社会のために、という熱い思いの活動紹介はどれも必見です。(今回の告知はこちら
 
この記事では前半部分をご紹介します!

高山氏・カーン氏が取り組むソーシャルアクションとは?&岩波を加えてディスカッション

■イントロ ~ソーシャルアクションについて~

岩波:こんにちは!GIFT&Actionも今回が3回目になります。みなさん感覚として「ソーシャル」という言葉を最近よく耳にしますよね。経済を伸ばすことと、社会的に良いことをすることのズレを感じていることだと思います。まさに後半の発表者は社会的な取り組みをされている方々なので、できる範囲で応援しましょう。

第1部は、ソーシャル・ビジネスとソーシャルアクションについて。経済合理性曲線の外側で取り残されている、マイノリティの部分は経済性がともなっていないのでなかなか手が出せない領域です。

でも私たちは人間なので、目の前に困っている人がいると当然、何かのアクションを取りますよね。こういったアクションをお互い応援したり、経済合理性の外側にあるものをどう動かし、マイノリティから何を学んで関わり合いを増やせるかが、非常に大きなテーマになっていると思います。

右:高山千弘さん(エーザイ株式会社)、左:岩波(GIFT発起人)

■高山氏より ~共感を基にしたエーザイ、ベンチャーでの取り組み~

今日、みなさんと共有したいのは「共感」です。経済合理性曲線の外側にいる、特に弱い立場にいる、病気の方、障害をもった方々から気づきをもらって、ビジネスにしていくことが一番重要なポイントで、共感がキーワードになると思っています。

私はエーザイ株式会社(以下、エーザイ)の中で、キャリアの前半は、アメリカ合衆国で世界初のアルツハイマーの薬の臨床試験などマーケティングを担当しました。その時に、認知症の方々に寄り添って、いかに共感してビジネスにつなげるかを学びました。そして後半は、社長直轄の知創部で理念経営を担当しました。

理念経営は、イノベーションを起こすことだとエーザイは考えています。一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生から世界で初めて知識創造理論を全社員向けに導入しました。全社員は就業時間の1%、年間約3日を患者様と過ごし、共感してビジネスを生み、ビジネスを通して患者様から得た思いをフィードバックして貢献する仕組みを作ってきました

先程、岩波さんが言われた経済合理性曲線の外側、図のオレンジ部分にいる方々は資本主義にとってはいらないと判断されています。しかし、エーザイは今から30年前に焦点を当てて“Human Health Care”という企業理念を作りました。その時に、利益の追及を目的としない、唯一の目的は弱者の方々から気づきをもらいビジネスにすることを宣言しました。資本主義は今、制度上も倫理上も大きな齟齬をきたしています。

実はアダム・スミスが国富論を語る前に道徳感情論を説いた時に、初めて「共感(Sympathy)」という言葉を使いました。つまり経済の発展のためには前提として共感が必要だと訴えていたのですが、それを完全に忘れていたのです。

野中郁次郎先生も、提唱する知識創造理論のSECIモデルの中で共感について語られています。実際に、人材の人間性の回復にもつながっているのを、現場の社員と患者様との触れ合いの中で見てきました。知識創造理論はイノベーションそのものであるとともに、ギリシャ哲学の「真・善・美」にも通じるダイナミック・プロセスでもあると言えます。

Forbesという雑誌にエーザイが理念経営で取り上げられた際に、利益目的ではなく患者様貢献が目的で、結果として利益を得ること、利益は大切ではない訳ではなく、目的と結果を逆にしてはいけないということが挙げられました。

エーザイがインドで実践する活動とSECIモデルの関係

エーザイの行う事業の具体例として、リンパ系フィラリア症の特効薬の提供があります。寄付だといつでも止められるのを続ける覚悟を決めて、プライスZEROと言ってビジネスとしてやっています。インド・バイザック工場の地域へ実際に社員が出向いて、患者様の大きく腫れた足をさすりながら話を聞いて共同化を行います。こういった方々と会う度に社員は意思を強くし、知識を深められます。

さらに私個人としてベンチャーとして取り組んでいることもあります。難病の方々のQOLが低く苦しい状況にある中、生活面から医療面、環境面まで全てのネットワークを結んでデータでやり取りする、オンライン診療などシステムを構築しました。利用は全て無料で、てんかんから始めて、これから認知症を含めた難病診療のスタンダードにしていきます。この取り組みのベースになっているのも共同化です。社員全員が認知症、アルツハイマーの方と触れ合って、豊かな感情をもっていることに気づきます

ベンチャーの事業では、一人ひとりのライフパーパスに気づく取り組みも行っています。人はパーパスというのは生まれながらにもっていますが、今の社会に適合するがあまりライフパーパスを忘れています。そして多くの方々はパーパスに気づかずにそのまま亡くなります。取り組みを通じて自分は何者で、どこにいるかを認識することで、自分のパーパスに気づいていきます

最後に、私の著書「共感が未来をつくる」という本の中で、住民主体の知識創造理論を実現したいと言っています。コミュニティをいのち溢れる場にしていくこと、そこから住民はいろんないのちをもらうことができたらと思っています。一人ひとりいきいきすることが大事で、知識創造理論を使った展開をこれからも続けていきたいと思います。

■カーン氏より ~ムハマド・ユヌス氏のソーシャル・ビジネスについて~


右・ ソーシャル・ビジネス探究家、カーン宇愛乃さん

よく似た国旗の二つの国、日本とバングラデシュのハーフとして福岡で生まれ育ちました。大学時代にグラミン銀行と大学の産学連携プロジェクトに参加し、社会に出てからは会社員の傍ら複業で分野をまたがって活動することから“ソーシャル・ビジネス探究家”、そして“Diversityの代名詞”と呼んでいただいています。

なぜ私がソーシャル・ビジネスを語るのかというと、バングラデシュと日本を行き来する中で、小学生の時、同年代の子どもたちが路上で生活したり、結婚して学校に行かなくなったりする状況を見て、なぜ同じ人間なのにこんなにも違うの?と、バングラデシュに帰省する度に衝撃を受けていました。ですが、その様子を日本で周りの友達や大人に伝えても全く伝わりませんでした。

「この差は何だろう?」と考える中で、環境経済を大学で学び、その差を埋められないかと思いましたが、いざ経済学部のゼミに入ってみると環境経済は先進国よりの考えで壁にぶち当たりました。
たまたまそのタイミングでユヌス先生の来学が決まり、イベントを主催することになりました。そこでソーシャル・ビジネスについて調べていくと、社会課題を実社会で解決するビジネスであると知り感銘を受け、結果的に卒論のテーマとしても扱いました。そして、2022年2月からは、ソーシャル・ビジネス実例勉強会を開催しています。

では初めに、ソーシャル・ビジネスと聞いて、どんなイメージを持たれていますか?チャットに書き込んでいただけますか?
ちなみに岩波さんはどんなイメージがありますか?

岩波:ビジネス化するのが難しい領域という感覚があります。まさにSECIモデルはそうしたところを扱うのですが、一般的には儲からない、気持ちだけが先行して疲弊しがちな感じですかね。

チャットでは、「社会性と経済性が両立するビジネス」、「社会問題の解決」、「ビジネスそのもの」というコメントをいただいています。

ユヌス先生が提唱するソーシャル・ビジネスは、「社会問題を解決することに完全に専念するビジネス」のことです。ここで「完全に専念する」というのが、岩波さんが答えられたように難しく、ミソでもあります。
ソーシャル・ビジネスの特徴は、手段としては補助金などを入れずにビジネスの手法を用いて自立・持続的であること、そして最大の特徴とも言えるのが利益です。配当を投資家に渡すのではなく社員の福利厚生や労働環境の改善や、次のビジネスに再投資することで利益を循環させます。

ユヌス先生は、「貧困のない世界を創る」という著書の中でソーシャル・ビジネスのコンセプトを語り、この本がきっかけで世界中にソーシャル・ビジネスが広まったと言われています。バングラデシュのグラミン銀行を創設し、マイクロクレジットという数千円の少額融資を村の女性たちを対象に始めて、90%を超える高い返済率で広まり女性のエンパワーメントを含め改革を起こしたことが認められ、2006年にノーベル平和賞を受賞されています。

貧困は過去のものであったという、「貧困を博物館に入れる」ということを掲げています。最近ではTHREE ZEROs(3つのゼロ)のイニシアティブで、「CO2排出0」、「貧困0」、「失業0」を目指そうと言われています。

ユヌス先生のいうソーシャル・ビジネスには7つの原則があります。先程の特徴も入っているのですが、一番大事なのは7番目の「楽しみながら(Do it with joyy)!」です。ビジネスをしていてタフな局面にいる時に大事なマインドで、ユヌス先生ご自身も大切にされています。ちなみにyが二つあるのはYou & Yunusの意味です。

日本には元々、三方好しの売り手良し、買い手好し、世間好しの考え方があるので、ソーシャル・ビジネスが広まりやすい環境だと言われています。また自利・利他の考え方で、ソーシャル・ビジネスをする中で自立してやっていくことはもちろん大事なのですが、利益が出てきた時に自利でTAKEするばかりではなくて、どういう風に利他でGIVE/GIFTしていくか、その境界線やバランスがすごく難しく、常に悩みどころだと思います。

世界の現状としてVUCAで社会課題の複雑化、行き過ぎた資本主義、あるいわエシカル消費などソーシャルな傾向を重視する傾向にあります。そこに対して、ソーシャル・ビジネスはたくさんの実例をもっているので、私たちにできることを考えたり、今後のビジネスの参考になったりするのではないかと思います。個人の活動としてソーシャル・ビジネス実例勉強会を開催していますので、ご興味あればぜひご参加ください。

【高山氏×カーン氏×岩波による対話】

岩波:ユヌス先生のいう7つ目の原則が大事だなと思っています。GIFTの母体である非営利株式会社eumoも、株主にインカムゲインもキャピタルゲインも配当しないと定款でうたっています。出た利益は社会に再投資する仕組みで、根底はユヌス先生の7原則と全く一緒で半分くらい遊びの雰囲気を大事にしています。悲壮感やならぬの気持ちが強いと続かないと思っています。

高山さん:私もユヌス先生の7原則の7番目が大事だと思うのですが、一体誰と楽しむのか?活動の対象となる方だと私は思います。現地で苦難を持ってる方々が、その時に貧困だから幸せじゃないと思うのは行き過ぎています。現地に行って対象になっている方々と一緒になって共同化して気づいて、その方々になにが必要なのかを考えて、一緒になって作り上げていく必要があると、7番目の楽しむという言葉で痛感しました。

岩波:今の現代社会の価値基準でいう弱い立場にある人たちと一緒になって楽しむ、そこだなぁ!と思いました。

カーンさん:まさにその通りだと思います。高山さんのお話の中で、弱者に寄り添う、患者様のお話をよく聞くとあって、そこでかわいそう、手を差し伸べるという思いでいると立場の差ができてしまうように感じます。本当はそうではなくて、人間としては等しいはずなので、楽しんでどうやって一緒に作っていこうか、タフさがあっても一緒にトライしていこうね、ということを感じていました。

岩波:そういう意味でもいろんな人がソーシャル・ビジネスに関わるべきだと思います。私たちは資本主義経済的な物の見方に慣れ過ぎて、評価基準もその中で出来上がっています。救わねばならぬ、と思ってしまっていますが、そこに疑問をもつ機会になると思います。貧困と言いますが、お金で計った時に貧困で生活に困ることがたくさんあるけれど、実際にお金があっても精神的な豊かさはあるのか?
ソーシャル・ビジネスに関わることで自分のもっている常識の外側を見ていくことになると思います。外を見る感覚がないといくら持続可能な社会、SDGsと言っても、根本的な解決にならないと思います。自身の幸せ、人間的成長のためにも関わってほしいですし、本当に自分が大切にしたいことに対して行動を起こすことが、結局はソーシャル・ビジネスにつながるかもしれません。

カーンさん:高山さんにお聞きしたいのですが、患者様のお話を聞くときに、何を心掛けていますか?

高山さん:内在的な自己になります。外在的な自己を捨てて、心を開きます。私たちは日頃、自分の弱みを相手に知られたくないと心を閉じています。内在的な自己の場合は、自分の弱みを相手に知らせるくらいの気持ちになって心と心が開いて、空いたスペースにどうぞ入ってくださいという相互主観になって、感情まで流れて暗黙知の交換が起こります。この状態を共感と呼びます。共感は無意識で、意識的になると同感になります。

岩波さん:エーザイさんが素晴らしいのが、年3日間でこれを実践して、トレーニングをされているところです。これからの人類にとって大事なことだと思います。私たちは人と関わる時に色眼鏡をかけて何らかの判断をしているので、その存在自体を感じることが難しいですし、意図的に経験しないとできない。ここがソーシャル・ビジネスの原点なのかなと思います。

【登壇者からのメッセージ】

カーンさん:今日は「楽しんで(Do it with joyy)!」が大事とお二人からもあったのですが、みなさん日々生きる中で、すぐ今日からでもできることだと思います。7原則全て実践したビジネスを、ということに頭が行きがちですが、先ずは個人でできることをやることがすごく大切で、ぜひ今日これからDo it with joyyなことをしていただけたらうれしいです!

岩波:さっきカーンさんにソーシャル・ビジネスのイメージを聞かれて、結構大変だと言ったのですが(笑)そうした面も実際にあるのですが、ソーシャル・ビジネスを重く考え過ぎなくて良くて、経済合理性など今の社会で一般的に言われている常識に対して、高山さんが言われていた内在的な自己、本来の自分でいられるちょっとしたアクションをしてみる、ただそれだけだと思います。自分が大事にしたいことに対して発言をしてみる、実践している人をちょっと手伝ってみる、初めはそんなレベルで全然良くて、一人ひとりがやるだけで結構いろんなことが変わってくると思います。一緒に応援し合える仲間になれたらうれしいです。

高山さん:私たちは自分自身に共感する「自己共感」に距離が離れています。自己と共感することは、実は過去の経験からできます。多くは困難な時に、本当の自己と出会っているとハイデガーは「良心の呼び声」というヒントをくれています。過去の困難な自分を思い出しながら観察しながら、昔の自分と今の自分の自己共感すること。なぜ過去の自分への共感が重要かというと、ライフパーパスにつながる可能性が高いからです。ほとんどの方は社会適合で、こうしなければいけないと生きて終わってしまうのですが、自己共感の中から、見出すことができます。辛いかもしれませんが過去の困難な時の自分を思い出してみることが大事だと思います。

*後編のリリースもお楽しみに!以下の動画では全編ご覧いただけます。

【動画はこちらをご覧ください】

【ご案内】

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□次回ONE HUDRED GIFTS
2022/10/26(水) 13時-14時30分
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~自律分散化する社会の中で今後大企業が果たす役割は?~

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