最近読んだ本の感想


最近読んだエッセイなどの感想です。

宮本輝 吉本ばなな『人生の道しるべ』(集英社)

 宮本輝さんと吉本ばななさんの対談の本です。宮本輝さんの前書きから、吉本ばななさんのあとがきまで、とてもよかったです。
 小説家さんって、文章が上手い人というより、世界からたくさんの事を見て取る人なんだなぁとお二人の話から思いました。他作品にたくさん触れるからだけじゃなくて、どれだけ普段から環境や人から感じ取っているか。言葉になるもの、ならないもの、どちらも。
お二人は、幼いころの私が憧れていた「老成した人=一言に深みのある人」に近い方々に感じました。
 本の内容で、職人さんは5年、10年のスパン、いえそれ以上、子孫の代までをみておられるといった話がありました。「これは2、3年干したやつ」「10年前の~」のような、脈々と受け継ぐこと前提の、日々に乱されない長期の視点。すごくかっこいいなと思いましたし、そこまで見えていたら、ゆったりと生きられそうです。
 他に心に残った内容は、文学とは自分の小さな庭で丹精に育てた花を、一輪一輪、道行く人に差し上げる仕事だという柳田国男さんの言葉です。いいなぁと思いました。

辻村深月『図書室で暮らしたい』(講談社)

 私になくなったのは、若さかもしれません。このエッセイを読んで、中学生の頃、小説に熱狂していたのを思い出し、また、小中学校で一番長い間仲良くしてくれた子と卒業から疎遠になってしまった事を思い出しました。何かあったわけではなく、卒業式で連絡先交換が上手く出来ていなかっただけです。思えば何度かあった連絡できるチャンスを逃がしたのを、もったいないことだとは少しも思わずに。
若いころはそうやって縁を簡単に手放してしまう、ということが本に書かれていたので、思い出して懐かしくなりました。
 辻村深月さんの、本への愛を読んで、私の中高生時代を肯定してもらえた気がしました。私は「現実逃避」で本を読んでいたのだと思っていましたが、辻村さんは、それが「現実」だったと言われていました。いいんだ!そう思うと、中学生時代もあれで良かったと本心から思えるようです。徹底して若い子たちの味方をしてくれるような辻村さんの言葉。すごくかっこいいと思いました。本を読んで感動した、あの熱い思いが思い出されました。あれは!若いころだけのものなのでしょうか?逆にそういう熱いものを作る事は出来ないだろうか。辻村さんが好きな作家さんのサイン会に行かれたり、ファンレターを何通も送ったりされた話を読んで、すごく行動力を感じました。私も行動できるかも!また、自分もなにか作りたい!と読んで強く感じることが出来ました。読後も、想像した、辻村さんがおじいちゃんおばあちゃんの家のすももの畑で本を読まれる光景が頭に焼きついていました。

西加奈子『まにまに』(角川文庫)

 熱かったです。前半部の関西弁の混じったツッコミも入るエッセイは初めての感覚ですごく面白くて、どんどん読み進めてしまいました。短いエッセイのなかにぎゅっと詰まっていて、テンポも軽快で、楽しかったです。すごいなぁ、面白いなぁ、エッセイ。小説以上に、書かれる方の個性が表れる感じがします。紹介されていた海外作品、すごく読みたくなりました。
 西加奈子さんが、友達と会う前に待ちきれずに友人たちとの会話を頭の中でシミュレーションすると書かれていて、なるほど!すごい想像力!!と感心していましたが、よくよく考えると、私も何かしゃべりたいことがあると、一度脳内でしゃべる癖があったことに、この本を読んで初めて気付きました。
 西加奈子さんは、日常で周りの人を見て、そこから物語を想像されていました。現実と物語世界が地続きといいますか、すぐに行き来できるくらい近くにある世界なのかなと感じられました。
 また、年齢を重ねることをすごく前向きに捉えられていて、「シャツが似合うようになってきた、首のしわも良い感じ」という風に言われていて、新鮮に感じました。私もそうなりたい!と思いました。

上橋菜穂子 津田篤太郎『ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話』(文藝春秋)

 上橋菜穂子さんと津田篤太郎さんの往復書簡です。
 内容は生と死についてが中心のようでした。この本に書かれたたくさんの事を、すごく驚きつつ心震わせて読みながら、自分の中で消化して理解しきれたかと言われると、まだ手に取れないふわふわとした物体のようです。
 印象的な蓑虫の話がありました。蓑虫は成長すると口を失い、卵を産んで死んでいくそうです。人も同じでしょうか。子が生まれ、育てて、死に向かう。遺伝子をつなげるために人は死ぬ。そうやって地球で生きてきたのか、と思いました。生まれた時から、死に向かう機能を体に持っている?
 読んでいる時のイメージは、地球を外から眺めてそこに人が多数いるものと、自分の目線とを行き来する感じでした。「人全体」と「個人」を交互に考えるふうです。普段は自分たちの視点、個人だけを見てしまうことが多いので、人全体で考えるのは新鮮でした。
でも、それでは個々の人は割り切れないと上橋さんは言われます。体は生きて、死に向かわせるけど、心は簡単にはいかない。生きるのに苦しみ、死を恐れます。
心と体、そして死、読んで様々考えましたが、自分の中でまとまるまで少し時間がかかりそうです。またもう一度、読みたいです。

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