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川下りで転覆、その時何を思ったか

去年、一昨年と夏にパックラフトのツアーに参加したあと、今年の3月頃に自分のパックラフトを購入し、川旅を始めました。

当初はのんびりゆったりツーリング目的で、写真を撮ったり川辺でキャンプしたりという想定でしたが、思いの外激流を攻めるのが楽しくなってしまい、そういった川を下るのも楽しむようになりました。


今回は、初めて激流で落水して、水中に放り出された瞬間に頭をよぎったこと、岸に上陸するまでに考えたこと、振り返って思った事のお話をします。

専門的な話をするつもりではないので、なるべく用語などは一般化してお話をします(パックラフト→ボート、沈→転覆 など)


ボートがひっくり返った、その時。


進行方向、ボートの向きに対して横からの流れを受けて、あおられるようにボートが浮き上がり、踏ん張ることもできずそのまま右から転覆、川に落水しました。

これまでいくつかの激しい流れの川を下ったことはありましたが、実はボートから落ちたことは一度もなく、これが初の落水となりました。

水面にたたきつけられるまでの瞬間に思ったことは
「やべっ」
という多少の焦り。やってしまった、失敗した、という気持ちでした。



ボートを手放さないように捕まる

約2秒。
落水後、僕は約2秒間水中にいました。

まず思ったことは、一刻も早くボートから脱出すること。
腰から下はボートの中に納まっているので、そのまま転覆するとボートに蓋をされて逆さ吊りの状態で水中に潜ることになります。
なので、まずやることは足を抜いてボートから脱出すること。
がむしゃらに足をばたつかせて蹴って、ボートから足を抜きます。

次に襲ってきたのが、落水のショックと焦り。
落ちた直後でなく、落ちてボートから脱出した後に、焦りに襲われました。
自分が今いるのは川の流れが荒く激しい瀬と呼ばれる区間。
そこで水中に放り出されたことによるショックや、単独行動で起きたトラブルに対する心細さが焦りとなって襲ってきます。

焦った勢いで、左手に握っていたパドルを一瞬水中に手放します。
両手でボートにしがみつきたい衝動にかられたためです。

しかし、ここで過去にツアー参加した際に教わった、落水したときの対処法を思い出します。

・パドルは絶対に手放すな
・ボートを掴んで離すな
・体を仰向けにして足を上げろ
・そのまま流れが緩やかなところまで流されろ

パドルは離してはいけない。
そう脳裏によぎり、僕は再び水中でパドルを握ります。
そして水面に顔をだしてボートにつかまるため手を伸ばします。


この間、映像にして2秒の間にこれだけのことが脳裏によぎり、様々な感情が動きました。


川岸まで泳ぐ間に考えた、これからのこと。


平泳ぎのように水を蹴って川岸へ向かって泳ぐ

仰向けになって足を水面に上げるのは、水中の岩に足をぶつけたり挟んだりして怪我をしないためです。

ライフジャケットを正しく着用していて、ボートを掴んでいればまず体が沈むことはないので、川岸の方向を確認して水を蹴り、上陸するために泳いで移動を始めます。

上陸までの間に危惧をしたのは、荷物のロスト。
僕は自分が座っているボートの座席の後ろに、防水バッグに入れた荷物をひとつ積んでいました。
その防水バッグには財布やカード類、スマートフォンが入っていました。

仮に、このバッグが沈んでしまっていたら。
自宅から250km以上離れた場所まで遠征しに来て、財布もスマートフォンも無しで、一体どうやって家族に連絡を取り、どうやって帰宅すればよいのだろうか。
この事が何よりも恐ろしく、僕を不安にさせました。

その場で荷物の所在を確認できるだけの余裕もなく、とにかく川岸に辿り着くことで精一杯。
たとえ荷物を失ったとしても、無事にこの身があることがなによりも大切で、生きていればきっとどうにかなると自分に言い聞かせ、荷物のロストの恐怖を紛らわそうとしました。

落水したショックからか、はたまた荷物を失う恐怖からか、僕の呼吸は荒く、上陸まで落ち着くことはありませんでした。


全て無事だった。奇跡だと思った。


水面に浮かんだ荷物はボートの座席空間に引っかかっていた

防水バッグは水面に浮いていて、転覆したボートの座席空間にはまったまま、僕と一緒に流されていました。
沈んでもなければ、荷物だけどこかに流されていったわけでもなく、無事僕の手元にありました。

「よかった、あったぁ…。」
と、心から安堵の声がもれました。

腕時計も、現在地を確認するためにGPSナビも、首に下げていたフィルムカメラも、全て日頃から水没を想定して選んだ道具なだけあって何一つ故障なく、失うこともなく、全てが無事でした。

これは奇跡だと思いました。

それと同時に、日頃から準備を怠らなかったこと、落水したときの事態を想定して備えてきたことが間違っていなかったと、これまでの自分に感謝をしました。
落ちたら自分を助けるのは自分しかいないから、と仲間が言っていたのを思い出して、その意味を嚙み締めました。


初めての落水を経て、次の落水に備える


川下りを始めたときから、いつかはきっと落水すると思いながらもこれまで落水することなく乗り越えてきて、どこか油断をしていたところはあった事でしょう。

自分の技術力や判断力がまだまだ未熟であると自覚しながらも、より厳しい挑戦を乗り越えてこそ成長できると信じて、様々な川に挑戦してきました。

落ちない方がいいとはわかっていながら、やはり落ちてみないとわからないことも沢山あり、今回はとても勉強になりました。


初めて落水を経験して、そこから得た教訓がいくつかあります。
まず、財布(すくなくとも帰路に必要なお金)とスマートフォンは身に着けておいた方が、その後安全であるということ。
これは、荷物が沈んでしまうかもしれないという事を身をもって感じたからこその教訓です。
次回以降は防水対策をしてライフジャケットのポケットに仕舞っておこうと思っています。


また、ライフジャケット、ヘルメットの重要性を改めて知った機会でもありました。
いつか必ず落水すると想定の上でライフジャケットとヘルメットの着用をするのは、いざ落水したときのおおきな安心材料となります。
僕は今回落水してみて、溺れてしまうとは一切感じませんでした。
それは、安全基準を満たしたライフジャケット、ヘルメットを正しく着用しているという自負があったためです。
それらを正しく着用して、ボートに捕まっている限り、絶対に体が沈むことはない、溺れることはないとわかっていたから、慌てて暴れたりもがくことなく、冷静に気持ちを切り替えて今すべき行動をとることができたのです。


過去に何度もプロのインストラクターの指導を受けていたことも、良かったと思えるポイントでした。
口酸っぱく落水した時の対処を聞かされていたので、いざ落水したときに何をすべきか一切迷うことなく行動に移せたのは、指導を受けていたおかげだと感じました。


日頃から激流を攻める熟練者の方々にとっては、たかだか一回の落水でなにを、と思われる話かもしれません。
しかし、自然相手に初めて負けた瞬間の恐怖というのは、いくら情報を見聞きしていても、やはり経験することではおおきな差があります。
初めて落水した経験から学んだこと、備えてきた準備が実を結んだことを記録として残して共有することは、たいへん意義のあることだと思っています。
僕は今回の失敗から、次に繋げる大きな学びと自信を得ました。
この経験をもとに、次の川旅をよりよいものにできればと思っています。

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