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クロモリロードに2年乗って分かった「幻想」と「現実」

クロモリフレーム。

イマドキのカーボンフレームにはない、細身の鉄パイプで構成された、100年以上の伝統を受け継ぐシンプルなルックス。
その気になれば、カーボンやアルミでは難しいフルオーダーメイドで自分だけの自転車を仕立ててもらうことだって可能だ。
ロードバイクに乗る人なら誰しも一度は興味を抱き、芸術的なラグワークや地平線と同化するホリゾンタルトップチューブに憧れたことがあるかもしれない。

そして、そこに常について回るのが、まことしやかに語られる「クロモリ特有のバネ感・しなり」「乗り心地が良い」「ロングライドで疲れにくい」「登りは辛い」といったステレオタイプな噂話。
筆者も、クロモリロードに跨ってライドに出掛けた先で、他のサイクリストから「乗り心地いいの?」「やっぱり重い?」などと訊かれることがままある。

先日、こんなツイートをしたところ、ちょっとした反響があった。
リアクションとしては「うん、そうだよね」から「そうなの!?」まで様々。

この記事では、「2台目以降にクロモリフレームが気になってるけど、乗って感じる重さとか、乗り心地とかどうなのよ?」という方に向けて、やはりクロモリフレームに憧れを抱き、実際に所有して2年と少し、日常のライドからブルベ、ヒルクライムレースに至るまでクロモリロードで走った私が感じたクロモリフレームの「現実」を、ありのまま、完全主観でお届けする。

※この記事は、特定のフレーム素材を賛美したり、貶めたりする意図のものではありません。あくまで100%私の私見と主観です。
※本記事は、Payanecoさん(@gunma_no_yaro)主催の「ロードバイク Advent Calendar」12/6担当記事です。
昨日12/5はoage_on_foxさんの「自転車の洗車サービスを使ってみよう」
明日12/7はちーたんさんの「激坂攻略またはニコ動の自転車担ぎの流行に関する考察」です。

私がクロモリに至るまで

2019年5月、メインバイクのGIANT TCR ADVANCED PROのメインコンポーネントをR8000アルテグラ(ワイヤー変速)からR8050アルテグラDi2(電動変速)に換装した。
R8000で採用されているシャドータイプのリアディレイラーは、フレーム後端からワイヤーが出るTCRでは取り回しが窮屈なため摺動抵抗が大きくなり、変速性能に不満があったためだ。
これでワイヤー変速のシフター、前後ディレイラーが余った。

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▲TCRのRD部のアウターケーブルの取り回し。
コレはちょっと無理が……

そして期を同じくして、R9100デュラエースのパワーメーター付クランクを導入。取り外したR8000クランクが余った。
ここまで来たらもうついでに、とブレーキキャリパーもR9100デュラエースへアップグレードし、R8000の前後ブレーキが余り、手元にワイヤー変速のR8000アルテグラ一式がまるまる余る形となった。

コンポが一式余っている、となれば「じゃあ一台組むか」となるのが自転車乗りの性。いわゆる「パーツからフレームが生える」というやつだ。
ちょうどTCRと方向性の違うセカンドバイクを検討していたこともあり、20万円程度までのフレームセットを購入し、手持ちのコンポ+@で組む計画を立て始めた。
用途は日頃のロングライド。これからブルベにも挑戦したい。本気で走るときはTCRを使うけど、鈍重なのはイヤだ。そこそこ軽快に登れるフレームがいい。なおかつ、前述の理由でリアディレイラーのアウターケーブルの取り回しが窮屈でないフレーム。
Specialized Allez Sprintあたりの軽量アルミか、CARERRA ER-01あたりのお安めエンデュランスカーボンか……などと考えていた折。
何気なく開いたPanasonicのオーダーシミュレーターで、ビビビッと電撃が走った。

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これだ!!!
パールホワイトに差し色のペールブルー。
完全に一目惚れ。もう重さなんてどうでも良い。
しかも納期はオーダーから14営業日、約3週間ときた。自分だけのカラーオーダーのフレームが、欲しいと思ったときにすぐ手に入る。最高じゃないか!
フレームのデザインが固まると、各パーツ選択の構想もバチっと閃いた。

そして数週間後。

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生えました。

筆者のクロモリロード

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Panasonic FRCC22、いわゆる「パナモリ」。
パイプはカイセイ8630Rのオーバーサイズ。クロムモリブデン鋼にニッケルを添加した軽量高剛性なパイプで、Panasonic曰く「十分にレースで闘えるスチールバイク」とのこと。
クロモリとはいえ軽快にシャキシャキ走りたいという思いから、Panasonicのラインナップ中最軽量(フレーム重量約1,700g)かつ高剛性なモデルを選択した。
コンポは前述の通り、TCRのお下がりのアルテグラR8000。ハンドル・ステム・シートポストはフレーム同色のパールホワイトに拘り、東京サンエス(Dixna・OnebyESU)をアセンブル。トップキャップやバーエンド等の小物も白に拘り、爽やかな外観を目指した。
完成車重量はペダル込で約8.4kg程度。ヒルクライムレース出場時は軽量パーツやタイヤ、TPUチューブなどを使用し7.8kg程度まで軽量化した。

なお、本記事にて比較対象となるカーボンバイクは、GIANTのTCR ADVANCED PRO 2018年モデルのサンウェブチームカラー。
完成車からフレーム以外ほぼすべてのパーツを交換し、重量はペダル込で約6.8kg。

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近頃、YouTuberのISSEYさんがS-WORKS Tarmac SL7とのヒルクライム対決動画を公開し、その結果が話題を呼んだ一台だ。

筆者が所有した事のあるロードバイクはこの2台+エントリーグレードのアルミロードの3台であり、他のバイクに乗った経験は試乗程度のみである。
あくまでこの2台に限った主観であることをご了承頂きたい。

幻想その1「クロモリは重い?」カーボンバイクと直接対決

クロモリフレームを検討するにあたり、まず真っ先に気がかりになるのがその重量だろう。
当たり前だが、登坂においては絶対的に重量が軽い方が有利だ。よって世の自転車乗りは十数グラムの軽量化に血眼になり、「100g=1万円の法則」などという言葉(100gの軽量化には1万円の費用を要するという意)も存在する。
そして、クロムモリブデン鋼の比重はおよそ7.8、対するカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)の比重はおよそ1.4~1.7。
この事実が覆ることはなく、クロモリロードはカーボンロードより概して1.0~1.5kg程度重くなる。

では、実際に同じ乗り手が同じ峠を全力で登ると、クロモリロードとカーボンロードではどの程度の差が生じるものなのだろうか?

都民の森をクロモリロードとカーボンロードで登ったデータが以下の通り。
都民の森は東京近郊で1時間程度のヒルクライムができる稀有なスポットで、コースプロフィールは距離20.54km、平均勾配は3.5%となっているが、前半は登り基調のアップダウン区間、後半は斜度7~10%程度の本格的なヒルクライムとなる。

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▲TCR:51分40秒 平均パワー261W
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▲パナモリ:54分24秒 平均パワー260W

ほぼ同じパワーで登って3分弱の差。
なお、この時履いていたホイールはTCRがアルミリムのFulcrum Racing3 c15、パナモリがカーボンリムのGIANT SLR1。ホイールが異なる上、日付も9/7と10/26と離れており、気温や風等の気象条件も異なるため、全くもって対照実験とは言えない参考データだ。

ちょっとこれだけではよくわからない……と思ったところ、ホイールをFulcrum Racing Zero Carbonに揃えて、2020年の9/23と10/3、割と近い時期に登ったデータがあった。こちらのほうがまだフレーム性能の比較としては適切か。比較してみよう。

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▲TCR:50分56秒 平均パワー272W
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▲パナモリ:51分49秒 平均パワー277W

ホイールは同一で、平均パワーが5W高くても1分弱パナモリの方が遅い。
数値上はクロモリがカーボンより劣るのは分かった。では体感としてはどうか。

カーボンのTCRは、BB周り、ヘッド周り共に非常にガッシリとした造形をしており、それは走りにも如実に現れる。不快な突き上げはいなしつつも無駄なしなりは無く、踏み込めば即座に反応し加速する。淡々とペースを刻むような場面では、ひたすら「スーーーッ」と路面に一本の線を引くが如くまっすぐに進んでゆく。

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一方パナモリは、BB周りは昔ながらのねじ切りJISにヘッドは1-1/8"の上下同径。
高剛性なカイセイ8630Rとは言え、シェル幅の広いBB86や上下異径のテーパードヘッドを採用するTCRと比べれば、剛性面は当然分が悪い。登坂ではBBからリア三角にかけてしなり、身をよじるように進むのが分かるし、高速ダウンヒルではヘッド周りの剛性不足を感じることがある。

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「しなりによるバネ感」という言葉がクロモリフレームを語る際によく用いられるが、フレームのしなりが加速力を増幅することは物理的にあり得ず、踏み込んだ際のしなりが戻る際にわずかに遅れて現れる加速感を錯覚しているに過ぎない。
また、急勾配の登坂ではフレームセットでおよそ1kgという重量面のビハインドも重くのしかかる。
体感でもまた、楽に登ることができると感じるのはカーボンフレームだ。

ただし、「気持ち良く登ることができるか」という視点に移ると、評価はまた変わってくる。

峠をいくつも超えるようなロングライドにおいて、マイペースに峠を登っていると、TCRはどうも踏みごたえが軽く、クランクがスコスコと回りすぎてしまうような印象を受けることがある。
楽に速く登ることができるが、自転車から「僕は踏んだ分だけ進むよ、もっと回せよ」と尻を叩かれているような乗り味。のんびり走るには少し忙しなさを感じるきらいがある。正にレースバイクといった趣だ。
一方のパナモリは、そのウィップ感と高すぎない剛性で、ゆったりと走るような場面ではより人馬一体感を感じることができる。「まぁ、焦らずゆったり行こうぜ」と語りかけて来るような乗り味で、自分が思った以上に進みすぎたり、乗り手の尻を叩いてくるような印象もない。

上で示したタイム差を「なんだ、その程度か」と取るか、「そんなに違うのか...…」と取るかは人それぞれだ。
「今年はあのヒルクライムレースで絶対に〇〇分切りをするぞ!」と意気込むサイクリストにとっては、クロモリフレームで登るという選択肢はあり得ないだろう。レースの先頭集団で表彰台を争うようなライダーも同様だ。実際に私も、2020年秋の富士ヒルクライムにおいて74分37秒でシルバーを首の皮1枚で達成した際はTCRを使用した。

一方、タイムや順位にはこだわらず、走ること自体をゆったりと楽しむサイクリストにとっては、この差は大したことではないと感じるだろう。
自分だけのお気に入りの愛車で、ゆったりとひたすら享楽的なライドをしたいと考えるサイクリストには、クロモリロードは良い相棒となるかもしれない。

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▲300kmブルベ参加時。
ブルベの速度域では、クロモリロードの遅さは全く気にならない。

幻想その2「クロモリは乗り心地が良い?」

「しなりを活かした乗り心地」とはクロモリを語るときによく謳われるフレーズだが、これに関してはまるで幻想だ。
正解は「クロモリでも乗り心地は千差万別。快適性最優先ならカーボンのエンデュランスモデル買っとけ」である。

一口に「クロモリフレーム」といっても、素材や厚み、径、バテッド、焼き入れの有無、COLNAGO MASTER等に見られる特殊断面加工等により、パイプの種類は多岐にわたる。これらをすべてひっくるめて「クロモリは乗り心地が良い」というのはいささか乱暴が過ぎる。
現代のカーボンフレームが、用途によって様々なモデルが用意されているのと同じく、クロモリフレームだって用途によってパイプを使い分け、狙った性能を引き出すものだ。

また、細かくカットされたプリプレグ(カーボン繊維に樹脂を含浸させたシート)を何百枚にも積層して製造するカーボンフレームと、鉄パイプをロウ付け、またはTIG溶接で接続するクロモリフレーム、どちらが狙った剛性や乗り心地を引き出し易いかは考えるまでもない。

某日本メーカーのカーボンフレーム設計において、最終段階での設計変更はプリプレグ1枚を足す・引くというレベルに至るという。「硬くすべき部分は硬く、しなやかにすべき部分はしなやかに」といった設計の自由度では、間違いなくカーボンに分がある。

以前、S-WORKS ROUBAIXに試乗し、その驚異的な乗り心地に驚いた経験がある。

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ハイテク満載のスーパーエンデュランスバイク。まるで路面から2cmほど浮いて滑走するかのような滑らかな走り。路面からの突き上げはまるで感じさせず、ちょっとしたグラベルに突っ込んでもひたすらスムースに衝撃をいなす。それでいて無駄なしなりや鈍重さは一切感じさせず、軽く速い。
クロモリフレームでは決して到達できない領域がある。そう感じさせられた一台だった。

私のパナモリに関して言えば、乗り心地はTCRよりも明らかに悪い。
使用しているパイプが軽量高剛性なニッケルクロモリ(カイセイ8630R)ということもあり、クロモリの中では比較的スパルタンな乗り味だ。TCRよりBB周りのウィップ(しなり)は感じるが、路面からの突き上げはパナモリの方がきつい。

ただ、乗り心地はフレーム以外の要素(ハンドルやサドル、シートポスト、足回り等)で幾分か改善することが可能だ。
私のパナモリは、ハンドルに剛性が低めで肩部分が偏平形状になっているワンバイエスのジェイカーボンネクストを、シートポストに同社のカーボンマガタマを使用し、サドルにはパッドがやや厚めのPrologo Dimension NDRを組み合わせることで、ロングライドでも手や尻の痛みが出ることのない乗り心地を実現している。

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▲ワンバイエス ジェイカーボンネクスト。
扁平形状と剛性の低さが、ロングライドではとても楽。

また、パナモリで普段使用しているホイールはアルミスポークのシャマルウルトラ c17だが、300kmを超えるようなロングライドやブルベでは、敢えてステンレススポークのレーシング3 c15を使用し、足回りの剛性を落として臨むことも多い。
現に私はパナモリでこれまで300~400kmのロングライドを何度もこなしているが、乗り心地に不満を覚えたことはない。

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▲400kmブルベ参加時の装備

トータルインテグレーションが進んだ最先端のカーボンバイクの驚異的な性能はもちろん素晴らしいものだ。しかし、旧態依然としたクロモリフレームの足りない部分を、パーツの選択を「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤してカバーし、「自分好みの最高の一台」を組み上げるのも、自転車趣味においてはまた一興ではないだろうか。

幻想その3「クロモリはロング向き?」

A : 何百キロも走ればどんなバイクでも疲れる、以上!!

……やめて!!石を投げないで!!!

冗談はさておき(いや半分冗談ではないが)、「ロングライド用にクロモリが欲しい……」というのは往々にして耳にする言葉である。
「クロモリ特有のしなりで終盤にも脚が残る」とまことしやかに語られているが、実際はどうか。

これまで述べてきたとおり、クランクに入力した力をフレームのしなりが増幅させることは物理的にありえず、無駄なしなりはロスでしかない。
さらに、乗り心地ではエンデュランスカーボンには及ばず、重量に関しては何をか言わんやといった具合である。

私はパナモリでもTCRでも400〜500km以上のライドの経験があるが、終盤に脚が残るのは間違いなくTCRだ。
TCRの方が、登坂と信号ストップからのゼロ加速に要するパワーが少なく済む。そして、無駄なしなりがない故、ロングライド終盤の疲れて雑なペダリングでもしっかり進んでくれる。キャノンボールのような長距離ファストランでは間違いなくTCRを選ぶ。

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▲東京→大阪キャノンボール(524km)23時間10分にて達成時。

パナモリでは、山岳ブルベの終盤、疲労が溜まった状態で峠を登っていると、BB周りのウィップに力が吸い取られるような感覚を覚えることがある。そして、疲れ切った身体にずしりとのし掛かるフレーム重量に、「カーボンで来てたらもう少し楽だったのかな…」と少しの後悔が更にのし掛かるのだ。
私のように、辛いときに機材に言い訳をしたくなる軟弱な心の持ち主はクロモリフレームを選ぶべきではない。

しかしながら、走行性能では当然カーボンに分があるが、ロングライドにおける運用面ではクロモリがカーボンに勝る面がある。

近年のカーボンフレームは、ワイヤー類フル内装、スローピングフレームが主なトレンドだ。一方、クロモリフレームにおいてワイヤー内装は比較的特殊な部類に入る。
ワイヤー内装については、見た目がスッキリしてカッコいいというメリットがある反面、メンテナンス性はワイヤー外装よりも圧倒的に悪い。
もし万が一、ロングライド中にワイヤー交換が必要な事態が発生したとして、対応しやすいのはワイヤー外装のフレームだ。

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▲ブレーキ、シフトワイヤー共に外装。ワイヤーのトラブル時も対応が容易。

また、ロングライドにおいてバイクパッキングが多様される昨今、スローピングフレームではどうしてもフレームバッグの使用にある程度制限がかかってしまう。
185cmを超えるような高身長の持ち主であれば気にする必要はないかもしれないが、日本人男性で一般的な170cm前後の身長の場合、スローピングフレームにおいてフレームバッグとボトルケージの共存は妥協が必要となる。
フレームバッグを使うためにホリゾンタルのクロモリを選択する、というのも大いにアリな選び方だと考える。

(現に私がパナモリを買ったのも、勇み足で買ったAPIDURAのフレームバッグがTCRで使えなかったから、というのがあったりなかったり……)

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▲ワイヤー外装&ホリゾンタルフレーム。
比較的大型のフレームバッグも使用でき、有事のワイヤー交換もカンタン。
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▲ワイヤー内装&スローピングフレーム。
フレームバッグの大きさはホリゾンタルフレームより制限がある。
ワイヤー(特にDi2のエレクトリックケーブル)交換は……あまり考えたくない。

幻想その4「クロモリはホリゾンタルでカッコいい?」

クロモリといえばホリゾンタル、ホリゾンタルといえばクロモリ。
当然、クロモリフレームでも用途や好みに応じてスローピングフレームも存在するが、ホリゾンタルなクロモリへの憧れはよく耳にするところだ。
どちらがカッコいいか、というところはあくまで個々人の好みのため、ここでは述べない。私はどちらも好きだ。

ただし、もしあなたが身長170cm以下で、ホリゾンタル至上主義者である場合、注意が必要だ。

上に、私が乗るFRCC22のジオメトリー表へのリンクを貼るので参照してほしい。
ジオメトリー表の「J」の項目が、トップチューブとヘッドチューブの交点とトップチューブとシートチューブの交点の落差、つまりスローピングの度合いを表す数値だ。
当然この数値は大きいサイズでは小さく(ホリゾンタルに近く)、小さいサイズでは大きく(スローピングがきつく)なる。
173cmの私が乗る530サイズではこの数値は4mm、つまりごくわずかにスローピングしているということになる。
そして、この数値は160~165cmあたりが適応身長となる490サイズで11mm、480サイズでは20mmになる。

型番は異なるが、FRCC42 490サイズの写真が掲載されているブログ記事を見つけたので、参考としてリンクを貼っておく。なお、このフレームでは件の数値は22mmとなっている。

これを見てもわかる通り、ある程度の身長(概ね165cm以上だろうか)がない場合、フレームによってはスローピングとなってしまう可能性がある。
かろうじて乗れるホリゾンタルのフレームを少々無理をして組んだとしても、股下長によってはシートポストの出しろを稼げず、「ハンドルとの落差が全くない……」「カタログ写真と全然違ってカッコ良くない……」なんて事態にもなりかねない。
当たり前だが、メーカーはカタログ写真に一番「映える」サイズを持ってくる。
前にリンクを貼ったPanasonicのサイトのORCC22/FRCC22のカタログ写真は550サイズ、180cm前後が適応身長となるサイズだ。

もしあなたが170cm未満でホリゾンタルのクロモリロードにカッコよく乗りたい場合、ジオメトリー表とじっくりにらめっこをして、組みあがった姿の青写真を描いてから購入検討することを強くオススメしたい。

参考として、身長173cm股下80cm(股下比率46%)の私が乗るFRCC22の写真を再掲する。

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で、結局クロモリフレームのいいところって何よ?

ここまで散々、クロモリフレームの悪口をあげつらってきた気がする。
私なりの結論として、「クロモリフレームは性能を求めて乗るものではない」という点はやはり揺るがない。
ロードバイクは元来1分1秒を削るためのレース用機材であり、その用途において、現代のカーボン製ロードバイクが「より速く」を目指して先鋭化する姿勢は絶対的に正しい。そんな中、もはや進化することのないクロモリフレームはさながら自転車界のシーラカンスだ。

しかし、過去の走行ログを見返すと、なぜかTCRよりパナモリの方が実走の距離が伸びている。
何故、軽くて乗り心地が良くて速いイマドキのカーボンバイクも所有しているのに、より重くて遅くて乗り心地が悪いクロモリフレームに乗るのか?

私自身の答えは、「伊達と酔狂」である。

福島産のパイプを大阪の職人がハンドメイドで繋ぎ合わせ、自分だけのデザインで塗装されたフレームを、自分で選んだ拘りのパーツで組み上げた自分だけのバイク。
ものの数年で型落ちになってしまう現代のカーボンバイクと比べ、クロモリロードはもはや時代遅れになることもない。
そして、カーボン全盛の今の時代に、敢えて化石のようなクロモリフレームに乗っているというロマン。
剛性や重量、反応の良さなど、言語化しやすい性能には現れない部分だが、それだけで何となくとても心地良く走ることができてしまう。

例えるならば、空冷時代のポルシェをこよなく愛する愛好家に、「最新のポルシェはもっと高性能で快適で速いですよ」と言ったところで、「それが何か?」で終わってしまう、といったところか。
古き佳きものを愛でるロマンは、絶対的な性能をも凌駕しうるものだ。

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※上の写真2枚はパブリックドメイン(著作権フリー)です


もちろん、私のようにカーボンロードとクロモリロードを両方所有し、用途や気分で使い分けることで、乗り換えるたびにそれぞれの良さを実感するという愉しみ方も一興だ。
クロモリフレームの乗り心地や反応性は、カーボンバイクのそれとは全く異なり、カーボンフレームは決して出し得ない独特の「味」が確かにそこにはある。
パナモリからTCRに乗り換えれば「うっひょー!はえー!!」とその高性能を心行くまで堪能し、昨今のロードバイクの驚くべき進化に想いを馳せる。
TCRからパナモリに乗り換えれば「うんうん、やっぱり乗り手に寄り添ういい自転車だ……」とそのスチールフレーム独特の乗り味に浸り、しみじみと噛みしめる。この瞬間が堪らなく好きだ。

常に表彰台のてっぺんを追い求めるピュアレーサーであれば、最新の機材に財を投じてひたすら速さを追い求め、クロモリフレームなど見向きもしないのが最適解だろう。
しかし、趣味の範囲、とりわけ着順のつかない世界では、必ずしも高性能が正義とは限らない。
自身が心から気に入り、良き相棒となってくれる機材であれば、多少の性能差はアバタもエクボ、愛情でカバーできてしまうものだ。

クロモリフレーム、そこには性能に縛られない享楽的な世界が確かにある。
日進月歩するカーボンロードの陳腐化の速さに辟易としている自転車乗りは、是非とも一度この深淵を覗き込んでみてはいかがだろうか。

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