見出し画像

【インタビュー】『ヴィレッジ』藤井道人監督

“読めない転落劇”を目指したという藤井道人監督

“映画の転調”の巧みさこそ、転落劇の妙味

「転落劇の妙味って、単に逆風に翻弄される人物に心持っていかれるだけでなく、物語のギアがバチンと変わる“映画の転調”の巧みさにも認められると思います」

ある“村”の閉鎖空間を通して、日本の社会の縮図を観る者に突きつけてくる藤井道人監督のヒューマン・サスペンス『ヴィレッジ』。彼の口から本作も、「転落劇」であることがまず語られた。企画したのは映画『新聞記者』(19/Netflix版は22年)や『ヤクザと家族 The Family』(21)などでチームをまとめた故・河村光庸プロデューサーだ。

「企画の最初の段階では自分は入っていなくて、頓挫しかけた時に河村さんからピンチヒッターとして声がかかったんです。3つぐらいの要望がありましたが、あとは僕のオリジナルで脚本を書いてもよく、転落劇として主人公のターニングポイント、“映画の転調”がいつ訪れるのか、観客の皆さんには読めないものにしようと腐心しました」

主演は、藤井監督とは6度目のタッグとなる横浜流星

横浜流星が抱える転落への不安感

主人公の名は片山優。ゴミ処理施設で不法労働に手を染める日陰者から一転、発展する“村”のシンボル的な存在へ。だが、しかし…! 本作の主演は藤井監督と公私共に親交を深め、再三タッグを組んできた横浜流星である。

「流星は僕の長編作品では初主演なんです。脚本を練ってゆく際、彼と話をしたら、“転落”への不安感がとても強かったんですね。実力とは本来、時間をかけて磨くもの。ところが何かの拍子でスターとして祭り上げられ、その分、今は消費されてしまうのも早い。それが怖いって。同時に、何かボタンの掛け違いでも瞬時にキャリアが崩れ去る現在の風潮に対し疑念があり、僕もそこは同感で、この点を主人公のキャラクターに落とし込み、紆余曲折を経て20稿ぐらい重ねて書いて完成させました」

黒木華、一ノ瀬ワタルら演技派、個性派が顔を揃える

集団心理の恐ろしさこそ、日本社会の縮図

共演は黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、中村獅童、古田新太ほか。京都でのオールロケを敢行し、『羽衣』や『邯鄲』といった「能」の演目、それから夜間に篝火を焚き、能楽を演じる「薪能」の儀式が重要な意味合いを持たされている。格差社会や同調圧力、現代の多くの問題が映画に投影され、ゴミ処理場が村社会の中に聳え立っている設定が秀逸だ。

「河村さんの企画の時点で、ゴミ処理施設を村に建設したことで起こる軋轢のプロットラインはありました。施設にネガティブな憎悪を持っている人がいれば、うまくいったら急に手のひらを返す人もいる。人間の集団心理の怖さはどんな小さなコミュニティであっても存在し、やっぱりこれは、日本の社会の縮図だと感じました。脚本執筆の途中で物語の行く末がバッドエンドなのか、もしかしたらハッピーエンドにもなり得るかも…と僕自身、先が読めなくなったのが面白かったですね。それぞれに大義を持たせているのですが、主人公の片山優を始め、登場人物たちの感情が二転三転する様を見届けて頂きたいです」

村社会の格差、貧困、同調圧力が生み出す悲劇が描かれる

『ヴィレッジ』は“陰”、『最後まで行く』は“陽”

ところで5月には、岡田准一と綾野剛が初共演! キム・ソンフン監督のノンストップ・アクションエンターテインメント、大ヒット韓国映画『最後まで行く』(15)の同名リメイク作が続けて公開される。

「僕は作品とは、プロデューサーとの相性で生まれると考えていて、自分は料理人であり、職人でいたいんです。プロデューサーから気骨のある企画をいただければ、その方向で最善を尽くす。振り切ったエンタメ作品ならばまたそう。自身で何をしたいのかというのは、与えられた企画の中で考えるのが最近は習慣化してきていますね。自己認識では趣味を押し通して、『ヴィレッジ』はやや“陰”で、『最後まで行く』は“陽”の転落劇に仕上がったなあ、と捉えています」

本作が河村光庸プロデューサー最後の作品となった

『ヴィレッジ』
4月21日公開
配給:KADOKAWA/スターサンズ
(c)2023「ヴィレッジ」製作委員会

取材・文:轟夕起夫
※本インタビューはDVD&動画配信でーた2023年5月号連載「三つ数えろ」内「監督の近況」を加筆したものです。