2024年2月8日 「寝不足カフェイン春画」

全然眠れないのでそこらへんにある本を音読する。

彼女は小枝を地面に捨て、立ち上がってコートについた枯草を払った。「ねえ、十年って永遠みたいだと思わない?」
「そうだね」と僕は言った。

村上春樹『羊をめぐる冒険(上)』講談社文庫、p.21

夜、車に乗って信号待ちをしているとき、道路沿いのマンションの窓をみつめる癖がある。(略)灯りのついた窓のひとつに、ハンガーに掛かった上着のシルエットが映っていて、切ない気持ちになる。あそこにぼくの友だちがいるかもしれない、と思うのである。

穂村弘「あの窓の向こうに」『世界音痴』小学館文庫、p.45

食料確保の行列。同じ行動であっても、原動力が低劣なときのほうが高邁なときよりも、たやすく実践できる。低劣な原動力のほうが高邁な原動力よりも、いっそう多くのエネルギーを含んでいるのだ。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』岩波文庫、p.14

真夜中過ぎの道路はとても混んでいて、私は助手席でうとうとしている。
「なーんで夜なのにこんなに混んでるかな。……明日から三連休だからか。」
「みんなで大移動してるんだね。」半分夢をみているように私は続ける。「いつも移動している一族がいるんだよ。眠らないで車を走らせるの。」
「そりゃ大変だね。」
「うん。変わりばんこに、決してとまらずに車を走らせるの。夜に住む人だからね。朝に追いつかれないようにずっと一直線に西に向かって走ってるんだよ。もう何年も何十年も。」
そしてそのまま私は眠りに落ちる。

二階堂奥歯『八本脚の蝶』河出文庫、p.267-268

なんとなく開いたページに「そしてそのまま私は眠りに落ちる」と書いてあったのでそこを音読して自分の宣言とした。が、やっぱり眠れなかった。

眠れないときには過去のことを考えてしまう。今まで関わってきたすべての人々に謝罪したい気持ちに覆われる。でもここで、眠れない原因に気がついた。ミスドで2杯飲んだカフェオレ。たった2杯のカフェオレのせいで全然眠れなかったのだ。コーヒーは体質に合わないっぽい。それにしても前より合わなくなっている。眠れない原因に気がつくと、原因不明の不眠状態よりも精神状態が向上する。どうせ眠れないなら好きなことをしようと思うようになる。YouTubeを開いた。

朝6時。出かける準備をする友達と通話。友達が電車に乗るのをビデオ通話で見届けて準備。朝マック。キャラメルラテを飲んだのは失敗だった。

カフェインで眠れなくて気持ち悪くなってるところに迎えカフェインするやつなんかおらんねん。

胃もたれとカフェインでくらくらしながら出かけて行って、ドキュメンタリー映画『春の画 SHUNGA』を観る。春画はすごい。浮世絵の中でも普通の美人画ならサラサラストレートヘアを彫れば良いのだが春画ならチリチリで絡み合った陰毛を彫らなきゃいけない。圧倒的に技術が必要なはずで、圧倒的にコストがかかる。こういうコンテンツは現代におけるエロ本と対応するはずはない。もっと社会において尊ばれていたはずだ。それもそのはず、大名家の嫁入り道具に春画が含まれていたという。要するに縁起物なのだ。

版画なら陰毛の表現がすごいけど、肉筆画なら体液の表現がすごい。白さと半透明の表現。日本画でこれ?!という驚き。

しかも脱げかけた衣服の柄やうねりや、普通の浮世絵と比べ圧倒的に複雑な体勢も、半端ではない絵師や彫り師や塗り師の技術がありありと見えてくる。それどころか紋様や陰影や凹凸を色なしで表現する「空彫り」までやっているという凝りよう。

春画、欲しいよね。

なんとなく散歩してみたら、どこまで歩けばいいかわからなくなってずっと歩いてしまった。寝不足+胃もたれで空あくびが無限に出続けるなかふらふら歩き続けるという奇行。これも寝不足ゆえか。

帰宅してすぐ寝てしまった。起きたら夜。さらにぐだぐだして晩ご飯を食べずに寝ます。


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