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ザジ、キラキラと輝く手袋の「白」



筆者にとって筋肉少女帯、ひいては大槻ケンヂ氏の歌・言葉はどれもキラキラと輝くものだ。

泥くさいシャウトから一転、洒脱な言葉でおどけてみせる緩急。
陰々滅々とした世界観を、明るく飄々と歌ってしまう不均衡。

カラリとした諦観と陰湿な情熱の奇妙なバランス感覚が醸す世界観はまさに唯一無二。ちょっと他にはない独特の雰囲気がある。


そんな魅惑の筋少楽曲の中でも私が特に偏愛しているのがアウトサイダーの歌たちだ。
『ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ』は、小品ながらそんな名曲のひとつである。

ナチュラルボーンキラー少女・ザジちゃんのさいわい(宮沢賢治風)を祈る僕のお話。

オーケンはこの手の詩を書いてる時が抜群にイイ。本当に好きだ(限界)

ざっくりと好きなところを書いていこうと思う。


異常事態×素朴な語りのマリアージュ

ナイフを握ってるな また殺っちゃったかい?
 悪いクセだぞ すぐ殺すね、髪が赤いぞ
筋肉少女帯「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」

明るいコーラスとギターの前奏を経て物語は殺人現場、返り血に染まったザジちゃんを発見するシーンで幕を開ける。えぇ……(困惑)

しかし僕はそんなことでは動じない。
「また殺っちゃったかい」「悪いクセ」
こともなげに微笑みながら、少女に代わって死体処理と証拠隠滅をやっている。どう考えても手馴れてる。

「一人称視点の歌でそいつがすでにぶっ壊れてるのダメでは?」「信用できない語り手とかいうレベルじゃなくない?」という至極当然のツッコミが口をつきかけるが、かなしいかなこれはミステリではない。オーケンは乱歩ロックンロール主義者(?)だしミステリ愛好してるだろうけど。


異常事態が淡々と素朴な言葉遣いで語られていく。
それがさも当然のことであるかのように。
映像のショッキングさとミスマッチな謎の浮遊感。
オーケンの書く詩にはこういうのが多い。

特に「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」は全編通して素朴で柔らかい口語で紡がれていく。
優しく、愛に溢れながらどこか寂しさを漂わせる詩。

グラムロック調(ミッキー・フィン言ってるしそうでしょ!)の華やかな音作りと、オーケンの慈しむような歌声がよくマッチしている。

これぞ筋少、これぞ大槻ケンヂという曲だと思う。


アウトサイダーへの眼差し

そしたら僕が お祈りをしてやるよ
      悲しい人を、君が見ないように
                 笑えるようにね
筋肉少女帯「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」

オーケンの詩には、社会の枠組と存在自体が相容れない者に対する穏やかで優しい眼差しがある。
たぶん吉良吉影にも肩入れする。

ただ寄り添いはしても無原則な肯定はしない。ただ願う。その塩梅がけっこう好きだ。
「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」もまた、そういう歌である。

「サイコキラーズ・ラブ」という最近の曲がある(2017……最近?)。
そこではサイコキラーの二人が「ずっと二人で生きていこう」「愛し合っていればもう何も手にかけないで済むかもしれない」「もし耐えられなければ自分を手にかければいいよ」と歌う。

寛容さ、優しさはありつつ、
「社会」との軋轢を理解してしまっているがゆえに無邪気ではいられない。
その先に待つ「破滅」も理解できている。
それでもなお甘んじてそれを受け入れようとするのはかなりプラトニックだ。

そんな関係性を不健全と断罪し更生を促すことはたしかに建設的かもしれないし、「社会」はそれを善とすると思う。
ただそういう方法では掬い上げられないものというのもたしかにある。
語れば零れ落ちていってしまう何か、それこそがアウトサイダーであるし、その輪郭にアプローチしようとするのが音楽だったりアートだったりするんだと思う。

僕がザジのためにするお祈りとザジのそれに対する返答は、愛であり、ナザレの誰かかが説いたという原罪を背負った人類への祈りと同質のものだ。

サビの豪奢なギターのバックで鳴るベルのような音が、まるで宗教音楽のそれのようでとても好きだ。
そう思うとコーラスもまるで賛美歌のように聴こえてくるから不思議である。



血に濡れた髪、夜の歩道、白い手袋

暗い夜の歩道を白い手袋
          手をつないで逃げよう ずっと
筋肉少女帯「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」

返り血に濡れた赤い髪、
暗い夜の歩道が基調になった不吉なキャンバスに、
一点焼きつく手袋の白。

初めて聴いた時、ここの歌詞で涙が出た(誇張ではなく物理的に)。

映画だったら間違いなくベストシーンだ。
というより、こんなシーンが一個あればそれはもう名作だ。
そう思わせるくらい素晴らしい詩だ。

この歌詞がサビで二度繰り返されるあたり、ぜったいフラッシュバック狙ってるでしょと思ってしまう。

ふたりの逃避行で繋いだ手の白こそが、永遠であり、キラキラと輝くものなんだよな〜。

正直この歌詞の話をしたくてnote書いたようなとこあるが、この詩が切りとった景色は、言葉を尽くして語るほど野暮になってしまいそうで逆に語れない。

情景描写の色彩的コントラストが凄い、とだけ言って締めさせていただきます。聴いてね。


終わりに

好きなところを改めて書いてみると、自分で思ってた以上に好きだったことに気づけた。
一昔前の洋楽CDのライナーノーツみたいになってしまった感も否めないけど……(伝わりづらいネタ)(でも筆者はあの肩に力が入った解説の感じけっこう好き)

最後に当楽曲を収録しているアルバム『キラキラと輝くもの』を紹介する。

筋少としてはポップでメロディアスな曲が多く、それでも特有の「毒」は健在なので入門編としてはかなり良いんじゃないかと思っている。
(初手で『月光蟲』『レティクル座妄想』あたりを薦めてくる奴は確実に悪いオタクなので距離を置こう)

ザジ以外で個人的に特に好きなのは、「サーチライト」「機械」あたりかな……(ベタベタじゃん)

誰に対しても間違いなくオススメできる名盤なので、是非。サブスクにもあります。

そして、いいなーと思ったら他のアルバムも聴いてみてほしい。

月にある少女の王国で古い人形を燃やしたり、ゾンビになった恋人を再殺したり、飛び降り自殺で落下中の少女がいたりする。

高木ブーのようなものになったり、スラッシュで禅問答をしたり、日本が印度になったり、水木一郎とコラボしたりする。

こう書くとめくるめく、という感じだ。

濃い楽曲が多いし、アルバムごとにけっこう雰囲気が違ったり(キャリア長いからね)するので楽しいです。



そうして、筆者がいちばん好きなアルバム『月光蟲』を聴いてください。


《了》

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