親族

歯みがきをしだすと猫が寄ってくる。
歯みがきしながらご飯をあげてたら
歯みがき=ご飯だと思い始めたらしい。
現金なやつら。
遅くまで起きてると夜食をねだってくるようになった。許されることが分かってる顔をする。


小高い山があってその上に暮らしている。

ふもとに朱い鳥居の神社がある山の上で
つまり神様より高いそこで
恐れ知らずのその人達は暮らしている。

昼間でも薄暗すぎて夜みたいな木々の間の道路。
そこを抜けると畑があって
牛がいて
それはもう沢山いて
景色がいい。
前来た時はヤギもいたような。

まるで天に近くて神より高い、牛の方が神様より偉いのだと言わんばかりのその親戚の家はどこかの素朴な神話みたいだと思った。

久しぶりに来たら小屋が増えてる。
自分達で建てたと。
家の中はIHだからといって小屋の中にガスコンロを付けたらしい。自分達で。
隣にでかい流し台と水道も。自分達で。

中にホワイトボードがあって

イノシシ、シカ、ハクビシン捕獲許可

と書かれていた。
母はいつか鹿肉をご馳走になったらしい。


牛の群れの中から現れた。

私の叔母。
母方の長女さん。
もうお孫さんがいるおばあちゃんでもある。

笑顔が変わらない。

「オレ」と言う。

なんというかネイティブな「オレ」だ。
母もたまに言うから、血を感じた。
ひいては自分も言いそうになるのはこれのせいだ。この血のせいで自分は言葉使いが悪い。
ということにしたい。
「オレ」は2文字で楽だから仕方ない。

同じく作業をしていた旦那さんは、牛の世話の間も渋くて重油みたいなサングラスを掛けているけど優しい人だ。
干し芋を先ほどの小屋にあったストーブで焼いてもらった。美味しかった。干し芋は焼くと美味しいと初めて知った。

「大きくなったなあ!」
と叔母さんが笑った。
きっと自分は親族に会う度大きくなるんだろうなとぼんやり思った。
最後に測ったのが5、6年前なのでもし伸びてたらお礼を言わなきゃいけない。

「ポエムやるからおひたしにして食いな!」
と叔母さん。

「ポエム?」
なんて洒落たことを言うんだこの人は。
ポエムをおひたし。
ポエムをおひたしなんて、なんておしゃれレトロ。
おしゃれノスタルジーかもしれない。

呆けていたら叔母さんがビニールハウスに連れて行ってくれた。

緑の葉っぱに小さな黄色い花が咲いている菜っ葉があった。ポエムとはこれのことのようだった。これも初めて知った。知らないことがたくさんあった。

ビニールハウスは土ばっかりの懐かしい匂いがした。なんだか土ばっかりのそこが不思議と一番澄んだ所に思えた。

「元気なったみたいでよがったなあ」
バカみたいに重い米を担ぎ終わった後叔母さんは言ってくれた。
心配かけてしまってたみたいだ。
その節は本当に。
まだちゃんとはできないけど
少し元気になった気がした。

親族とその家の話。




親族に自分の動向がバレていた。


もう母の口の固さは信じないようにしよう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?