高所恐怖症になった時の夢
幼少期の話だ。
物心ついた頃から、ずっと同じ夢を見ていた。白いアパートの屋上から飛び降りる夢、それをほぼ毎日繰り返し見ていた。ぼくは屋上から落ち、コンクリートの地面にぶつかるというところで目が醒める。別の夢を見ていても夢の終わり頃に確実に場面は切り替わってぼくは飛び降りる。衝撃は無く、恐ろしいと思った事も無く、むしろ当たり前の様に今日も飛び降りたと何の感慨も無くぼんやりと考え、幼稚園へ向かっていた様に思う。
夢の景色を見ようと自身のアパートの最上階から地面を見下ろした事がある。胸を踊らせながら身を乗り出したが、階数が足りないのか、地面が驚く程近く、もっと高い筈だと何度も見直したが景色は変わらず、幼いぼくは諦めて部屋へと戻ったのだった。
一度、何時ものその夢が驚く程に恐ろしかった。
白いアパートの屋上に立つまでは何時も通りに、しかし飛び降りた瞬間、聞こえない筈の風の音と共に暴力的な迄の落下速度でコンクリートへと叩き付けられた。何時もは無い地面に叩き付けられる衝撃で全身が硬直し、無我夢中で眼を覚ました。心臓の音が五月蝿い。見慣れた天井と朝食を準備する音に安堵し、力が抜けた。
それから年を重ねる事に夢を見る頻度は減り、小学校に上がる頃には全く見なくなった。
それでもぼくは未だに高い所が苦手である。
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