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ピカソの思い出

ピカソの「アルルカン」が好きだ。
この絵をみると、私はとても幸せな気持ちになる。
そして、青いピエロは何を考えているんだろう、と想像せずにはいられない。

娘が幼稚園児だったころ、私たち家族は休日によく図書館へ行った。
その日も夫と私、そして娘の三人で図書館へ。

小説の棚をみていた私のところへ、トタトタと娘がやってきた。
娘の両手には、なにやら大きな画集のようなものが。
「ねぇねぇ、お母さん」と小声で私に声をかけてきた娘は、その画集をズイッと突き出した。

娘はいつになく真剣な表情だった。


「この人、お母さんに何を怒られたん?」

え?


私は画集の表紙をまじまじと見る。
画集は「メトロポリタン美術館展」だった。
表紙はピカソの「アルルカン」

怒られた?
娘よ、お前は何を言っているのだ?

首をかしげる私に、娘はなおも「ねぇ、この人、お母さんになんで怒られたんやろ?」と重ねてきいてくる。

不思議なもので、そう言われてみると、このピエロの顔がだんだんと不機嫌そうに見えてくる。
しかも、お母さんに怒られて「うっせーなっ!(怒)」ってふてくされているように見えてくる。

……。

見えませんかね?

私は考えた。

「この人のお仕事はピエロなのよ」私は真剣。
「うんうん」娘も真剣。

「お仕事が終わって家に帰ってきたんだけど、いつまでたっても服に着替えないの。家でもピエロのままなの」

娘の表情が変わった。
ふふふ。そうだ、娘よ。お前にはわかるだろ?

幼稚園から帰ったあと、いつもなかなか着替えない娘。
「はよ、着替えなさいよ~」
「は~い」
こんなやりとりはするものの、制服姿のままソファーでごろごろするのが娘のお決まりだ。

「だから、お母さんに『いつまでそんな恰好してるの!早く着替えなさい!』って怒られたんだと思うのよ」

「私と同じや」

親近感を覚えたのだろう。娘はじーっとピエロを見る。

ところが、いつからそこにいたのか、私と娘の会話をきいていた夫が「お父さんはそうは思わないなぁ」と苦笑する。

そして「この人はとても好きな人がいるんだと思うよ」と夫。

画集を手に取った夫は娘と視線を合わせるように屈んだ。
一緒にその絵を眺める夫と娘の並んだ顔は、今でも私の頭の中に名画のように残っている。

「その好きな人のこと考えていて、その人も僕のこと好きかな?って考えてるんだとお父さんは思う」

これに娘は「ふ~ん」と納得したんだかしてないんだかよくわからない反応。

そして私は「なんて素敵な回答なの」と夫にクラクラしてました。
あなたのそんなロマンチックなところ、私はとても好きよ。

以前、ムンクの「叫び」をもってきた娘に「この人は何を驚いてんの?」ときかれて「出かける前に飲んだ牛乳が賞味期限を過ぎていたことに気がついたんだと思う」と言った自分を猛省したわ。
もっとロマンのあること言えばよかった。

でもね。

このピエロ、私にはそんなこと考えてるようには見えないんだよな。
どっから見ても「うっせーな!(怒)」にしか見えないんだよな。

みなさんは、どう見えますか?