見出し画像

博士の異常な斜め上下の愛情

博士は海の近くに住んでいるのでよく海の写真を送ってくれる。
私は海の近くに住んだことがないので、海といえば旅行で訪れる夏の海がすぐに思い浮かぶのだが、彼の写真をみていると冬の海が最も美しいと思う。

博士はマスコミ関係に勤めながら、昔は官能小説を書いていたらしい。
でも、私は彼のペンネームを知らない。何度たのんでも教えてくれないのだ。
一時期は嘘なのか?と思っていたけど、ある雑誌のインタビューで「官能小説を書かれていた時期があったそうですね」ときかれていたから事実のようだ。

私は彼のことを「博士」と呼んでいる。
彼はそれを自分が小川洋子さんの「博士の愛した数式」が好きだと話していたからだと思っている。
でも本当は初めて会ったとき、私が彼をトマス・ハリス(「羊たちの沈黙」)のレクター博士っぽいと思ったからだ。そのことを彼は知らない。

彼は出会った頃、私を「女系家族の人」と思ったらしい。
そして京都の女性という印象を抱いたようだ。ちなみに私は大阪生まれの大阪育ちだ。

「『いけず』が『意地悪』とはニュアンスが違うというのはわかるが、その微妙な違いがつかめない」という話をされたことがある。

「ほな『いけず』がわかるまで、なんぼでも京都に来たらええわ」
「かつてないほど『いけず』というものがわかった」

褒められた(たぶん)

彼は東京生まれの東京育ち。遠慮のない物言いをよくする。
そして私は彼のそんな一面が嫌いじゃない。

例えば、子供をもつか否か悩んでいると彼に相談したときのこと。
「子育てはお金がかかるけど、その点は大丈夫か?俺はそれで仕事の傍ら官能小説を書き始めたんだから」と、斜め上か下かよくわからない回答をされた。
「ここでお金の話する?」と思ったけど、よく考えたら一番大事なことだった(笑)でも普通はしないんじゃないかな。

元彼から連絡がきたとき、彼に相談したときのことが忘れられない。

「一つ言っておきたい。俺の周囲でも不倫をしている人たちはいる。俺はその愛人たちをみてきたけれど、面白いことに、みんな奥さんより少し劣る女ばかり選んでいる」

少しムッとした。
嘘です。

かなりムッとした。

自分が「劣る女」と言われたような気がして腹がたったのだ。

「奥さんより少し劣る女というのが、本気にならないための無意識の自己防衛なんだろうな。彼らは家庭が大事だから」

家庭が大事な人間は不倫なんかせんだろ、と鼻で笑ってやりました。
でも、今は否定できないでいる。
noteを読んでいて思うけど、不倫をしている人たちは決して家族が大切じゃないわけではないと思う。むしろ、子供に対してはいい親でありたいという一面を強く感じることもある。

「これは俺のあなたに抱いている勝手な印象だが、少なくともあなたは不倫には向いていない」

「私は不倫なんてしないわよ」と笑ったけれど、ここにきてやっと彼の優しさを感じた。
前述の暴言(?)も、私を心配してのことなんでしょう(たぶん)
でも、ほら。彼は異常な斜め上下の愛情の人だから。

「どうして、私に不倫は向いてないと思うの?」
「もともと恋愛にさほど興味のない人間が不倫には向いている。恋愛なんて何かのオマケみたいな考えの輩が上手くやっていくもんだと思う」

矛盾してる、と思った。
恋愛に興味のない人間はそもそも不倫なんてしない。不倫をする人はむしろ恋愛、特に恋愛の初期段階が好きな人だ。
でも、これも今は当たらずとも遠からずと思ってる。
恋愛に夢中になるような人は、不倫してもすぐに破滅するんだと思う。
恋愛で頭がいっぱいになる俗にいう恋愛体質と言われる人たちは、実は不倫には向いてない。むしろ不倫で心が擦り切れるタイプなんだろう。

「だから、あなたのような愛情深い人間に不倫は向かない」

「私って愛情深い?」
「あなたは愛情深い人だよ。昔、子供のことで相談をもらったとき、あなたはいいお母さんになるだろうって思った」

だったら、あのときお金の話なんかしないでそう言ってほしい。これだから斜め上下は困るわ。

ところで彼の話を聞いてたら、すごいことに気がつきました。

「あなたの昔の恋人のことは知らないが、俺が知る限り不倫が上手くいく男のタイプはみんな同じ。仕事が異様にできてメンタルが強い。そんな男は女で心は折れないし生き方が揺れたりもしない。まぁ、そういう男に女は強さを感じて魅かれるのかもしれないけど」

そんな男性いるんだろうか、と思ってつらつら考えてみた。

あっ、一人いた。

仕事が異様にできて、強いメンタルをもつ男。何事にも何者にも心は折れないし、生き方が揺れたりもしない。

……私の夫(がーん)