理系大学生こそオッペンハイマーを見よう(絶対にIMAXで見ろ!)

映画紹介

クリストファーノーラン監督による、原爆の父と呼ばれるオッペンハイマー博士の人生を描いた映画。視聴してなおカテゴライズが難しいなとは思うが、歴史映画としておく。

世界各国での上映開始は2023/7/23~だが、日本公開は作品を巡りいろいろあった(後述する)結果なのかはわからないが、2024/3/29~と半年以上期間を開けて公開された。

2024アカデミー賞7部門受賞の注目作。2023を象徴する映画であると(ハリウッドには)評価されているようだ

音響や映像ともにIMAX用に作成されているため、監督も言っているように絶対IMAXで見たほうがいい

サブテーマに戦後オッペンハイマーがアカ狩りの対象になりかけたことを取り上げている(世界史エアプなので冷戦時代のアカ狩りの厳しさを知らなかった)

「オッペンハイマー」を鑑賞しようと思った理由

この記事は公開日当日にに映画館に赴き、感想をつづっているものだが、なぜ上映開始日にわざわざ見に行ったかという理由はいくつかある。

まず最初に、僕はクリストファー・ノーラン監督の作品が非常に好みだからである。ノーラン作品は時間軸、次元の操作が多く、それらが同時に進行していくため評論家たちが言うようにエンタメとしては不親切に難解で、一回視聴しただけでは細部まで理解できない作品もある、特にTENETはそうだった。しかし、その難解さが好きな部分でもある。劇場で頭をひねりながら理解していき、上映中に世界観が理解できた時の楽しさは格別である。また、うまい言語化ができないが、ノーラン作品的な映像の撮り方が僕の趣味によく合うのが好きな理由でもある。

以上のような監督が好き という理由だけでなく、やはり日本人として、原爆というテーマを、開発し、落とした側の国が大々的に取り上げている映画であるというのが注目している大きな理由である。

我々日本人はさまざまな媒体から原爆の恐ろしさを学んできている。そのため、この映画に対して国内から十人十色な反応が出てくるのは想像に難くない。(実際見てもそういう内容だし) そのため、いろいろな思想を持った人間がいろいろな感想をつぶやき、それを目にすることで自分の素直な感性が邪魔されないうちに見ておこうという理由で公開日に視聴することを決めた。

反核には理想的なありかたとしては同意するが、twitterを見ればわかるように世の中には文字や映像を理解できない人間が大勢存在し、そういった人間の過度に偏った感想を見たうえで映画館には行きたくないので。

映画を巡る場外乱闘について

オッペンハイマーは去年夏に公開されたのだが、同時に公開されていたバービーという映画との組み合わせにより、物議を醸す出来事があった。それはバーベンハイマーという非常に大馬鹿なミームである。僕は海外のミーム動画・画像が結構好きなのだが、それでもこれは許せなかった。

バーベンハイマーとは、非常に明るくポップな映画であるバービーと撮った監督と扱っているテーマ的に暗くなるオッペンハイマーの温度差を笑ったものであるが、その時、バービーの登場人物と原子爆弾によるキノコ雲をコラージュしてネタにするようなmemeが広がり始めたのである。まだこれが日本でいう5chのようなアンダーグラウンドで広がっているのならまだしも、まさかのワーナー公式までそのmemeに乗っかり、この夏を楽しく!のような文脈でコラ画像を利用し始めたのだ。これはさすがに許せない(のちに公式は謝罪)

近年の欧米はポリティカル・コレクトにご執心であるが、結局アジア人に関してはこのレベルなんだなと失望した。ナチスによるユダヤ人虐殺は社会的にタブーとして扱うくせに、極東の民間人を何十万人も殺害した軍事作戦は笑いものにしていいんだ、と

別にいろいろめんどくさい活動家みたいに謝罪を要求することはしないし、日本もいろいろやってきたから日本が完全な被害者とは言わないけど、文化人を名乗るならもうちょっとこう、、、あるでしょ、と思ったのである。

理系大学生におすすめする理由①

僕は理系大学生といいつつ、バイオである。そのため作品で扱っている内容はその詳細な理論とか計算までは理解しきれていないものの、科学史を通して有名な学者と提唱したアウトラインはそれなりに理解している。一方でマンハッタン計画についてはあまり詳しいことは知らない という状態で鑑賞しに行った。

その結果、説明なしに物理学の用語がポンポン出てくるので、その辺の知識がある人間が鑑賞したほうがより楽しめると思った。
急に量子の重ね合わせの話とか、光の波、粒子の性質の話が出てくるので。

そして理工系でない僕でも知っているような不確定性原理のハイゼンベルグ、サイクロトロンの生みの親ローレンス、量子のボーアが出てきて、知ってる人キターー!とちょっとテンション上がった。(オッペンハイマーの半生やマンハッタン計画を詳しく知っている人からしたら別に、って感じなのかもしれないけど)

物理の知識あんまりないよという人には上の動画をお勧めする。銀幕にポップコーン(上のポッドキャストの番組名)は映画・ドラマ好きには非常におすすめ。

理系大学生におすすめする理由②

研究者を主人公に置いた映画は大抵、天才だけど私生活ぐちゃぐちゃだよね~ 家庭とのギスギスがね・・・・って感じの一種テンプレ化された適当めな描写にうんざりすることが多い
例に漏れずオッペンハイマーも荒れた私生活を送っていたようだが、その描写が他の博士系映画よりも丁寧に描かれており、退屈しなかった。そこは流石ノーラン監督 内面描写が上手い。
自分は今の日本の共産主義について特に政治的立ち位置を持っていないが、共産思想を巡る彼の立ち位置、ユダヤ人という彼のアイデンティティと軍事と政治と科学的探求心の間に置かれた一人の科学者、として見る振る舞いは現在の価値観からすると倫理観がぶっ壊れているが、やってしまった選択ではなく、その思考プロセスにはそれなりに共感できるものが多い。これは僕個人のものなのか、それとも自分と属性が似ている人間はこう思いがちなのかを知りたいので鑑賞した人はどんどん感想をネットに放流してほしい

以下ネタバレあり











鑑賞した感想

まず主演のキリアン・マーフィーが最高の人選で最高の演技をしたことに間違いはないということははっきり言える。僕は字幕アリでやっと初見映画の英語が聞き取れるくらいの雑魚英語力だけど、声使いなども素晴らしい演技をしていることはよくわかった。
また、映像や音響も素晴らしかった。監督もコメントしているが、絶対にIMAXで見るべき映画である。僕は普段IMAXで映画を見るのにこの作品に限って普通verで見てしまい、非常に後悔した。

さて、内容についてであるが、自らが作った兵器により大勢の人を死なせてしまった という責任について、かなり詳しく描いているし、最後のアインシュタインの賞についての対話など、非常に心理描写が上手いというか、大量殺戮兵器を生み出したのも結局、人間なんだなと感じた。
正直、自分の言語化能力の低さに絶望しているが、とにかく久しぶりに顔面にクリティカルなパンチを食らった映画であった。

原爆被害者の会や一部映画監督が言うように、広島長崎の被害を示す描写が少し弱いかな というのは確かに感じた。史実を再現するなら、オッペンハイマーは自分で投下したわけでもなく、投下後の様子を直後に見たわけでもないのでそういう描写があまりないのはしょうがないよね とは思うけど、原爆が投下された後の祝賀会?で見た被爆の白昼夢で被害者を示しているような描写が薄皮がちょっとめくれるだけってどうなの・・・?とは思った。逆に言えばそのラインがアメリカが受容できる表現のラインなのかもしれないので一概にノーランが悪いとは言えない。
かといって原爆の描写が足りなすぎるということはなく、オッペンハイマーや周りの科学者の苦悩などがしっかりと描かれていて、当事者の方々がそこまで批判的ではなく、それなりに好意的に受け入れていた理由がよく理解できた。まああくまで、オッペンハイマーの人生 という映画だからね。あまりにも被害者の描写をしすぎると、映画の趣旨が変わってしまうので、バランスって難しいよねと思う

3時間という長い映画でノーランも詰め込んだのは理解できるが、どうしてもわからなかったのはこの発表された論文の理論だと原爆作れるやん!→作るか!となるまでの間の心理描写が薄かったかな という気がしている。少し後のシーンでは他の研究者(多分ノイマン?)が自分の研究の行先が大量破壊兵器なのは嫌だと訴えるが、オッペンハイマー自身のそのような呵責についてもうちょっと厚く描写してくれてもよかったんじゃないかなと思った。

原作があるし、歴史的事実なので映画制作側に問題があるわけではない(それ込みでオッペンハイマーの人格として描いている)とは思うが、原爆による推定死者数が想定より多く、少しショックを受けているシーンで、いや万単位で人殺す原因作ったのは結局変わりませんよね・・・・?と感じてしまった。そして死者数はずっと数字上のものとしてだけで示されていて、これが当時の日本の扱いだったんだなと

少し批判的になってしまったが、この映画は心理描写と映像、音響が良いので個人的に人生に影響を与えた映画にランクインしそうである。
この映画は面白いとか泣ける とかそういうくくりにしてはいけないが、影響は確かに大きい

言いたいこと

いろいろnoteの感想を見ていると歴史映画 というのもあって制作陣による演出の至らなさ?と無情な史実、当時の感覚の描写を混同して批判している人もいるが、現実世界においての惨い所業は本当に非難すべきであるけども、歴史上に存在した一人の科学者の人生を描いた作品としてはよくできていると思う。
制作陣は決して原爆を美化しているわけではなく、むしろこれが今のアメリカの価値観なのかなと感じる内容だった。

お詫び

まだ一回しか鑑賞していないので、記憶があやふやなところもあるかもしれません。すみません。もう一度鑑賞する予定です。
あと原作買います



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