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日本人のルーツについて①

【縄文人は本当に日本人の祖先なのか?】

現代の日本人が縄文人と弥生人(渡来人)のミックスだということは、もう一般常識となってますが、縄文人と弥生人がどのくらいの割合で混ざってるのかは明確になっていません。
人骨の形状や考古学的アプローチに加えて、近年は遺伝子研究が進歩して、いろいろな方法で研究されています。

■ Y染色体ハプログループ
父系ルーツを表す遺伝子です。
現代日本人の中で、縄文人ルーツとされるY染色体ハプログループD系統の割合は35%〜40%です。
韓国では南部に多少いますが、中国ではほぼゼロです。
Y染色体ハプログループでは日本人は大陸の人たちとはかなり違います。

1.Y染色体 東アジア1

2.日本人Y染色体

■ ミトコンドリアDNAハプログループ
母系ルーツを表す遺伝子です。
現代の日本、韓国、中国東北部の人たちで比較してみても、大きな違いはありません。
違う点は、縄文人由来とされるM7aとN9bが日本人にいることくらいです。

3.mtDNA_東アジア2

4.mtDNA_東アジア

父系ルーツを表すY染色体ハプログループでの解析結果と母系ルーツを表すミトコンドリアDNAハプログループでの解析結果で、なぜこんなに違いが生じるのか?
いくつか可能性を考えてみます。

仮説1
下のグラフにあるように、関東縄文人のミトコンドリアDNAハプログループは北海道・東北の縄文人とは大きく異なります。

5.mtDNA 縄文弥生現代

これは縄文時代にも朝鮮半島から渡来があったことを示唆してます。
1つ目の仮説ですが、縄文時代の渡来人の女性は縄文人と交配し子孫を残したが、男性は子孫を残せず淘汰されてしまった可能性があります。
その結果、渡来してきた男性のY染色体ハプログループO系統は縄文時代には残らず、一方、ミトコンドリアDNAハプログループに関しては、縄文系に混じって渡来系も残ったという仮説です。

なぜこのような仮説を考えたかというと、アイヌで似たようなケースがあるからです。
アイヌは縄文人をベースに、オホーツク人が交わって成立したと考えられています。
北海道に住んでいた人々のミトコンドリアDNAハプログループは、元々は縄文人と同じでしたが、中世に大きく変化をしています。

6.アイヌmtDNA

オホーツク人が南下して北海道にやってきたことを示してます。
ところが現代のアイヌのY染色体ハプログループを調べてみると、ほぼ縄文人のままです。
オホーツク人のY染色体ハプログループは現代のアイヌにほとんど受け継がれていないのです。
これは中世にやってきたオホーツク人の男はほとんど子孫を残せなかったことを意味します。

同じようなことが、縄文時代の関東以西で起きていたかもしれません。
その結果、父系ルーツを表す遺伝子は縄文人のままで、母系ルーツを表す遺伝子は渡来系に近くなったかもしれないのです。

仮説2
縄文人が九州から海を越えて朝鮮半島に渡っていたことは広く知られています。
彼らがその後どうなったかは不明ですが、大陸で稲作民になったかもしれません。
弥生時代に大陸から渡来した弥生人の中に、父系ルーツの遺伝子が縄文人を示すY染色体ハプログループDの人たちが混じってた可能性があります。

青谷上寺地遺跡で見つかった人骨からの遺伝子解析の結果が参考になります。
父系遺伝子については解析できた4人のうち3人が縄文系、母系遺伝子については32人が解析できて縄文系は1人だけだったのです。
彼らは弥生時代に大陸から渡来して来た人たちなのに、父系ルーツについては縄文人だった可能性があります。
ただし、これは渡来して来た人たちとすでに日本列島にいた縄文人との混血が進んだ結果かもしれませんが。

まとめますと、仮説1では、縄文時代にも朝鮮半島からの渡来があり、男性は淘汰されてしまったが女性は子孫を残した。その結果、縄文人の中に、ミトコンドリアDNAハプログループで渡来系を示す人たちがいた。
仮説2では、弥生人の中に出戻り縄文人が含まれていて、弥生人のY染色体ハプログループがO系統だけでなく、D系統を持つ人たちもいた。

Y染色体ハプログループとミトコンドリアDNAハプログループの不整合について現時点で考えられる原因を挙げてみましたが、もちろん結論を出せるはずもなく今後の研究に期待したいと思います。

縄文人は本当に日本人の祖先なのか?

最近の遺伝子研究はさらに進んで、礼文島と福島県の三貫地遺跡から出た縄文人の人骨を使ってさらに詳しい解析を行っています。

■ 核ゲノム解析
現代日本人が受け継いでいる縄文人の遺伝子は10%〜20%です。

残りの80%〜90%の遺伝子は弥生人由来となります。

・礼文島の縄文人の解析結果

核ゲノム縄文1

・三貫地遺跡の縄文人の解析結果

Y染色体ハプログループ解析とはかなり異なり、ミトコンドリアDNAハプログループの解析結果に近いかもしれません。
この結果からは、日本人の祖先は弥生人であり、縄文人との関係については一部の遺伝子を受け継いでいる程度に過ぎないと言えます。
ちなみにアイヌは縄文人の末裔と言えます。

ただし、この研究は、現代人と北海道・東北の縄文人との比較によるものです。もし関東以西の縄文人と比較したなら、もう少し比率が高くなるかもしれません。

縄文時代の人口分布は東日本に偏ってましたが、現代の日本人に受け継がれている縄文人遺伝子は東日本の縄文人由来ではなく、ほとんどが西日本の縄文人に由来してます。
ミトコンドリアDNAハプログループM7aの分布をサブグループまで含めて見てみますと明らかです。
西日本縄文人のM7a1は現代日本人のうち7%で、東日本縄文人のM7a2は0.5%しかいないのです。

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もし、東日本縄文人と西日本縄文人が大きく異なっていたのなら、現代人に受け継がれている縄文人由来の遺伝子は、上記10%〜20%より多くなるはずです。
現時点で、縄文人が日本人の祖先だと言い切れる十分な材料はありません。
西日本縄文人の遺伝子が現代人にどのくらい受け継がれているかは、今後の研究に期待したいと思います。


このシリーズの他の記事へのリンク
日本人のルーツについて②【現代日本人はいつ頃形成されたのか?】

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