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平沼騏一郎博士生誕祭

Facebookの投稿と同文です。

旧暦慶應3年9月28日


勲一等男爵平沼騏一郎法学博士誕生


一介の判事から欧州に司法研修に赴き、社債信託法成立や裁判制度の改革、検察権の強化、被疑者の人権保護に努め、弱小官庁だった司法省の力と意義を示した。

当たり前のように犯罪捜査に用いる指紋法も欧州でシステムを学び取り入れたもの。


検事総長、大審院長、司法大臣、貴族院議員、枢密院議長、内閣総理大臣を歴任した官吏からの重臣。


よく外交力の稚拙さの引き合いに出される「複雑怪奇」声明も現代人は誤解している。

当時日本はソ連の脅威を封じ込める為にドイツとの提携を模索していたのであって、ノモンハンで死闘を繰り広げている最中に独ソ不可侵条約を結んだのは、如何にヒトラーに「ポーランド攻略の為の時間稼ぎ」という意図があったとしても日本から見れば裏切り行為に他ならない。

これを見た平沼は、条約問題の責任は全てドイツに有るとし、親独派の防共協定締結推進を阻止して外交をリセットするために総辞職したのであった。


『不肖、先に大命を拝し内閣董督の重任に当りて以来、日夜聖旨を奉体して閣僚と協力し一意専心時艱を克服して東亜の新秩序を建設しもって聖戦の目的達成に邁進して参ったのであります、しかして外交は建国の皇謨に則り道義を基礎として世界の平和と文化とに寄与するを第一義としこの方針の下に対欧政策を考慮し、屡次これを闕下に奏聞し奉ったのであります、しかるに今回締結せられたる独ソ不侵略条約により欧洲の天地は複雑、怪奇なる新情勢を生じたのでわが方はこれにかんがみ従来準備し来った政策はこれを打切り、更に別途の政策樹立を必要とするにいたりました、これは明らかに不肖屡次奏聞したるところを変更し再び聖慮を煩し奉ることとなりましたので輔弼の重責にかえりみ洵に恐懼に堪えませぬ、臣子の分としてこの上現職に留りますことは聖恩に狎るるの懼れがあります、なお国内の体制を整え、外交の機軸を改めこの非常時局を突破せんとするに当っては局面を展開し人心を一新するをもって刻下の急務と信ずるものであります、以上の理由により本日闕下に伏し謹みて骸骨を乞い奉った次第であります』

これを読み解く肝は以下の文です。

しかるに今回締結せられたる独ソ不侵略条約により欧洲の天地は複雑、怪奇なる新情勢を生じたのでわが方はこれにかんがみ従来準備し来った政策はこれを打切り、更に別途の政策樹立を必要とするにいたりました。

すなわち、表立って批判できない提携国のドイツを『複雑怪奇』という表現で、その背信を暗に批判しているのです。

なお国内の体制を整え、外交の機軸を改めこの非常時局を突破せんとするに当っては局面を展開し人心を一新するをもって刻下の急務と信ずる

そして、『国内の体制を整え、外交の基軸を改め。』とは親独派を一新し、親英米路線へと舵を切る宣言であるのです。

全文を読まず、複雑怪奇だけ切り取っては意味が分からなくて当然です。


また、政治以外には日本大学総長、大東文化学院総長、大東文化協会会頭、無窮会会長、修養団団長などを務め、教育・文化活動に従事した。

教化的国粋主義団体の国本社の総帥でもあり、平沼自身欧米の制度は取り入れながらも、それを日本流に咀嚼して改良することを重んじ、欧米の価値観に疑問を唱えて日本古来の思想や価値観を守ろうとする真正保守の姿勢を崩さなかった。


その欧米懐疑派の平沼が「親英米派」と見なされて開戦派の強硬論者から暗殺未遂に遭うのだから皮肉です。

(この時、刺客から銃撃された後犯人を追い掛け、駆け付けた警官に捕縛を命じ、自分で部屋に帰って医者を待って治療を受けた強者ぶりを見せています。)


大東亜戦争の戦局が悪化すると他の重臣らと東條内閣倒閣に動き、終戦工作に尽力。


ポツダム宣言受諾を問う御前会議では、「占領軍による天皇の地位の保障」(Emperor and the Japanese Government to rule the state shall be subject to the Supreme Commander of the Allied Powers)を疑問視するなど和戦どっち付かずの態度を見せたことを昭和天皇からは「二股をかけた」と非難されてはいますが、平沼としては断固として國體護持をはかりたかったのでしょう。

8月15日には抗戦派の佐々木武雄陸軍大尉率いる国民神風隊によって鈴木貫太郎首相宅に続いて襲撃を受け家を燃やされた。

終戦後の連合国の復讐裁判である東京裁判では、自らを弁護することなく唯唯諾諾と結果を受け入れ、終身刑に服し、仮釈放中の昭和27年8月22日に幼少の養子、平沼赳夫と日本の将来を案じながら亡くなりました。

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