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転職アドバイザーとの絆

 1か月ほど新しい仕事を探していたのだが、中々上手くいかない。やはり就職はひとりでやると効率が悪い。経験者や一緒に仕事を探す仲間が必要である。

 私はとりあえずプロに相談してみることにした。20代向けの就職、転職の某エージェントに登録すると、すぐに電話がかかってきて面談の日程が決まった。
 面談では私の経歴や性格、将来のプランなどを聞いて、10個程度の求人を紹介してくれた。面談をしたアドバイザーと呼ばれる人は、30代前半の男性で、私の話をよく聞いてくれる人だった。

 紹介された求人は、自分の経歴ではこんなもんか…と自信を失うような求人ばかりだったので、率直に、
「あの、もう少し求人ないですかね。私の希望の業界が一つもないのですが...」
 と話すと、アドバイザーは、その気持ち分かります、と前置きした上で、
「今は転職の時代ですからね。成長してキャリアアップしていけばいいんです。」
 の一点張りで、私もなんだかそれに納得してしまった。

 求人の中からマシなものを二つ選び、面接をして内定までもらったのだが、キャリアアップのための踏み台として、それを秘めながら就職することがどうも納得できなくて、結局辞退してしまった。

 内定を辞退するという連絡をアドバイザーにしたら、即座に電話がかかってきて、私は彼に素直に気持ちを話した。
 すると、親身になって話を聞いてくれる優しい人だと思っていたアドバイザーが、態度を変えて、早く次に受ける企業を決め、面接の日程を組んでしまわなければ、あなたは取り返しのつかないことになると焦らせてきた。

 私はこのエージェントではいい仕事が見つからないと見切りをつけて、別のところで仕事を探す予定だったが、アドバイザーは引き続き自分の紹介した求人を受けるように説得してきた。

 「あなたには何のスキルもないから、あなたが望むような転職をすることは難しい。」
 「1月になると募集が激減するから、早く決めないといけない。」
 「あなたの年齢の今の時期が良い企業が採用してくれる最後の機会です。」
 「私たちが紹介する求人は審査を合格しているから、エージェントを通さない求人サイトの求人は危ない。」
 「自分で仕事探しを進めることはほぼ不可能に近い。」
 「今すぐに決めてしまわないと、あなたの市場価値はほぼなくなる。」
 「自分で企業情報を調べて、私たちが作っている求人票のような情報を手に入れることはできますか?できないですよね?」

 と最終的に滅茶苦茶なことまで言い出して私を説得しに来た。
 何度も面談をして、親身になって仕事を探した関係なので、長い説得を途中で中断する気にもならず、はい、はい、と聞いていると、どういうわけか、引き続き仕事探しをこのエージェントで続けるということになってしまった。

 
 彼は、話を聞いている風にするというスキルを持っていた。
 思えば最初に紹介された求人だって私のつきたい仕事と全く違うものだった。それでも彼は、あなたにはこういう仕事が絶対向いてるとか、この仕事ならあなたの経歴が生かせるとかで、私を何となく納得させてしまった。今考えると、私の話を聞いて求人を探したのではなく、元々ある求人に私の話を結び付けたのである。
 すなわち、親身になって仕事を一緒に探していたのではなく、自分が持っている求人に私を誘導しただけなのである。私に営業していたのである。
 彼は、私が内定を辞退した後、露骨に仕事探しから営業に切り替えたが、危うく私は気づかずに彼を仲間として信頼するところだった。

 まあよく考えてみれば、就活エージェントは仲介業だし、アドバイザーは営業だし、きっと歩合制なのだから、当たり前の社会の仕組みなのだが、信頼しそうになっていただけに、彼の態度の急変は私にとってややショックな経験だった。

 どうしようもない今の状況や気持ちを打ち明けて、
「あなたの気持ち、本当によく分かります」
 と言われて救われたと思った私の気持ちは何だったのだろうか。

 まあこれも、社会勉強か。私はまだまだ未熟だったのか。
 ちょっとだけ、世界ってそんなもんか、と見える世界が色彩を欠いたような気がする。

#note書き初め

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