見出し画像

紅海に浮かぶ島ファラサン島での後悔

رصيف عبارة جزيرة فرسان
https://maps.app.goo.gl/F98Mc6SRSfy33rjV7?g_st=ic

テヘランに居る頃の1997年に、サウジにマングローブ(オヒルギ、メヒルギ)の植林の専門家がいるとのことで、勉強に出かけた。サウジ本土のジザンというイエメン国境に近い港町から高速ボートで1時間、ファラサン島という珊瑚礁が隆起してできた島に渡った。

紅海沿いの地域に住む人々は、人種的にはほとんどがイエメン人で痩せていて精悍な顔立ちをしていた。
海の浅瀬のマングローブ林は小魚を養い、それを餌にする大きい魚が寄ってくるので、沿海漁業に欠かせない大切な装置となっているとのこと。しかし、そのマングローブ林の新芽はラクダが食べてしまうということで、日本人の専門家が入り植林をする計画が進んでいた。

新芽が出ると朝駆けでラクダが現れて食べてしまうので、イタチごっこならぬラクダごっこ(笑)をしているとのこと。
食害のラクダは、飼い主がいるラクダではなく野生のラクダであり、捕まえて早く家畜化すればいいのにと思うのは合理的だが野生破壊的思考だ。何事ものんびりしているアラブの良さは自然にも野生にも優しい。

お昼の食事時には、外にレストランがあるような島でもないので、外国人の我々も島のレンジャー部隊の食堂におよばれして、大きなお盆に乗せたバスマティ米に野菜を刻んだものとフライの魚が乗った炊き込みご飯をアラブ人(イエメン人)と共に囲んで食べることになった。

彼らは、もちろん右手でニギニギして口にほうり込んで食べるが、我々日本人にはスプーンが配られた。食べ慣れないので親切に用意してくれたのかなぁと思って聞いてみると、お前たち(日本人)は食事の前に手を洗わないので汚いとのこと(笑)自分たちのお腹を守るためにスプーンを配ったのだと分かった時はちょっとショックを受けた。ラクダには優しいが、よそ者には優しく無いなぁと。

しかし、日本人に言わせてみれば、「アラブ人は、あそこを左手で洗うけど、その左手を洗うのは右手であり、その右手で食べる飯は衛生的なのか?」と反論したかったが、美味しい飯にありつけたので、アラブ側とは議論はしなかった。とにかくお腹は壊さなかったので、アラブと日本の菌はお互いに交戦しなかったことを喜んだ。

翌日は、太った典型的なサウジ人の研究者が植林の現場に連れて行くとのことで、レンジャー部隊の車ではなく、自分のランドクルーザーに乗って島の端まで行くことになった。途中のガソリンスタンドでペットボトル2Lの水を1人1本づつ買い込み現場に出かけた。現場はちょうど干潮であり、波打ち際まで車で乗りつけた。

現場を見た帰りしなに、車に戻ってみると、タイヤが鋭い刃物状のサンゴ礁で切り裂かれていてパンク状態だった。スペアタイヤはと後ろをみると、付いていない。無線機はというと、レンジャーの車じゃ無いので、装備していない。
我々はアッラーに見放されたことを悟り、ムハンマドのように荒れ野の砂漠をサバイバルすることになった。

しかし、サウジ人のサバイバル術は確かなものであり、どっちを向いて歩くのかと尋ねたところ、高圧線に向かって歩くとのこと。高圧線の下には道路があり、そこを車が走るので助かるだろうと宣った。しかし、我々の目には何も見えないが、サウジ人の目には高圧線が見えるらしいので信じて歩き出した。
それぞれ水を1本持っていて、歩き出したのがまだ朝10時でそんなに暑くなかったので、助かる確率は高かった。

歩き出して2時間、一番先にひ弱な自分がへたったので、サウジ人が小さな木陰で休んでいていいと。後で迎えに来ると言うではないか。直感でそれは危ないと悟って、なんとか皆についていくと食い下がった。置いていかれそうになったことで、こんなところに来たことをとても後悔した。

それから2時間半歩き、道路に出たのが午後2時半。暑い最中であり、誰も車を走らせない時間帯だ。水ものみ果たし、脱水状態で皆で道路に座っていたら、幸いなことに15分ぐらいでピックアップトラックが向かってきたので必死で停めた。

我々が水を買ったガソリンスタンドにアイスクリームを買いに行く途中のガキンチョ様に助けられた。砂漠をたった4時間半歩いたぐらいでヘタるような甘い人間では、人生修行がまだ足りていないと言う事で、アッラーは我々を簡単には見離さなかったのだ。(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?