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NOMAyado column

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兵庫県と徳島県、4年間の2拠点生活を経て、2022年1月から始まった宿プロジェクト。思いをカタチにしていく中で、何を考え、心がどう反応したのか、ありのままの記録と、宿をやっていく… もっと読む
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#ホテル

延命のような暮らしはいらない

思想家で武道家の内田樹さんが、こんなことをある本に書いていた。 よく考えると薄ら寒くなるような話だが、 実はこれって、私たちの暮らしにも似たようなことが起こっている気がする。 とにかくお金を稼いで家計を維持することが最優先で、言葉は悪いが対処療法的というのか、目的地が見えない暮らし。 ひとたび、心もカラダも健康に機嫌良く暮らしたい・・・なんてことを本気で考え始めると、社会のレールから外れ、独自の価値観で暮らしを立てるしかなくなる。 鳴門という地方都市に暮らしてみて思うの

空になった歯磨き粉にニヤついている

昨日は味噌が無くなり、今朝は歯磨き粉が無くなった。 日々暮らしていると当たり前に起こることだが、空になった歯磨きチューブを見つめて、妙にニヤついている自分がいる。気持ち悪い、何?・・・と思われそうだけど、これは鳴門という地に根を張って暮らせているという証でもある。 毎日ちゃんと歯の手入れを重ねていること、毎日たくさんの野菜を入れた味噌汁を作り、バランスの取れた食事を心がけているということに他ならない。 笑われるかもしれないけど、そうした小さな積み重ねを経て、空になった歯

衝動を頼りに生きていく

「ほんと、衝動だけで生きてるな(笑)。」 それは突然思い立って、スパイスカレーを食べに行こうと連れ出した車中で、思わず奥さんの口から出た言葉。あたかも本能だけで生きてる動物・・・みたいな趣があり、確かにそういうとこあるあると、妙に納得してしまった。 食べたいものなんて、何日も前から分からないし、お互い時間に余裕があり、美味しいものにありつけるなら、衝動的で何が悪いのかとも思う・・・(笑)。 ある種のADHD気質というのか、昔から予定を立てて行動をするというのが苦手。 だ

桜に重なるもの

4月に入って、NOMAyado裏の山も俄然にぎやかになってきた。 常緑樹の深い緑をベースに、輝くような新緑が浮かび上がり、そこにアクセントを添えるように山桜が混じる。そのコントラストは生命力に溢れ、まるで山そのものが春を祝っているかのように見える。 「今日はお休みですか?」 山桜を眺めていると、ふいにご近所さんらしき老人に声を掛けられた。 こんなとき、いつも返答に困る。 取り立てて急ぎの用事がなければ、休みとも言えるし、30年以上フリーランスをやってきたというのに、未

宿を立ち上げて1年、これがリアルな今の気持ちです

2024年4月1日、NOMAyadoはオープン1周年を迎えました。 改めて、お越しいただいたすべてのお客さまに感謝、ありがとうございます! 接客の経験はあれど、宿をやるなんてまったく初めてのこと。 手探りながらも、できることをやってきたという気持ちもあるし、多くのお客様を前にしてもなお、果たして本当に宿主としての思いが伝わっているんだろうかという、よく分からない気持ちも湧いてきます。 だから今の気持ちを語るというのは、なかなかに難しい・・・ これまでも、宿を続けてきた中

理想を現実に

お客様の到着を待ちながら、過去に書いたnoteの記事を読んでいる。 まだ、このNOMAyadoの影さえも見えていなかったコロナの時代、次々と映像仕事が中断し、悶々とした日々を送っていた頃に書いていた記事の数々。 コロナ禍で家に居ても、何かできることはないかと考え、文章を書くというスキルをとにかく磨こうと「2拠点生活のススメ」というタイトルで、日々感じることをnoteに綴ることにした。 旅先でも、体調不良でも、例えどんなに忙しい日があっても、とにかく1日も休まずに1年間3

不適切が生み出す癒し!?

奥さんのススメで「不適切にもほどがある」というドラマを見るようになった。 NOMAyadoにはTVはないのだが、TVerがあるのでMacBookさえあれば、ベッドに寝転びながら、食卓に置いてご飯を食べながら、昭和の時代ならお行儀が悪いと怒られるような不適切な方法で毎回楽しみに見ている。(笑) 私もすでに還暦を迎えた立派な昭和のおじさんなので、どうしても小川先生に肩入れしながら見てしまう。だから彼のような不適切と呼ばれてしまう人が、現代人の心を癒す様は、自分みたいな人間が宿

味変を楽しむ

徳島と兵庫の2拠点生活を始めて、早7年目に突入した。 2拠点をしているからこそ分かることだが、徳島産の魚も肉も野菜もクオリティが抜群。しかも新鮮で安い、兵庫で魚は食べなくなったし、野菜も正直食べたく無い だから、鳴門から帰る時は、新鮮な地場野菜や果物、肉や魚なんかもしこたま仕入れて帰る。先日も帰って、もつ鍋をしようと思いつき、いつも行く鳴門の精肉店でミノやらテッチャンやらを仕入れ、新鮮な春キャベツやニラも買い込んで帰った。 もつ鍋は何と言ってもスープが命。圧力鍋でもつを

世界の見方

年末に映画「Perfect Days」を見ました。 主人公の「平山」は、トイレの清掃員。ボロアパートに暮らし、毎日トイレを磨く淡々とした日々の繰り返しの中で、小さな紅葉を育てたり、木漏れ日の写真を撮ったり、自分だけの些細な喜びを積み重ねていく。一見、時代遅れで地味な暮らしを送っているだけに見える「平山」だけど、自分にとって何が心地よいかをちゃんと知っていて、それを丁寧に味わいながら暮らしている。 映画を見ながら、どこか自分の姿を「平山」に重ねて見るような感覚が生まれ、やっ

さあ、旅に出よう!

2023年も残すところ1週間をきり、このnoteも今年最後の記事となりました。 今年4月にNOMAyadoをオープンして、あっという間の年末。とてもゆっくりとした立ち上がりでしたが、暖かくなるにつけお客さまも少しづつ増えて、楽しい語らいの時をたくさん持つことができました。いろんな年代、いろんな職業や境遇の方と出会いお話しを伺えたことは、私にとってかけがえのない財産となり、大きな喜びとなりました。 改めてNOMAyadoを訪ねていただいたすべての方々に、お礼を申し上げたいと

鳴門海峡 冬の風物詩

冬の訪れと共に、NOMAyadoのある小さな港町が活気づいてきた。 鳴門名産であるワカメの種付け作業が佳境を迎えており、種付けに使うロープを積んだトラックが行き来し、NOMAyado前の小さな港からも頻繁に漁師の船が出入りするようになった。 鳴門ワカメの歴史は古く、1000年以上昔の文献にも阿波の国(徳島県)の貢物としてワカメが使われていたという記録があるほど。年間の生産量はおよそ7700トン、生産量では三陸ワカメには及ばないが、鳴門ワカメは強いコシが特徴。鳴門海峡の激し

深く味わえる自分でいること

落語が好きだ。 もともとうちの奥さんが落語好きで、柳家さん喬、柳家喬太郎、立川志の輔、春風亭一之輔など、彼女が贔屓にしている落語家さんの会にも顔を出すようになって、ますますその奥の深さを知り、抜けられなくなってしまった。 落語というのは舞台セットのない演劇のようなもの。 巧みな話術と感情表現を交えた人情噺などを聞くと、思わず涙がこぼれるなんてことも起きる。何もない舞台を前にしているはずなのに、頭の中に次々と映像が立ち上がってくる。上手い落語家というのは、ただの語り部ではな

「泊まる」ではなく、「暮らす」場所

NOMAyadoは「泊まる」というより、たとえ短い時間だとしても、お客様にとっての「暮らす場所」でありたいと思っている。 ここにある海はリゾートというよりは、住民を運ぶ渡船があり、わかめの荷上げ場があり、造船所があり、といった暮らしの中にある海。この辺りの漁師や老人は、知らない人にでも気さくに話しかけてくれるし、街から来た皆さんとは少し違う暮らしかもしれないけれど、ローカルな暮らしを身近に感じることができる場所。そうした違いを肌で感じることで、当たり前だと思っている自分の暮

「暮らし」が仕事、仕事が「暮らし」

兵庫・徳島の2拠点生活を始めて、まる6年になる。 当初徳島は、親の介護や仕事のストレスから逃れるシェルターとして、月に数日、美味しいものを食べたり、サーフィンをしたり、言わば心の洗濯をするための場所だった。だからというわけではないが、急ぎの仕事を持ち込んでもさっぱり進まなかったし、心が浮かれているせいか、ゆっくり本を読むなんて事もできなかった。 月日は流れ、いつの間にかその立ち位置は逆転。 兵庫は月に数日、映像仕事などの用事を済ませるために向かう場所になっていた。 ・・