_2019-09-02_下午9

中国ドラマにおける「抗日」の今

中国には「抗日ドラマ(日本の軍人が出てきてひどいことするやつ)」というジャンルがあるのだけれど、北京に来てからもしばらくその存在を知らずにいた。中国語学習にドラマは必須で、中国の友人にオススメを聞いていたんだけど、その中に抗日ドラマが入っていなかったから。友人曰く、俺が日本人だからという以上に、彼自身がそれ系のドラマを面白いとは感じないから薦めなかったとのこと。

自分としてもわざわざ気分悪くなる必要ないから避けていたんだけど、自らレビューなどより見つけたフツーのドラマの中に、いきなり抗日的表現が出てきたことが2回あった。一つは「闯关东」というドラマで、家族が貧しさから抜け出して一緒に暮らすために力を合わせて生きていくという、はっきり言ってちょー名作。もう一つは「千金女賊」というドラマで、以前熱く語った杨佑宁が出ているということで見始めたもので、三角関係、記憶喪失、身分のなりすましなど昼ドラ要素満載のこれまた娯楽作品としてはめっちゃ面白いものだった。いずれも日本人はラスボス的な、最後に倒すべき役割で出てくる。抗日表現がなければオススメドラマで絶対紹介したいと思うところだけど、心のちっちゃい自分はやっぱり繰り返し見る気にもなれなかった。

そんな抗日ドラマが最近激減している、というニュースを見た。

そしてその理由を以下のサイトから引用する。
”ネットユーザーの中から抗日ドラマの放送禁止を呼びかける声が拡大している。「社会悪だと言うなら、抗日ドラマこそが社会悪の代表」「ウソだらけで誰も信じている人はいないようなドラマは即刻やめるべき」「あれはもはやファンタジー」などといったコメントが上がっている。”

それに加えて、役者の中からも”「破天荒な抗日ドラマ、歴史を改ざんした作品には出演しない」というのが、自分自身に課した原則”という声が上がっている。ちなみに以下の記事の陈道明は、個人的な印象としては日本では高倉健レベルと思われる中国を代表するスーパースターで、自分が見ただけでも「楚汉传奇(項羽と劉邦)」の刘邦、「康熙王朝」の康熙帝、「臥薪嘗胆」の越王勾践と主役ばかりやってるようなまさにキング。現代劇の「我的前半生」では上海にある日本居酒屋のマスターの役で、若い女の子にもモテモテなかっこいいオヤジを演じている。

これすごいなって思うの俺だけじゃないよね?だって彼らは(ほんとかどうか確認してないけど聞いたところでは)反日教育を受けてきて、そのあともこういう抗日ドラマを日常的に見て育ってきたわけでしょ。それなのに「あれはもはやファンタジー」なんて共産主義教育がある意味失敗しているんじゃないかってくらいのガン無視状態。報道規制、全体主義と言われている中国の中で、なぜにここまで柔軟で自由な思考ができるのか。中国人の底知れぬスルー力ってどこからくるのか、これ頭のいい研究者が人生を捧げて研究するレベルだと思うよ。いつか自分も考察してみたいと思う。

ここまで書いてなんだけど、この「抗日表現」が完全に無くなるのは極めて難しいとも思う。なんせ都合がいいわけ。「よくわからんけど一般的ではない力を持って陰謀を巡らせる悪役」というアメリカドラマにおいて昔はソ連が、今はCIAが引き受けているような役割を果たせる組織って、やっぱ旧日本軍以外にはないというのが一つ。あと、ジャンプの漫画みたいに敵だったのが友人になり、最後の敵に立ち向かうって時に「何を売っても国は売らない」なんて決め台詞とともに愛国心を呼び覚ますような敵役も他には見当たらないってのがもう一つ。

幸いなのは、アメリカドラマでCIAが悪役なのをみて、本当に「CIAは許せない!」って思うアメリカ人の数と同じくらい、日本に対して悪意を膨らます人は少なさそうってこと。そしてそれがどうしてなのか、そのあたり意識して中国人を観察していきたいと思います。このスルー力、どの国の人であれ学ぶ価値があると思う。

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