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Pubmedを使ってRoyalty Pharma(RPRX)の今後の成長を探る①

 明けましておめでとうございます。今年最初の記事ではRoyalty Pharmaについて解説したいと思います。
 会社背景やビジネスモデルに関してはすでに良い記事が出ていますので、簡単な説明のみとし、本記事ではRoyalty Pharmaの収益を担う、新薬の開発状況に焦点を当ててお話ししたいと思います。

Royalty Pharmaの概要

 Royalty Pharmaはもともと投資銀行の製薬部門で働いていたPablo Legorreta氏が1996年に創業した会社です。2020年6月にIPOされ、その後の株価は以下のように推移しています。

RPRX share price

 一見製薬会社かと思ってしまいますが、Royalty Pharmaは自身が新薬を開発したり、治験を行う製薬会社ではなく、薬剤の特許権から収益を得るビジネスを展開している会社です。
 一般的に新薬を開発するまでには膨大な費用と時間がかかります。新しい治療薬の候補を見つけたとしても、複数回の臨床試験で安全性と治療効果が証明されなければいけません。そのハードルを突破したあとには、製造と流通の管理、医療業界へのマーケティングなどが必要となります。これらを1つの会社や大学などの研究組織が担うのは負担が大きく、ここにビジネスの価値を見出したのがRoyalty Pharmaです。
 Royalty Pharmaは有望な新薬候補に資金を投資をすることで、臨床試験やマーケティングを補助し、その見返りとして特許権の一部を得ます。特許権の一部を得ることで、新薬が完成し、販売されたのちに、売上高の一部を受け取り続けることができ、これが収益となります。特許権は各薬剤にもよりますが、15年から20年程度持続します。

現在取得している特許権

Investor Day May 17, 2022 参照

 現在45項目の特許権を有しており、そのうち12項目はBlockbusterと言われる稼ぎ頭、ヒット商品です。内訳を見てみますと、膵囊胞線維症 (日本では今まで100例程度の報告のみで、欧米に多い病気)の治療薬、Tysabri ( = Natalizumab)、Imbruvica ( = Ibrutinib)などの生物学的製剤などが収益の多くを占めています。

*豆知識1 生物学的製剤*
特定の分子を標的とした治療薬で、高度なバイオテクノロジー技術(遺伝子組み換えや細胞培養)を使って開発された薬剤を指します。
開発費用が高い分、患者の費用負担も大きくなります。例えば、TNFαという分子を標的としているリウマチ治療薬のレミケード( = infliximab)は日本の保険制度で3割の負担でも年間50万円程度かかります。

*豆知識2 薬剤名の表記*
薬剤は商品名 ( = 一般名)で記載しています。商品名は各会社が販売に際してつけた名前で、一般名は薬剤の有効成分、主成分を示しています。
一般名を見ると薬剤の作用機序などに関するヒントがあることが多いです。例えば、一般名末尾のmabはmonoclonal antibodyを指し、tinibやnibはtyrosine kinase inhibitorを指しており、これらの薬剤は一般的に生物学的製剤です。

Q3 2022 Financial Results 参照

投資している新薬の現在進行中のClinical trialもまとめられています。

Q3 2022 Financial Results 参照

*豆知識3 Clinical trial*
日本語で臨床試験と同義。Phase 1, 2, 3に分けられます。
Phase 1は少数の健康な成人を対象として薬剤の安全性や薬物動態などを調べる試験
Phase 2は少数の患者を対象として有効性と安全性などを調べる試験
Phase 3は多数の患者を対象として今までの治療薬などと比較して有効性と安全性を確認する試験


今後の展望

 上に示した現在特許権を保持している薬剤は、いずれも数年のちには特許権が失効し利益を生み出さなくなります。投資家の立場からするとこれらの薬剤はあまり重要ではなく、それよりも今後どのような新薬の特許権を獲得するかということが重要であり、株価に直結してきます。
 直近のカンファレンスコールの資料などからは以下の3つの薬剤が現在争点となっていることが窺えます。
1. Gantenerumab
2. MK-8189
3. Trelegy

 これらの薬剤は今どの開発段階にあり、どのくらい有望なのでしょうか。以下ではこれら3つの薬剤に関して、カンファレンスコールなどの資料やPubmedを使いつつ見ていきたいと思います。

*豆知識4 Pubmed*
医学関係の文献検索ができるデータベースです。専門家による査読を経てPublishされた論文が検索できます。薬剤名や病名などを入れると最新の論文が検索できますし、医師の名前を入れるとどのくらい論文を書いているかも見ることができます。

1. Gantenerumab

 GantenerumabはHoffmann-La Roche社が開発しているアルツハイマー治療薬です。名前の最後がmabで終わっており、ある特定の分子に対するモノクローナル抗体であることがわかります。調べてみますと、Gantenerumabはアルツハイマーの原因であるアミロイドβを標的としたIgG1抗体と記載されています。

1-1. トライアル
 これまでのトライアルの経過や結果は以下のサイトで確認できます。

 経過を追ってみますと、今までアルツハイマー患者や若年性アルツハイマー患者に対して治療の効果を検証してきましたが、有意な治療効果はなしという結果になっています。最近では2022年11月に新たな発表がありましたが、こちらでもアルツハイマー病患者の認知機能悪化を減速する効果なしとなっています。

1-2. Pubmed
 さらにPubmedでGantenerumabと検索し、最新の論文も見てみましょう。
日付でソートしますと、2022年12月に"Therapeutic anti-amyloid β antibodies cause neuronal disturbances"という論文が発表されています。
 過去のトライアルの結果を見てみると、Gantenerumabを使用した患者では画像上、脳に微小出血や浮腫などの所見が認められたと記載があります。原因としては薬剤投与により、炎症マーカーの上昇が見られ、これが良くない作用を及ぼすのではないかという考察がなされています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36515320/

1-3. カンファレンスコール 
 次に直近のカンファレンスコールの最初の質問がGantenerumabの見通しに関してでしたが、返答は以下のような内容でした。
"As you know, we've taken a pretty conservative approach. We did not include gantenerumab in any of our long-term guidance figures, we do -- recognizing that it is higher risk. But if it were to work, I think there's a lot of reasons to be pretty optimistic that it could be a pretty nice selling drug. And so I think at that point, we would look to -- obviously, we want to see the data"
 現在も複数のトライアルが進行中ですし、今後発表されてくるデータもありますが、過去の研究結果を鑑みると、株価が急騰するような結果は望み薄ではないでしょうか。

トライアルの経過


*引き続き今後の記事でMK-8189、Trelegyに関しても記載予定です。

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