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「科学の知」と「臨床の知」

「科学性」「エビデンス」というのは多くの人々に信頼されることを意味します。人間が本来持ち備えている「生命力」や「自然治癒力」を引き出すために目には見えない生体エネルギーや脳の誤作動の信号や記憶を対象にしている治療家(施術者)にとって、その画一化された「エビデンス」を強調すると、実際の臨床にはほとんど役に立たないということに直面します。

米国のカイロプラクティック大学を卒業するとDoctor of Chiropracticの称号が授与されます。Doctorの称号を得るにはそれに相応しいアカデミックな教育を受けなければなりません。私も有機化学や微生物学などのサイエンスの基礎教育も受けてきましたが、それがどれだけ臨床に役に立っているのか実感がありません。

しかしながら、恐らくあのような過酷なカリキュラムで猛勉強したことは思考力を身につける上で修練させていただいたでしょうし、大学での教育プログラムをクラスメートと共にやり遂げたという経験はさまざまな仕事に生かされていると思います。あの勉強漬けのカイロプラクティック大学の時期を経験したおかげで、少々の困難には耐えていける精神的体力が身についているのではないかと思います。

心身条件反射療法は、近代科学の方法論によって体系化されたものではなく、臨床現場での経験体験に基づいて体系化されたものであるということは明らかにしておきたいと思います。「科学の知」に対する「臨床の知」という言葉がありますが、私たち施術者は「臨床の知」を深めていくことが求められています。

人間の構造面、いわゆるハード面を対象とする外科的手術などの場合や感染症などは「科学の知」が重要になってきます。一方、人間の心理面が関係する自律神経の問題や脳の電気信号が関係するソフト面の問題は「臨床の知」が重要になってきます。これは科学的という領域で説明し難い分野でもあり、施術者と患者との相互的な関係性がとても重要になります。つまり、同じ患者を対象にした場合、施術者が変われば、検査結果が異なる場合もあり、また、施術の結果が異なる場合もあるということです。

皮肉なことに、セミナーにおいても「科学的に・・・」、「データによると・・・」「リサーチでは・・・」などの引用やエビデンスを全面に出すと、信頼度が高まります。しかし、それは「科学の知」であって、「臨床の知」ではないので、臨床現場ではあまり役に立たないことが多いようです。単に科学性、客観性があるから信頼できるというだけで、すべての人に効果があるというわけではありせん。

特にソフト面(心の動き)の問題では施術者と患者との関係性が相互的に影響し合うものです。多くの臨床家や患者は「科学性」ということに信頼を寄せる傾向があります。私自身も長年の臨床経験で「科学性」という情報は大切にしてきました。マクロなデータに基づいたエビデンスには至らなくとも、何よりも臨床現場での「客観性」「再現性」を日々の施術で大切にしながら研究を積み重ねてきました。

量子力学などの最先端の研究も究極的には「自然界の法則」を対象にしているのだという視点に立てば、施術法の臨床研究も「自然治癒力の法則」、すなわち「自然界の法則」を対象にしています。そのような意味において、「科学の知」と「臨床の知」の背後には、共通した「自然界の法則」をベースにした研究の上に成り立っていると言えます。


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