読書についての手記 3

私は刑務所に入りたい。ただ見学したいとか、恋人が塀の中にいるとかいう訳じゃないのよ。受刑者になりたいのです。理由は察してくださいませ。

ですが、この目的を達成するには罪を犯さなくてはいけないのよ。そんなことできるはずがないじゃありませんこと。だって私の我儘のために誰かが不幸にならなくてはいけないなんて精神衛生に良くないでしょう。軽い犯罪じゃダメなのよ。私が欲しいのは無期懲役だから。つまりは重犯罪が必要なの。そして重い犯罪には被害者の不幸が副産物として代謝されるのよ。そんなの耐えられない。うまくできたとしても罪の程度を誤って死刑が宣告されたら一貫の終わりだわ。それだけは絶対に許されない。死ぬなんて本末転倒もいいとこよ。

判例を調べてみたけれど、矢張り無期懲役には他人の不幸が必須みたい。殺人、強姦、放火、他にもあるけれどどれも私向きじゃない。そもそも他人に迷惑はかけたくないのよ。これって偽善とかそんなレヴェルの話ではないのよ。

私キリシタンではないのだけれど、あの教義って確か人は生まれながらに罪を背負っているのよね。改宗すれば服役できるのかしら。私は生まれながらの罪人です、罰をお与えください裁判官殿。こんなの赦されるに決まっているわ。だってキリスト教徒がみんな刑務所にいるわけではないものね。別にキリスト圏の社会を豚小屋のメタファーとして語りたい訳じゃなくってよ。これは信じてくださいませね。

過去の犯罪でも良いのかしら。確か殺人事件には時効がないのよね。何年前か忘れてしまったけれど、私、殺人教唆をしたって言われたことがあるの。誰が亡くなったのかは忘れたわ。少なくとも三人は殺されていた筈よ。私にとってはまさに晴天の霹靂だったわ。あまりに唐突に指摘されたんですもの。納得なんて出来なかったけれど、今なら逆に利用できそうね。

あれは何処にしまったかしら。市松模様の床とリュートを弾く青い薔薇の顔。見つけ次第自首するつもりよ。

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