ラテックスの中のエントロピー或いは三角関係 2

 デンは二人と常に一定の距離を置いていた。二人というのはもちろんチュンとヨーコだ。デンは彼等に近づくことも離れることもできなかった。多分それは彼自身とヨーコの属性の差異による影響が大きいようだった。そのためデンは今まで一度も自分以外の他者の温もりに触れたことがなかった。しかしデンは自分の宿命とも呼べる境遇を悲観することはなかった。寧ろ進んで受け入れた。「彼等には僕が絶対的に必要なのさ。おれがあいつらを守ってやらなくちゃな」そう自分に言い聞かせては抱き合う二人を眺める。

 デンはこの世界の仕組みに魅せられていた。ある日、デンはこの世界の果てに柔らかい膜のようなものがあることに気づいた。彼等三人が築いているコミュニティの全方向にその膜があるようだった。その膜は乳白色と淡黄色と白桃色が混じり合ったような、産まれたばかりのモンゴロイドの頬っぺたのような安寧な色彩だった。この世界は伸縮自在の包容力をもって穏やかな秩序を保っているようだった。しかしデンは気づいていたのだ。自分たちはこの居心地の良さに甘やかされたただの囚人であることに。

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