ラテックスの中のエントロピー或いは三角関係 1

 チュンは物心がついた頃からずっとヨーコと一緒だった。まさに寝食を共にするという間柄。世間一般からすれば幼馴染みとでも呼ぶのだろうが、下衆な輩は許婚いいなずけなどと揶揄してきた。気心の知らない他人がアセクシャルや性的マイノリティである可能性をこれっぽっちも想像できない連中が世の中には多過ぎるのだ。

 チュンとヨーコの結びつきはとてつもなく強固なものだった。それはまるでISSにランデブーするシャトルのように完全に結合していた。互いに束縛し合い、単独行動の禁止というルールまで作り、互いを律した。流石に度が過ぎていると感じる関係性ではあったが二人は幸せだった。

 チュンとヨーコは生活を楽しむことだけに生き甲斐を感じていた。しかし二人は常に監視されていた。監視する者はデンと呼ばれていた。ヨーコはデンのことをとてつもなく毛嫌いしていた。
 「あいつは私と正反対の属性だと思うわ」とヨーコはデンのことを評した。
 「なんでそんなことがわかるんだい」チュンが尋ねる。
 「なぜって、感覚よ。ただ感じるの」
 「多分僕とも正反対の属性なんだろうね」
 「あなたは違うの」そう言うとヨーコは微笑んだ。
 「ねえその属性ってのはジャンケンみたいに三つ巴の関係ってわけじゃなさそうだね」チュンは少し不機嫌そうに言った。
 「不貞腐れたあなたって可愛い。そうね、あなたは私と彼を直線で繋いだ丁度中間の属性ってことになるかしら」ヨーコは笑顔のまま答えた。
 「君が白で彼が黒なら僕はグレーってことかい」
 「あなたって本当にお利口さんね。でも色で例えるならあなたは透明よ」そう言うとヨーコはチュンの掌に自分の手指を這わせ、それぞれの指を絡めるとそのまま自分の舌でチュンの口唇を舐めた。チュンは完全に受け身になっている自分に気づくと、右手だけヨーコの絡みから解放し、そのままヨーコの後頭部を撫でた。しかしその時チュンの頭の中はデンが何者かという疑問がプラークの如くこびりつき蝕んでいた。
 

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