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「戦争勃発、味覚をやられた」僕とコロナのn日戦争 4/24 中編


病院に着くと正面玄関前には検温ブースが設営されていた。看護師さん達が複数人とパイプ椅子が10脚程度あった。僕は電話で言われた通りに正面玄関前に向かい、近くの男性スタッフに事前電話した旨を伝えると、玄関口にあったインターフォンで名前を名乗るように指示された。

言われた通りにインターフォンを押すと女性の方が出て、今からスタッフが向かうから待機するよう伝えられた。

待機して数分後に男性スタッフがバインダーに挟まれた問診票を持ってやってきた。実は、この市立病院には初診だったため診察券を発行してもらう必要があったのだ。正面玄関を挟んで検温ブースと反対側にもイスと長机が設営されており、そちらへ案内されて問診票を記載した。

記載し終えるとスタッフが紙を回収して、また1人で暫く待機する事となった。市内で一番大きいと言っても過言ではない病院のため、待機している間にも来院する人たちは高齢者を中心にたくさんいた。既に自宅で検温してから来院してきた人はスタッフに事前に検温済だという事と体温を自己申告すればスルーされる方法も採用していた。

そうこうしていると、先ほどと同じスタッフが戻ってきて診察券を渡してくれた。そして、診察する場所へと連れられた。正面玄関から入るのかと思いきやそのまま玄関の目の前を横切って建物周りの通路を進んでいった。”あれ?これ何処行くんだろう?”と不安になりながらスタッフの後を付いていった。

案内された場所は救急病棟だった。中へ入ると自分を含めて患者は3名しかおらず、病棟内全体が独特な緊張感に包まれている気がした。ベンチに座って待つ様にスタッフに言われたので、案内されるがままにベンチに座った。5つくらいある診察室の奥からドタバタとひっきりなしに物音が聞こえてくる。そのうちの一つの診察室から女性看護師2人が出てきて別の診察室へ消えていった。全身防護服に包まれていてキビキビと早足で歩いて行った。

「そうか、ここはコロナの疑いがある人が通されるところか。」と分かった。どうやら自分は電話で事前に症状をきちんと伝えていたために、病院へ到着する前からコロナ罹患疑惑をかけられていたようだ。先ほど別の診察室へ消えていったスタッフの内の1人が僕の元へやってきた。そこにはバインダーと紙が挟んであり、まず最初に看護師が取り出したパルスオキシメーターで血中酸素飽和度を計測してもらった。この数値が94以下(飽和度94%以下)だとすぐに自治体が設置しているコロナ対策の電話番号に連絡をしなければならないらしい。幸いにも自分の数値は97だったため、急ぎ集中治療室や緊急入院の必要は無さそうだと告げられた。体温も計ると37.4℃とやや微熱。そのまま一問一答の問診が始まったので倦怠感や若干の手足の痺れ、喉の痛み等を事細かく伝えた。そして、一日にタバコ1箱20本とお酒250ml(ウイスキーや芋焼酎)を嗜むことを告白すると、今すぐ禁煙しなさいと怒られる。高血圧気味だということを伝えるとますます減酒禁煙をするように強く言われる。

一問一答の問診が終わった時に、駐車券を車内に忘れてしまったことを伝えると「よっぽどの事情が無い限り、スタッフの許可無しでは簡単に病棟から出る事ができないんです。」と言われた。なんという徹底ぶり。いかにコロナの感染力が強いのか思い知らされる。

その後に別の病棟の医療スタッフと思しき女性の方が入り口から僕たちのフロアへやってきた。誰かを探しているみたいで診察室の扉の前で中にいる人に向かって声を掛けると、中にいたスタッフから大きな声で「なんでそこにいるんですか!」と注意されていた。そう、この病棟はコロナの感染リスクが非常に高まっているため、病院側の関係者もこの病棟で働いている人以外は立入禁止となっている。

そんなやり取りを眺めていると、放送で名前を呼ばれたので診察室へ入室した。ここまでの経緯と今の症状を担当の女医さんに伝えると、PCR検査を受けるかどうするかと尋ねられた。「PCR検査を受けますか?ただ、受けるとこの後も何回か受ける必要があるかもしれませんし...」どうやら国の方針も定まっていないらしく断定的なことは言えないそうだ。

「でも、受けないとマズいですもんね。笑」と言うと、「まあ、そうですね。」と返されたのでPCR検査を受けることに。正面玄関の掲示物に『当院ではPCR検査を受け付けておりません。』と書かれていたけれど、あれはきっと誰でも受けられるわけではないぞ!って意味であって、医師が必要と判断した人はPCR検査を受診できるんだと改めて分かった。

女医さんとの診察も終わって診察室から退室すると、待合のフロアに少し人数が増えていた。

最初に一問一答形式で問診してくれた看護師さんに連れられてPCR検査を実施する診察室へ通された。10年近く前に新型インフルに罹患して以来の鼻に突っ込まれる検査だ。「鼻水とか大丈夫?」と聞かれたので、「鼻血ならめっちゃよく出ます。」とアホな回答をしたら、笑われながら「ティッシュを持っていたら用意してください。」と言われた。

「行きまーす。」と聞こえると同時に思いっきり鼻に細長い棒が突っ込まれた。採取自体はすぐに終わったのだが、気づいたら大粒の涙を両目から溢していた。「ああー、痛かったねえー。もう大丈夫だよー!」と優しくあやされるような口調で看護師さんに言われた僕は、「ああー、なんか涙出ちゃってすみませんー。」と答えつつも年上女性に弱いという僕の一面が出てきてしまい、”年上女性からこんな感じもありかも”とM気質に目覚めそうであった。

無事に採取も終わって待ち合いフロアに戻って再び待機をした。

先程、対応してくれた看護師さんがやってきて今日の診療は終わったと言われた。「これで陽性だったら困るなー。まだ保険とか入ってないんですよー。」とぼやくと、「あらあ!ダメじゃない!これを機にきちんと入ったほうがいいですよ。」と言われた。すると、近くにいた女性の方が、「公費負担になるから大丈夫ですよー。」とアドバイスをしてくれた。陽性患者の入院等は国が定めた指針のため、それらにかかる費用は全て税金で賄ってもらえる。

僕は、アドバイスをしてくれた女性に「ありがとうございます。」と伝えると、「まあ、陽性になってから考えればいいんですよ。」と返された。暫くすると、病棟へ案内してくれた人とは別のスタッフの人がやってきた。お会計と薬の渡しをその場で済ませてくれて、最初から最後まで病棟を途中退出することはなかった。

薬と領収書と共に神奈川県が作成した「自宅・宿泊施設療養のしおり」を手渡された。そこには自宅や宿泊施設での療養にあたっての注意事項等が記載されていた。また、別冊子には毎朝夕の検温と喉の痛みや倦怠感の有無についてのチェック項目リストも載っている健康観察表もあった。

自宅に体温計が無いことは問診の時にも伝えており、その時看護師から「もしかしたら病院内に売っているかもしれないから、マスクを絶対に着用した状態なら売店に行っていいです。」と言われたので、病棟を退出して再び正面玄関へ向かった。

マスクを着用していれば病院内の売店へ行っても大丈夫と言われたものの、これで陽性だったら後々になってヤバいなと思い、正面玄関まで戻ると近くにいたスタッフに声を掛けた。体温計が無くて売店を探したいと伝えると、代わりに探しに行ってくれた。ここの病院は対応も柔軟できめ細かくて本当に助かった。そして、今思えば院内へ入らないで本当に良かったと安堵している。

数分後に探しに行ってくれたスタッフが両手を胸元でクロスしてバッテンを作りながら戻ってきた。やはり、もうどこにも体温計は無いのだそう。妊婦さんが使うようなコンマ2桁まで表示される体温計もどこにもないとのこと。

「ありがとうございました。」と伝えて帰路に着いた。

...続く。

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