入店拒否をされた話

 まだセクシャルマイノリティーやLGBTという言葉が世間に浸透していなかった頃、まだ学生だった僕は、高円寺に縁があり、よく高円寺に飲みに行っていた。

 いつも通り、その日も行きつけのお店で仲間と楽しく飲んでいると、次のお店をどうするかということで色々なお店の名前が挙がった。

 そして、飲んでいた内の1人が自分の飲み仲間のやっているお店に行こうと言い出した。その飲み仲間は当時40代くらいのどこにでもいるようなおじさんで、僕も何度か居酒屋でお会いした事がある人だった。

 ただ、具体的にどんなお店を経営しているのかは知らなかったので、面白半分でそのお店に行くことになった。

 お会計を済ませて、お店を知っている仲間に先導されながら、目的地へと向かった。

 そこは、ミックスバーだった。ゲイもレズもOKでノーマル以外ならOKのお店だった。飲み仲間も行くのは初めてだったらしく、入り口のドアを開けて、飲み仲間のおじさんに挨拶をした。すると、おじさんは笑顔を保ちつつもやんわりと入店を断ってきた。

 「久しぶりですー。4人だけど大丈夫ですか?」

 「おおー、久しぶり。席は空いているんだけど、みんなノーマルでしょ?残念ながら、うちはノーマル客は断っているの。ごめんね。」

 たしか、こんな感じの会話のやり取りだった。飲み仲間や自分もお酒が入っていたので、そこをなんとかー!みたいな感じでやり取りを続けたけれど、結局は入店NG。

 ちょっと気になるなーと思いつつも、その後、僕たちは別のお店で朝まで楽しんで飲んで帰路に着いた。

 LGBT運動がメディアで連日連夜取り沙汰される頃、僕の親友であるレズの子がボヤいた事があった。

 「別に私たちは昔から慣れているから何ともないんだけどねー。LGBT運動を熱心にやっている人たちなんて、私たちからすればいい迷惑だよ。別に私たちは私たちの生き方でひっそりと幸せに生きているのに。」

 こんな言葉を言っていた覚えがある。

 どうしていきなりこんな話を書いたのかというと、この間1人で居酒屋で飲んでいた時に、初対面の自分について根掘り葉掘り聞いてくる女性と遭遇したからだ。

 僕は、秘密主義者というわけではないが、必要以上に自分や他人の事をベラベラと言うのは好きではない。

 ましてや、自分の好きなものや興味のあるものについて、生半可な知識で知ったかぶりながら同調してくる人はとても苦手だ。興味津々で目を輝かせてくれる人には、こちらも楽しませようと色々と話すが、前述のようなタイプの人は、知識だったり色々なところからマウントを取ろうとする傾向があるので、こちらも社交辞令程度の必要最低限の会話で切り上げてしまう。

 きっと、入店拒否をされたのも彼らの世界を荒らされたくなかったのだろうと今なら分かる。

 本人達は、ひっそりと誰にも迷惑を掛けずに自分達の世界で完結して楽しんでいるのに、僕のような無知で興味津々な人間は、相手の事を考えずに簡単にボーダーを越えてしまうかもしれない。

 先日もヒップホップがSNSのトレンドに入っていた。

 「ヒップホップはDQNか陰キャしか聞かない」

 と有名人が発信した事が発端らしい。別にそれは個人の感じ方だからどうでもいい。でも、そこにこういう色々と良い曲があるだとか、ヒップホップの定義だとか、色々な人がヒップホップについて反応していて、それを見た時に、「あー、面倒くさいなー。ヒップホップなんて自分達が楽しければどうだっていいじゃんー。」と1人でボヤいてしまった。

 まさに、親友と同じセリフだった。

 ミックスバーに入店拒否をされた事も今となっては良い勉強になったし、むしろきちんと棲み分けをしていて流石だな、と思った。

 たまにある、ノーマル客OKのゲイバーでゲイのフリをしたノーマルなキャストに騙されて、肉体関係を持つだけ持って捨てられた、という話よりかは数千倍マシだと思う。(これは余談だけど、これを見た人が被害に遭わないように注意喚起も込めて書きました。)

 この時代、誰とでも顔を合わせずに繋がる事ができてしまうが、それ故にLGBTやヒップホップのような世界にも見知らぬ人が興味本位で土足で入ってくる事も増えてきた気がする。

 お互いに踏み込まれたくない部分は、踏み込まないように、みんなが周りに迷惑を掛けずに自分達の世界で楽しめる事が今後さらに大切になっていく気がする。

 

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