見出し画像

現実思考抄


 人生は3枚のカードであるーー。

 大分前の話だが、神楽坂特集という見出しに惹かれ、手に取ったフリーペーパーで故藤本義一さんのコラムを読んだことがある。物書きのための研修講座をやっていた筆者が、年齢や発想力がバラバラなクラスを少しでもクリエイティヴにし、風通し良くするために、ある実験をしたところ、ことのほか成果を得た、という内容。

 それは、生徒に
「現在、自分が書いてみたい物語を十分間考えてほしい」
 そして
「今の十分間で考えたことを、五分以内で百字の文章にしてほしい」
というお題を出すというもの。 

 すると出来上がって提出された文章は、次の三種類に分かれる。 
 過去の話。(自分史ふうの物語)
 現在の話。(自分の体験を踏まえた物語)
 未来の話。(宇宙空間の仮想物語)
 面白いことに、この三種類はいつも等分の比率になる。大きな差は生まれてこない。そして、同じ想像の人たち三派に並ぶように席を替えてもらう。この時、いつも教室には軽いざわめきがが起こり、爽やかな一体感が漂うものである。
 自分と同じ考えで生きている人間が周囲にいるというのが人間の求める唯一の精神安定感かもしれない。

           藤本義一 現実思考抄(metro age)より ーー


 文人であり、井原西鶴の研究家でもある筆者は、江戸時代に同世代で活躍した、西鶴、芭蕉、近松の関係やその発想を紐解こうと、脳神経学の本を展げる。そこで、個人で発想し独創するうえで、人間の脳は、自分だけではなく相手(同じ発想の仲間)のことを意識することで、創造的な発想の根源であるDCC(ダイナミック・センター・コア)を活性化させるということを知ったという。・・・なるほど。

 さらに読み進める中で「同じ発想の仲間が集まると、人間は挫折しないで一定の目指す方向に向かって安定した志向が生まれてくる。」ということも分かってきた。

 これを何とか教室内で活用したいとおもって生まれたのが、過去を書きたいか、現在を書きたいか、未来を書きたいかの三派分派の考えだった。これはどの世代にも適合する精神安定法である。
特に、定年を迎え、退職の日も近付いてきた頃には、この考えでこれからの友人を選んでおく必要がある。
 自分が受動的ならば友人もまた受動的な方がいい。何か暗くなりがちだと思えるようだが絶対に暗い未来にはならないものだ。が、自分が受動的なのに能動的な相手を選んでしまうと、お互いに精神的な破綻が生じ、手の打ちようがない状態に追い詰められていくことになる。相手もまた絶望的な状況に落ちていくことになる。

           藤本義一 現実思考抄(metro age)より ーー


 このコラム、最初に読んだ際は、なにか楽な方向に逃げる考えに感じないでもなく「人間、それで良いのか?」と首をひねったりもしたが、といって無理して意識高い系の方々と付き合うというのもなんだか・・・。「自分が受動的ならば友人もまた受動的な方がいい。何か暗くなりがちだと思えるようだが絶対に暗い未来にはならないものだ」というあたり、学生時代の無口なクラスメイトが仲良くなったら語彙が豊富で、自分の世界観を広がげてくれたのを思い出したり。少なくともポジティブな人間関係が人を前向きにさせるのは間違いなさそうである。それが励まし合い、競い合えるような仲間であればなおさらだろう。特に仕事がらみでもなく、老後をゆっくりというのであれば、正鵠を射た考えのようにも思えて来た。


 人生は3枚のカードであるーー

 

 過去、現在、未来。自分と同じカードを持った人たちと出会うこと。

 俺は、過去かなぁ。。。なんだかすごく恥ずかしいなぁ。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?