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『週刊DiGG』#11 -最新HIPHOP 7曲 レビュー紹介('20/10/29〜11/6)-

Twitterで毎日HIPHOPを紹介しているドラム師匠です。気づけば2年11ヶ月、1000曲以上レビューを書いています。

さて今週の『週刊DiGG』は、10/29〜11/6に公開されたMV 7曲を紹介します。勢いのあるTRAPからドラムンベースにラップを乗せた曲まで幅広く取りあげています。

数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気感を封入しました。

▶︎ カッコいい曲 + アーティストの事も知りたい
▶︎ 心に空いた穴は、音楽でしか埋めれない

という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わってください。


※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

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|MU-TON / Summon A Demon ~ デーモンの召喚 ~ (Prod. K.A.N.T.A)|

2020/11/04 公開

バトルMCとして大会では欠かせない存在となった福島を代表するラッパーMU-TON 。客演参加した「SIMON JAP / 悪魔とShall WEEDance」がハロウィーンに合わせて公開されて、今度は自身がデーモンとなり召喚した曲。

ビートメーカーK.A.N.T.A による、TRAPの危険な香りとBoomBapのパワフルさを融合させたアフロビート。ドンとなるキックを軸に音数を極力減らし、隙間を埋めるように巻き舌でまくし立てるラップ。期待値がピークに達した所で、鳴り出したビートの疾走感がたまらなく気持ちいい。

バトル同様、攻撃モード全開のMU-TONはやっぱりカッコいい。

「人皮被る俺もお前もdemon
 sparkビリビリ魔降雷(like a)demon
 テメェの常識に牙剥けるぜdemon
 目耳頭から呼び起こしなdemon」


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|Kvi Baba / Sabaku No Daichi feat. Fuji Taito |

2020/11/06 公開

Kvi Baba (クヴィ・ババ)の3rd E.P 『Happy Birthday to Me』では、全曲プロデュースを努めたBACHLOGIC。11月17日に発売する4th EP『LOVE or PEACE or BOTH』を期に、BACHLOGICが主宰するレーベルO.Y.W.M.に活動拠点に移すという 。

これは互いの持つメロディセンスをさらに深めようという意思の表れだと思われる。

EPからの先行リリースされたこの曲は、シタールがオリエンタルに響くTRAP。2019年の年末頃に書かれ、この時期はKvi Babaが人間関係で悩み、レーベルを抜け、体調も崩して死を意識した、どん底な状態だった。

「Sabaku No Daichi」というタイトルからもわかるように、乾ききった心でオアシスを探すギリギリ心境がつづられる。

客演参加するのは、2019年12月に公開されたRed Bull がキュレートする、マイクリレー「RASEN」で共演した Fuji Taito 

彼は、群馬のクルーBRIZAに所属し、飢えた野生の狼のようにギリギリまで自分の感性を研ぎ澄まし声を張り上げるアーティスト。この曲のテーマにピタリとハマっている。

Kvi Babaの11/7のツイートには「オアシスはもう見つけてある 救いはある」と書かれていた。そして、新しいEPの一曲目は「Yozora No Mukou」とアナウンスされた。絶望の後にどんな世界を見せてくれるのか期待が高まる。



⛏さらに深堀り

▼Kvi Babaがどん底からいかに這い上がったかが語られたインタビュー


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|muzik will / Crescent feat. Koh|

2020/10/29 公開

ー このタイプのラッパーはいなかった ー

香川出身で現在は京都で活動する muzik will 。涼しげな顔立ちから放たれるクールなラップ。英語を交えたなめらかなフローに歌心がある。

韓国ではいそうだが、日本では彼のような華のあるラッパーは貴重な存在。光沢感あるトラックが、月あかりを眩しく照らす。

Verse2は、大阪の大所帯クルーTha JointzKoh がキック。下町の親しみやすさと男臭さを感じるラップが、muzik willとのくっきりとしたコントラストとなり、絶妙なバランスに仕上がっている。

muzik willに引き出されるように、Kohのフローがいつもにも増してメロディアスなのは意外な発見だ。

お洒落な曲を量産し、妬まれるほどカッコいい存在でいて欲しいアーティスト。Tha Jointzのリスナーだけでなく、Yo-Sea、3Houseなどを擁するレーベル AOTL が好きな人にも聴いてもらいたい。



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|Cookie Plant × Showy / KAGAMI (Prod.DJ JAM) |

2020/11/02 公開

’20/3/25に"Showy x DJ JAM”名義でタッグを組み、EP『RED STONE』をリリースしていた3人に、6人組のクルーCookie Plant が加わった曲。

日本〜アジアの民族音楽を取り入れる曲が多かったCookie Plantの面々が、タンゴ系トラックにどうアプローチするかが聴きどころ。

「タタタタン」と行進曲のように刻む音色に、徐々にお経のテイストが入りCookie Plantらしい世界観に引き込まれる。Showyもいつもより粘り気のあるフローになっていて、どことなく和のテイストを感じるのはコラボならではの化学反応。

Maddy Somaによる呪術的なラップの圧倒的な暗黒さが光る。



⛏さらに深堀り

▼ YENTOWNに所属するMARZYによるCookie Plantのインタビュー動画。ダンスが彼らを引き寄せ、いかに大切にしているかが分かる。メディアへの露出が少なかったので、結成のいきさつが知れて嬉しい。


▼Cookie Plantの前MV「 Bando」をレビューした記事

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|Lil KING feat. Lemitaya / Shawty|

2020/11/01 公開

ー 突き抜けちゃってる ー

MV「SuPeR HERO」 が100万回再生されている大阪のラッパーLil KING 。フライパンを叩いたような金属音で始まるこの曲は、もて余した若さがみなぎっている。

特に「興味ないよFAKE どうでもいい」の後の「AH〜HA〜」という掛け声が最高!ユーモアがあって、やけくそな元気のよさ。

兵庫のラッパー Lemitaya がキックしたVerse2の後は、カオスなほどの掛け声祭り。それはホストクラブのドンペリコールようでもあり、’80sの竹の子族の合いの手のようであり、盆踊りにも通じる感情を高ぶらせる効果がある。

悩んでいる人の頭を空っぽにする特効薬。楽しんで。



⛏さらに深堀り

▼竹の子族の貴重な動画。ファッションの派手さ、掛け声が「Shawty」に共通すると思いませんか?ナレーションで、「日本本来のファッションに通じるものがありますねヤマトタケルノミコトとか…」と言っててやっぱり!となりました。


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|TRICO as MAKA / Bass Down Wall#1 feat Fuma no KTR|

2020/11/02 公開

MCバトルでは、レゲエをベースにしたフローと変幻自在のテクニックでプレイヤーからも一目を置かれるMAKA 。1年半前からグライムに刺激を受け、さらなる進化を遂げつつある。

そんなMAKAが"TRICO"に名義を変え、UK Underground Musicであるドラムンベースで様々なMC達とセッションする"Bass Down Wall Show"をスタートさせた。

その第一弾に選ばれたのが、AbemaTV『ハイスクールダンジョン』のラスボスを務めあげた Fuma no KTR(フウマノコタロウ)

ドラムンベース の横ノリなベースグルーブを生かしたVerse 1 & 2。
BPMの早い、縦ノリなドラムを生かした早口なVerse 3 & 4。

これだけのスキルがあれば、ラップをしててさぞかし気持ちいいだろうなと思わせる。

AbemaTV『ラップスタア誕生』で、UK Drillへ傾倒していたralphが優勝したり、若手BoomBapの代表格・S-kaineもUK Drillのアルバムを出すとアナウンスするなど、TRAPの次はUK HIPHOPが盛んになりそうな予感がする。


⛏さらに深堀り

TRICOの高音ボイスで言葉を飛ばす様は、ドラムンベースを含むクラブミュージックとリンクしていた'90〜’00年代のSHAKKAZOMBIE・OSUMIを彷彿とさせる。時代は繰り返しながら進化するのだなと感慨深い。


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|OSCA / HEYGIRL (Beat by hokuto)|

2020/11/04 公開

本人が「経歴がとっ散らかりすぎてる」と語るとおり、梅田サイファーに所属しながら様々な名義があり、なんと元お笑い芸人の肩書きもある OSCA

2020年1月28日にリリースされたアルバム『Maserati 』から、3本目となるMV。公開と同時に発表された手記には、「ラップを辞めた友達の話と、ラップを止めようとしていた自分、それと奥さんに向けての曲です」と書かれていた。

背景にある物語を知ると、曲に感情が乗っかり、リリックが耳に入ってくる。特にラップを辞めた友人には曲中で直接話しかけ、奥さんには「帰りを待つ人」と隠喩的に表現し、自分には先に進む姿を見せることで、かつての自分との違いを表している。

ストーリー性を感じながらもメロディに没頭し、そんなことを忘れさせる力がある曲。


⛏さらに深堀り

▼曲の背景を知って欲しいという意図が書かれたnoteの記事


▼梅田サイファーのKZpeco による #アマチュアラジオ に、OSCAがゲスト参加した回。1:53:26〜HEYGIRLのREMIXの話や、梅田サイファー名義で驚くような新曲が出る話がきける。

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さらにHIPHOPを知りたい人へ


最新HIPHOPを7曲紹介してきました。お気に入りの曲が見つかったら嬉しいです。あなたのオススメのMVがあれば教えて下さい。

『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできるので、お好みでどうぞ。では来週もお会いしましょう。またね!


▼筆者によるYouTube動画


▼毎月2回作成しているプレイリスト。'20/10/1〜10/31までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて。



HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。