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『週刊DiGG』#18 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/12/20〜12/25)-

年末にかけて怒涛のリリースラッシュが続き、嬉しい悲鳴をあげているドラム師匠です。(#消化しきれない) さて、この記事は、毎週100曲以上アップされるHIPHOPのMVの中から、12/20〜12/25に公開された7曲を紹介します。

数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、この瞬間の空気感を封入しました。奥深く味わいたい方は、【▼さらに深掘り】もあせてご覧ください。

▶︎ HIPHOPの最前線はどんな感じ?
▶︎ 効率よくイケてる曲を知りたい

なんて方にオススメの記事です。一緒に音の旅に出かけましょう。


※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

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|typOH98 / Blessed feat. Ape Rich|

2020/12/20 公開

2019年に APE RICH を中心に結成された多国籍HIPHOPクルー SuicidApe 。沖縄.大阪.ロサンゼルスと国内海外問わず活動しており、メンバーは9DtypOH98NobbAERODJ Vegasとなっている。

黒人ラッパー typOH98 が、APE RICHをフィーチャーした曲で、この2人での共作MVは「PURPUS」「Ball」に続く3本目。いずれもチルで聴き心地のいい作品となっている。

typOH98の黒人特有の太くてハスキーな声で作り出すダイナミックなグルーヴ。優しさにあふれた歌は聴くものに安心感を与え、現状を嘆きつつひたむきに上を目指すAPE RICHのVerseを、ハープの音色と共に優しく包んでいる。


▼さらに深掘り

同クルーに所属する若手ラッパーの作品も紹介。1996年生まれ堺市出身で、Ice Candyという2MCのユニットのメンバーでもあるNOBB

「悔いは残さないよ 寝る時間を惜しまない」

音楽だけで食べていくのは難しい業界で、仕事後もリリックを書き続けるラッパーのリアルがある。それをスキルで証明する姿がいい👍

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|TEN'S UNIQUE / FALL IN LOVE|

2020/12/20 公開

ー 寒い日には暖かいメロディが聴きたくなる ー

この1年の間に、クルーであるG.B.Cから4本、ソロ名義では14本もMVをアップし、ノリにのっている TEN'S UNIQUE 。

この曲は、照れもせず隠れもせず、レゲエをベースにした節回しで歌われる直球ど真ん中のラブソング。

「君の側には俺がいて
 俺の側には君がいて
 淡々と今時が経ってゆく中で
 大切なものが見えて」

“だんじり祭り”という親子代々受け継がれる強力な磁場がある岸和田。そこが出身地なだけあって、自分を形成する仲間と街というベースがあった上で君のことを描いているのがTEN'S UNIQUEらしい。

Verse2では、君との長い付き合いからか 人前でそっけなくなったり、距離をおいてみることで改めて大切さに気づく。ここが起承転結の転となっており、ストーリーの作り方が上手い。

レゲエだけでなく、HIPHOPの要素もあるが、単音で奏でられるギターには昭和歌謡っぽさであったり、憂歌団に代表される浪速のブルースっぽさもある。

この曲を聴きながら笑顔になっていたのは、この懐かしさに安らぎを覚えたからかもしれない。



▼「TEN'S UNIQUE / FEEL SO GOOD」を紹介した記事

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|チプルソ / Street trees in your city (Recording)|

2020/12/22 公開

大阪の北部・服部緑地公園を拠点とする伝説のクルー WARAJI のメンバーであり、言葉から言葉を綱渡りするようにフリーキーに言葉を操る チプルソ 

ウィルスの影響で外出自粛が始まった頃から、自宅のPC前に座り、ギターとマイクで録音をする様子をメイキングから見せるようになっていた。

今回は山中の草原でのフィールドレコーディング。山と空と緑に囲まれた景色とセッションするように無限に広がるシンセの音像、感情を剥き出しにするギター。チプルソから紡ぎ出されたのは、音楽を奏でる根本的な理由ともいえる生身の言葉だ。

「体が踊り出す 心が騒ぎ出す
 そんな風な 音楽に励まされて
 俺はそれを作りたくて Making」

街と一定の距離をあけたことで、地球規模で描かれる景色。高層ビルに阻まれ狭くなったリスナーの視野を広くし、「君はマジで大丈夫」との励ましに2021年への希望が湧いてくる。


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|Campanella / Think Free feat. 中納良恵 (Prod. Mocky)|

2020/12/23 公開

HIPHOPと EGO-WRAPPIN' との関わりは深い。2018年にAwichが、EGO-WRAPPIN' の代表曲「色彩のブルース」をサンプリングした「紙飛行機」をリリースし、本人達もMVに出演していた。

他にも2017年6月に、スチャダラパーとEGO-WRAPPIN'名義で「ミクロボーイとマクロガール」をリリースし、MVには当時事務所問題でゴタゴタしている真っ只中の女優 のん を起用した事で話題となっていた。

それより前の2017年2月に、中納良恵をフィチャーした楽曲「PELNOD」をリリースしていたのは、愛知県生まれのラッパー Campanella だ。いち早くHIPHOPとEGO-WRAPPIN'の相性の良さに気づいており、先見の明があった。

そこから3年の月日を経て、再び中納良恵をフィーチャーした楽曲「Think Free」を発表する。

YouTubeの概要欄にリリックが掲載されているので、ぜひ見て欲しい。普通では考えられない言葉の符割が特徴的で、言葉を細切れに刻みながら、再び繋ぎ合わせて連ねていく心地よさがある。例えるなら、輪切りにした大根を、もう一度ひっつけて一本の大根に戻すような感じ。(#これ分かりやすい例えなのか?)

HOOKを歌う中納良恵は、バンドでのサウンドよりも、ソロ作品で見せるフォーキーかつアナログな質感。キラキラとした眩さをイメージさせつつ、君との出会いの奇跡を歌っている。韻を踏んだリリックと、後半の単語を並べた語りに、互いに影響しあっていることが伺える。

「大事な時計 ばらばらに分解
 海に放り投げ 全て拾えるかい?」



▼さらに深掘り

先ほど紹介した、Campanellaと中納良恵の初コラボ曲。
ラッパーでもありビートメーカーでもあるJJJ が得意とするブルージーなギターが印象的なトラック。寒さに身をかがめ、苦味を噛み締めながら飲む酒の味がする。中納良恵の歌声が、キャバレー音楽や演歌にも通じる場末感を演出している。

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|HI-JET / appeal(prod.ジャッキーゲン)|

2020/12/23 公開

京都のビートメーカージャッキーゲン によるDUBBYなトラック。列車の音を連想する規則正しい太鼓のリズム、ギターのバックビート、残響音が世界にかすみをかける。それは煙たくもあり、幻想的な音像をかもし出す。

UMB広島チャンプの HI-JET は、脳にこびりついた自分のルーツを引き合いにだしリリックを進めていく。それはHIPHOPに留まらず、アニメや特撮ヒーロー、歴史上の人物、忌野清志郎まで登場させジャンルをまたぐ。

「井の中は引っ掻き傷かい?
 限界の後なら笑い話」

HOOKで解き放たれるメッセージ。HI-JETは自称 “ラッパーなのに答えを空欄にしたまま問題集を増やし続けるMC” と言っており、Verse部分とHOOKをどのような線でつなぎ合わせるのかは聴く人の想像力に委ねられる。

リリックに意味を求めるより、音に溺れるのが正解なのかもしれない。とにかく体が揺れる。

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|KEIJU / Tears(Prod. YoungBeats Instrumental)|

2020/12/25 公開

東京の総勢16人の大所帯クルーKANDYTOWNに所属する KEIJU 。作品作りにはじっくりと時間をかけると言うも、7月29日には待望の2nd Album『T.A.T.O.』をリリースし、最近では「JJJ / STRAND feat. KEIJU」にHOOKで参加するなど精力的に活動を続けている。

新曲「Tears」は、光沢のある優しげなソプラノサックスから始まる。

「愛は尽きぬように    
 愛は月のように」

KEIJUの艶っぽい歌声と、幻想的なリリックに呼応するかのようにソプラノサックスが滑からな曲線でうねりを作る。後半には情熱が燃え盛り、前半とは全く表情が異なるのは生演奏ならではの展開力。

演奏している宮崎達也 氏はHIPHOPと縁遠そうだが、KEIJUの大人っぽさ見事に引き出している。

要所、要素で微かに鈴の音が聴こえくる。そうMVの公開日は12月25日。これは、KEIJUからの仲間へのロマンチックすぎるラブソング。


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|DJ CHARI & DJ TATSUKI / The Matrix feat. OZworld, MIYACHI & 釈迦坊主(Prod. by ZOT on the WAVE)|

2020/12/25 公開

ー Matrix = 本来は「子宮」を意味するラテン語、そこから何かを生み出すものを意味する。(Wikipediaより引用)ー


2ndアルバム『GOLDEN ROUTE』を12月25日に発売し、iTunes & Apple Music Hip Hopチャートで見事1位を獲得したDJ CHARI & DJ TATSUKI

もしかしたらプロデュースがZOT on the WAVE となっていて曲を作ってないのか!と違和感を感じた人もいるかもしれない。彼らはトラックメイクをしているのではなく、DJとして現場で感じた嗅覚を活かして曲の方向を決めたり、曲に合ったラッパーを選ぶ総合プロデューサーと言った方が伝わるだろう。

このラッパー選びが絶妙で、思いもつかなかったアーティスト同士を引き合わせ、化学反応を起こしている。アルバムのクレジットを見るだけでもワクワクする組み合わせが並んでいる。

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この曲では、OZworldMIYACHI釈迦坊主の3人のMCが共演。

改めて、この組み合わせを見ると、OZworld、釈迦坊主は、2人とも確固たる自分の世界感を持っている。真理を追求した先には宇宙まで意識が向けられており、崇高な精神世界で繋がるのは時間の問題にも思われるた。そこにMIYACHIが加わることで予想不能な面白さがある。

曲を聴くと、OZworldの世界にMIYACHIと釈迦坊主が入り込んだ感じだ。OZworldがマトリックスの外側に出ても大丈夫と励ますのに対し、釈迦坊主はむしろバーチャル内で世界が完結させており、どちらが内か外か分からなくなるパラドックスに迷いこむ。


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さらにHIPHOPを知りたい方へ

▼毎月2回最新HIPHOPを集めたプレイリストを作成しています。'20/12/1〜12/15までに公開されたMVの中から至極の30曲をセレクトしました。この記事で気に入った曲があった人なら楽しめるラインナップになっています。ぜひクリックしてみて下さい。


みなさまに大事なお知らせ

#18まで続けてきた『週刊DiGG』ですが、ここで一度終止符を打ちたいと思います。と言ってもHIPHOPの紹介を辞めると言う訳ではありません。

『日刊DiGG』としてほぼ毎日記事をアップしようと思います。その方がデタラメで面白いでしょ。フォロワーがどこまで伸びるか、View数がどう変化するか、アーティストに応援してもらえるかを検証したいと思います。

良かったら、フォローと高評価お願いします。では『日刊DiGG』でお会いしましょう。またね。







HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。