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HIPHOPのMV 15曲をピックアップ(2022年3月公開作品)

Twitterで毎日レビューを書き続け、4年目に突入したドラム師匠です。今回は、2022年3月に公開されたMV 15曲をピックアップしました。

  • 最新のHIP HOPをザッと知りたい

  • 曲にまつわるストーリーを知りたい

なんて人にオススメの記事です。それでは音の旅へ…

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Awich / Queendom (Prod. Chaki Zulu)

2022/03/02 公開

▌身を削ってでも語るべきこと

19歳でアトランタに渡り、翌年には黒人男性と結婚して長女を出産。その2年後には旦那が銃殺されるという激動の人生を歩んできた Awich

2020年にフィールドをメジャーに移し、初めてのアルバム『Queendom』を3月4日にリリースする。本当なら2021年春に完成していたものを一度白紙に戻し、作り直してできた苦心作だ。そのアルバムのオープニングを飾るこの曲が、タイトルチューンとなっている。

HIPHOPというフィールドから、より多くのマスに向けて発信する事を意識したという。自分が何者かを知らしめる意味でも、ここからさらに跳躍する意味でも、これまでの人生を一区切りさせたのだろう。

旦那が銃殺された状況をニュース実況のように彼女自身が読み上げる。本来思い出したくない出来事。この曲を演奏する度に、辛い状況を思い出してしまうだろう。身を削ってでも、今の自分を伝えるためには語っておく必要があった。そして、それすらも乗り越えようという覚悟が伝わってくる。

皮肉にも旦那の死をきっかけに、自分のやるべきことを自問自答し、音楽に向かって動き出す。止まりかけた歯車が回り出すように、巻き舌になって加速する言葉たち。上がっていくボルテージ。逃れようとしたカルマに突き動かされる。

「その頃の私はまだ無名 諦めてたステージに立つ夢
 忘れかけていたビジョン マイナスから数えるミリオン」

「Queendom」のリリックより引用

力強く「Queendom」と歌う様は、これから私が時代を作ると高らかに宣言する。HOOKに入る2分8秒までドラムが鳴っていないことに気が付かなかった。それほどAwichの気迫に圧倒される。


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▼メジャーで活動する意義や、表現を模索する様子が語られたインタビュー

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TOSHIKI HAYASHI(%C) / Dream Theater Music feat. LIBRO

2020/03/03 公開

▌音作りを謳歌

HOOLIGANZのメンバーとして活動し、現在はchelmico、maco marets、SKRYUとのプロデュースでも知られる神奈川ベースのDJ / ビートメーカー TOSHIKI HAYASHI(%C) 。久々の新曲は、ラッパー LIBRO を客演に迎え、力強いビートに乗ったエレピが心地いいトラックに仕上がっている。

2人の共通点であるトラック作りがモチーフ。音楽制作ソフトを起動させ、モニター上で操る音の波形の中を、時にドライブし、時に泳ぎ、遂には一体化すると歌う。

「夢の時間を溶かしながら」というフレーズから、ビートメイクに没頭していたら、アッと言う間に時間が過ぎてしまうことが伝わってくる。ミュージシャンが音作りを謳歌している姿が見ると、リスナーであるこっちまで嬉しくなる。


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WATT a.k.a. ヨッテルブッテル / 相槌

2022/03/04 公開

▌自信がないと書けない

2021年12月、全編にわたりFUNKへの愛情にあふれたアルバム『めぐるうた』をリリースした WATT a.k.a. ヨッテルブッテル 。長野で育ち、現在は神奈川を拠点に活動するラッパー兼 BeatMaker である。

活動歴は長く、2000年頃よりkamuriとのHIPHOPグループ"韻部"を結成。2009年よりソロ活動を開始している。

この曲はベースがチョップし、腰にくるファンキーなBoomBap。サウンドと共にラップもタメを効かせグルーヴを生み出している。リスナーの身体が自然と動くのを見透かすように、"カッコいい音楽こそ正義だろ"と言い切ってしまうのがカッコ良い。


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Eftra / "VUCA" Freestyle(Prod. Cedar Law$)

2022/03/04 公開

▌忘れられない声

2021年10月、EP『E.F.T.R.A ep』をリリースした富山を拠点に活動する Eftra 。プロデューサーであるMASS-HOLEに「自分で金を出してでも作品を作りたかった」と言わせるほど抜きんでた個性の持ち主だ。

一度聴いたら忘れられない焼けた声が特徴で、粘り気あるラップスタイルは陽炎のようにゆらめき、鼓膜に張り付く。


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Kvi Baba / 二つ目の家族(Prod. BACHLOGIC)

2022/03/09 公開

「失う用意をしとかなくちゃ」

この曲にあるのは家族を失うことへの恐怖、そして Kvi Baba が抱える圧倒的な喪失感だ。

彼の心の根底に何があるのか?

生い立ちが気になって調べてみたら、fnmnlのインタビューにこんな発言があった。

学校ではうまく周りと馴染めなかったし、友達も少なかった。けどそんな自分にも、家に帰れば微笑んでくれる暖かい家族がいてくれて、嬉しかったし楽しかった。なのにそれが壊れてしまった。一番近くに感じていた愛をなくしてしまった。だから幼少期に、愛の救いも破壊もわずかながら理解していた。色んな側面から愛を見ていたので。

2019.02.22 fnmnlのインタビューより抜粋


詳細は不明だが、幼少期に家庭でトラブルを抱えていたのだろう。そこから家族を失うことへの特別な感情が芽生えたことが分かる。

だからそこ自分には二つ目の家族、つまり新しい家族が必要だと歌っている。聴きようによっては自分勝手に思えるだろう。でも、それも含めて歌にするのが Kvi Baba の凄さであり、弱さであり、強さだ。

こんな語り口で歌われるウェディングソングは他にはない。


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KZ / Go All Out(Prod. ONGR)

2022/03/10 公開

▌華やかさの裏にあるもの…

ギギギと錆びた金属をこすり合わせるが如く、鈍く、そして重みのある曲。地道な活動からようやく陽の目を見て、好調さを維持する 梅田サイファー 。

クルーの中心人物である KZ が、ステージでの賑やかなエンターテナーの顔とは異なる表情をソロ作では見せる。

ほんとはスターなんか成りたかない
でも聞かれないと音楽は成り立たない
その二律背反にほら引き裂かれた
傷だらけなハート 耳澄ませな

「Go All Out」のリリックより引用

ラップを始めた頃から今までを、スポットライトの影の部分を告白するように歌っている。

「GO GO ひたすら前進」

豪雨の中か、砂漠の中か、吹雪の中か、
厳しい環境でも歯を食いしばり前に進む姿を連想させる。
カスれた声は、そこに痛みがあることを物語る。


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武 / Sky Walk(Prod. EGOKUNI)

2022/03/13 公開

▌広い視点で旅をする

奈良県出身で絵描きでもあるラッパー  。懐かしい旋律のピアノに乗せて歌われる幼少期からの記憶。そして視点は宇宙へと拡がって地球へ戻り、風、種から花へと旅をする。

武の持つ視野の広さは、愛の大きさに比例している。3歳から施設で育ったのなら腐っても良さそうだ。だが、感謝の気持ちを忘れなかったから、愛を受け取れたのだろう。リスナーの心をそっと暖めてくれる。

愛は愛で返せるか
倍の倍で返せるか

「Sky Walk」のリリックより引用


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DJ NORIO & UWTO BLND / FUTURE" feat. MUD, 018 & Hideyoshi

2022/03/17 公開

▌皆既日食のような感覚

Tokyo Young Vision に所属する DJ NORIO と、DJ Yu-toから改名した UWTO BLND によるプロデューサー・チームのプロジェクト。

ダウナーなムードに覆われたトラックで、途中からうねり出すベースラインは、沸々と煮えたぎる彼らの気持ちを代弁する。

だが、ネガティブにならず上を目指す前向きさがある。かといって不用意に明るくないフラットさは、現代社会を象徴しているかのよう。

Verse3の Hideyoshi の口から出た意外な言葉「嫌だと思うならお前も頑張れ」にハッとさせられる。


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SORA / ICSD

2022/03/19 公開

▌身近に感じるフォーキーさ

TRAP中心の楽曲から、1st EP『BASE TURNING』では澄んだ歌声が映えるようメロウなフローへとスタイルを変化させた立川のラッパー SORA 。最近では Viper 、OROCHI と共にクルー Zooted Haze Peeps のメンバーとしても活動している。

そんな影響もあってか、この曲では喉を震わせる発声でラップする。様々な試行錯誤があるから声色のバリエーション増え、HOOKからVerseに移る際、声の高低差あって曲にメリハリを与えている。

フォーキーなメロディラインに感じる親しみやすさ。一歩また一歩進んでいく姿に自分の姿を重ね、力が入る。

錆び付いたレール どこまでも歩く見える
先は遠く果てしない程の Gaia 独り言を呟いた

「ICSD」のリリックより引用

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公家バイブス / また、子守唄 ft. スペクタクル

2022/03/19 公開

▌「また、」 に込めた親心

育児経験のある人なら分かると思うが、幼児に何をやっても泣き止まない時がある。そんな時は気分を変えるため、抱っこしながら外であやす。

親心を歌うのは、不揃い音楽集団"十三不塔"のメンバー 公家バイブス

タイトルに「また、」と付けてことから苛立ちを表現しているのかと思いきやむしろ逆だ。子供が成長し、徐々に子守唄がいらなくなっていると肌で感じている。親としては嬉しいことではあるが、同時に感じる寂しさが「また、」に込められている。

HOOKを歌うのは同クルーのラッパー スペクタクル 。彼は5月に第一子が産まれる予定で、自分が親になった事を想像してリリックを書いたというエピソードがエモい。

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RYKEYDADDYDIRTY / ALL GODS BLESS ME

2022/03/23 公開

▌もう俺にはラップしかない

刑務所で悟りにも似た心境で、ひたすら言葉を書き続けノートを真っ黒く染めたのでであろう…

そんな情景が思い浮かぶ曲。

苦しみや後悔の中から出てきた切実な祈りが身に迫ってくる。
「神様がいるのなら わがままを言わせて」

抑圧の中から生まれ出た言葉たちが、シャバに出て音源化されることで解き放たれていくのを感じる。


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DJ SID / ROCKSTA feat. T-STONE & week dudus

2022/03/23 公開

▌HIPHOPからロックする

¥ellow Bucksを擁するHIPHOPレーベル・To The Top Gang より新たな刺客。 DJ SID が1st Single「ROCKSTA feat. T-STONE & week dudus」をリリースした。

ロックスターをテーマにしたこの曲は、徳島のラッパー T-STONE と、姫路のラッパー week dudus をフィーチャー。

T-STONEによる生命力がみなぎった太い歌声、巻き舌を使った歌い方はロックスターそのもの。元ブルーハーツの甲本ヒロトへの敬意を払うなどロック愛を感じる。

DJ SIDは、掛け声をノイジーに処理する事で、現代っぽさを演出。

Verse2のweek dudusはマッチョなパワーではなく、喉の奥を震わせる歯切れの良さで、今までにないロックスター像を描いている。


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Sadajyo x Jeff Loik / Factory (feat. QN)

2022/03/25 公開

▌スリリングさ120%

S-kaine が逸材と認めるほど可能性に満ちた18歳。埼玉県のラッパーSadajyo 。ビートメイカー Jeff Loik とのジョイントEP『Brown Topaz』に続きダブルネームでリリースされた新曲。

不規則にスピードを変化させ、言葉をスライスさせることで語感をとがらせるラップ。ブザーや機械音、ストリングスをスリリングに挿入したトラック共々、野心と革新性に満ちている。


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SNEEEZE & Olive Oil / NAMIDA(Prod. Olive Oil)

2022/03/23 公開

▌涙が一色ならどれほど楽か…

2013年、楽曲「LOVE MY LIFE」というHIPHOPクラシックを生み出した神戸のラッパー SNEEEZE との鹿児島県徳之島出身ビートメーカー Olive Oil 。2人が遂にジョイント・アルバム『OniiilE』を2022年3月23日にリリースした。

「NAMIDA」というタイトルから感傷的な曲かと思いきや、描くのは喜怒哀楽の一部分としての涙。もちろん悲しさ、悔しさが含まれているが、それ以外に前を向くための涙、気持ちをリセットするための涙など多面的に捉えている。

根底には、 SNEEEZEがライブで頻繁に口に出す"Peace"なマインドがあり、全てを包み込む愛情がある。

音密度の濃い Olive Oil が繰り出すゴスペル調の女性ボーカルは、祈りにも似た純粋さで魂を昇華させる。その思いは宇宙にも届きそうで、LAビートのレーベル BRAINFEEDER ともリンクする世界観。

キャリアの長い2人だから描けた円熟味がいい。


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hokuto / Imposter feat. 唾奇 & 仙人掌

2022/03/29 公開

「フリーターとラッパーは紙一重」

2016年、まだ知名度が低かったにも関わらず楽曲「Cheep Sunday」をヒットさせたビートメーカー hokuto と沖縄のラッパー 唾奇 。当時は、若さもあって世間への鬱憤をラップで晴らす"怨"がにじんでいたが、今は新しい"音"をいかに作るかに情熱が注がれている。

HIPHOP度数の高い仙人掌と、唾奇の耳に残るメロディの絶妙な組み合わせがいい。

さらにMVの後半、とあるラッパーが「え!?」ってな登場するが、それがアナログ・リリースに繋がっているというニクい演出。これは思わずポチってしまう。(っていうかポチりましたw)
ゲートフォールド・ジャケット2LP仕様で数量限定なので急いで!


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Yusuke Saint Laurent / その街まで feat. ONENESS (Your Cityscape)

2022/03/30 公開

▌ポジティブって気持ちがいい

マスタリングを 砂原良徳 に依頼するなど、日本のエレクトロニカとLAビートから影響を受けたというビートメーカー Yusuke Saint Laurent 。トラック全体にアナログな人肌の温もりを感じるのは、自身でベース、ギター、ローズピアノを演奏しているからだろう。丸みのあるシンセサウンドが閉じた気持ちを晴れ晴れと解放してくれる。

東京・平和島を拠点に活動するHIPHOPクルー ONENESS の2MC
MVTENstz)のラップはトラックに呼応し、ポジティブなバイヴズに満ちている。気持ちの持ちようによって世界の見え方が、明日が、変わってくると…

冬から春へと変わり、生き物たちがまた活動を始めるこの時期に聴くのがオススメ。

この世は驚きと感動に満ちてる
スプーンの油 落とさず気付いて
その手 書く絵 お前だけ yo men

「その街まで」のリリックより引用

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終わりに

最後までお付き合いありがとうございます。いい曲との出会いがあったのなら、高評価とフォローをお願いします。皆さんのアクションが活動の支えになりますので…(これ本当)

また、こんな曲もあるよって皆さんのオススメMVも教えて下さい。必ずチェックしますので。

最後に、この記事で紹介しきれなかった曲のプレイリストを作りました。さらに深堀したい人はクリックして下さい。

では次の記事でお会いしましょう!


HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。