HHV-6脳炎
同種造血幹細胞移植後に脳の感染症として起こる、HHV-6脳炎についてです。
HHV-6はhuman herpes virus-6の略で、ウイルスの一種です。
細かいことを言うと、HHV-6AとHHV-6Bに分かれており、問題となるのはHHV-6Bの方です。
ここで取り上げているHHV-6はHHV-6Bです。
HHV-6の再活性化
多くは幼児期に初めて感染します。その後潜伏感染といって、感染した人の体の中に潜み続けます。脳に潜伏感染していることが分かっています。
同種造血幹細胞移植を行って免疫が下がると、HHV-6は再活性化をし、体の中で増えてきます。血液をPCR検査で調べると、56%で再活性化を認めるとの報告があります。臍帯血移植では特に再活性化を認めやすく、69%-87%で認めると報告されています。再活性化を認めてくるタイミングとしては、生着ごろが多いです。
HHV-6脳炎の発症頻度と時期
血液で増えるだけで何の症状も起こさず特に問題にならないことも多いですが、脳で増えて脳炎を起こすことがあります。これがHHV-6脳炎です。HHV-6脳炎の発症時期も生着前後が多いです。
移植後に脳の合併症の原因は珍しいものまであげるとかなりたくさんありますが、HHV-6脳炎はその中で最も頻度の高い原因です。
HHV-6脳炎は骨髄・末梢血幹細胞移植で1-3%、臍帯血移植で5-10%合併すると報告されています。やはり、臍帯血移植で問題になりやすいのです。
脳炎の予後は悪く、HHV-6脳炎を発症した方の死亡率は脳炎を発症していない方よりもずっと上がってしまいます。(具体的な予後に関しては、目にしたくない方もいらっしゃると思うので、有料部位に書きます)
発症しやすくなる因子
先ほど述べたように、移植のソースが臍帯血の時に発症リスクが高まります。
そのほか、HLA ミスマッチ非血縁移植が HLA 一致 血縁者間移植と比べて発症しやすいことが国内から報告されています(3.3% vs 0.36%)。
症状
意識レベルの変化、発熱、痙攣、記憶障害、精神異常、性格変化などがあります。
記憶障害が特徴的であり、移植後の患者さんが会話の中で普通忘れないようなことを忘れているようであれば、HHV-6脳炎を疑います。
自分の部屋がわからなくなる、移植をしたかを覚えていないなどです。
記憶障害などなく、突然の痙攣で発症することもあります。
時々、足のムズムズ感や手足の激痛という症状を訴えられる方もいます。
進行が早いことがあり、HHV-6脳炎を疑う症状が出たら、速やかに検査をして、治療を開始します。
診断
移植後脳の合併症の原因は多岐にわたる為、何が原因となっているか調べないとHHV-6脳炎かは分かりません。
他の原因としては、他のウイルスや真菌(カビ)、細菌、トキソプラズマという原虫などの感染症、それぞれの詳細な説明は省きますがPRES、薬剤の副作用、脳血管障害、代謝性脳症、GVHDなどの感染症以外の問題があります。脳での再発も考えないといけません。
これらを区別するために、血液検査、画像検索、髄液検査などが行われます。
髄液というのは、脳を包んでいる透明の液体で、骨髄とは異なります。
腰のところから背骨と背骨の間を目掛けて、針を刺していきます。骨髄検査と比べれば、全然痛く無い検査です。時々検査後に頭痛が出ることはありますが。
HHV-6脳炎と診断するのに最も大事な検査が、この髄液検査になります。髄液中でHHV-6が増えていることが最も特異的な検査結果となるからです。
しかし、生着頃に問題となることの多い脳炎ですからその時は血小板数が少なく、安全に行えないために、髄液検査を断念することもあります。
血液検査や画像検査より総合的に判断していく必要があります。
治療
治療はホスカビルという抗ウイルス薬の点滴になります。サイトメガロウイルスの治療でも使用する薬ですが、サイトメガロウイルスで使用するときは1日2回という使い方をします。HHV-6脳炎のときは1日3回に分けて投与することが勧められます。
治療期間は最低3週間です。薬の副作用で気持ち悪くなったりしますが、患者さんには3週間以上頑張ってもらう必要があります。
腎臓の機能が悪い患者さんにはデノシンという別の抗ウイルス薬が使われることがあります。
予後
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