見出し画像

慢性骨髄性白血病を深く知る part 1

慢性骨髄性白血病は英語でchronic myeloid leukemiaと言いますので、CMLと略します。

発症率は一年間に約1人/10万人です。

どのような病気か詳しく説明します。難しい話もありますが、出来るだけイメージしやすく解説していきます。全部理解していただければ、今までより深い知識を得られると思います。

発症機序

原爆が落ちて、6年後にCMLが増えました。このことより、体に一つCMLの細胞ができると6年ほど経って診断できるほどの量(1兆個)になると考えられています。

CML細胞を作る原因として被曝があることはこれから分かりますが、多くの方は原因は不明で発症します。どんなに健康的な生活を送られていても、なるときはなります。予防法は現代ではまだありません。

CML細胞は、9番と22番の染色体が転座することでできます。

画像1

転座とは染色体の一部同士が入れ替わることです。上の絵では青の9番染色体の一部と緑の22番染色体の一部が入れ替わっています。融合した染色体をフィラデルフィア染色体と呼びます。

この転座が起こると、9番染色体の上にあるabl遺伝子と22番染色体上にあるbcr遺伝子が融合します。この融合した遺伝子から、BCR-ABL融合蛋白が作られます。

白血球は感染した時などに、体から白血球を増やすシグナルが出て増えるのですが、BCR-ABL融合蛋白があると増やすシグナルがなくても、無限に白血球は増えるようになります。こうして血球が異常に増えるのがCMLということになります。

3つの病期

診断時体に1兆個のCML細胞があります、細胞を全て集めて団子にすると、メロン1個くらいの大きさになります。かなりの量です。

しかし、症状はなにもないことが多いです。脾臓が腫れてることが多いですが、気づかれていないことが多いです。何ともないのに健康診断で異常を指摘されて驚いた方も多いと思います。

多くの場合診断がついた時は慢性期です。

慢性期は進行がゆっくりで、何も治療をしなくても5年ほどは慢性期のままです。

放っておいて、5年ほど経つと移行期に移り、骨髄中で芽球が増え、進行はやや速くなります。

さらに放っておくと、移行期から半年ほどで急性転化期に移り、芽球はもっと多くなり、急性白血病のような状態になります。入院で点滴の抗がん剤治療を行い、その後同種造血幹細胞移植を行わないと助からない状態となります。

芽球については以前の記事を参照してください。

2001年にグリベック(イマチニブ)という薬が登場するまでは、CMLは骨髄移植をしないと助からない病気でした。

CMLの慢性期と診断されると、5年後に爆発する時限爆弾をかかえたようなものです。骨髄バンクもない時代では治癒を目指せる治療もなく、5年後に急性転化期にまで進行して、亡くなるという病気だったのです。

骨髄バンクを作った人々は、CMLの患者さん・その家族が多いです。連続テレビ小説「スカーレット」もそうでしたね。

治療薬

白血球の数を抑えるような薬しかなかった時代は10年生存率は20%程でした。インターフェロンという薬が出来てからは30%に増え、造血幹細胞移植を受けられると60%となりました。

そこにチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が登場して、CMLの予後は大きく変わったのです。

第一世代のTKIがグリベックです。第二世代がスプリセル(ダサチニブ)、タシグナ(ニロチニブ)、ボシュリフ(ボスチニブ)、第三世代がアイクルシグ(ポナチニブ)です。 ※商品名(一般名)

これらの選択については別の機会で説明します。

TKIはBCR-ABL蛋白にくっついて阻害し、細胞を増殖させるのをストップさせる働きがあります。そうすることで、CML細胞の数は減り、急性転化するのを防げるようになりました。

治療効果 ~目指そう、まりもっこり!?~

治療によりどの程度体にCML細胞が残っているかは、治療開始時はFISH検査と言うのを見たり、骨髄検査をしたりしますが、落ち着いてくるとMajor BCR-ABL1mRNA (IS)というのを採血で確認します。

このISは診断時のCML細胞数を100%として、現在何%かを示してくれます。

このISが0.1%以下となることを分子遺伝学的効果(MMR)の達成と呼びます。

0.1%といっても元の1/1000です。診断時が1兆個ですから、まだ体には10億個のCML細胞が残っています。ただ大きさでいうと、メロン1個がビー玉1個にまでなっています。

画像2

治療の目標は治療開始から3ヶ月時点で10%以下、6ヶ月時点で1%未満、一年の時点で0.1%以下となることです。

ビー玉にまでCML細胞が減ってくると、一安心です。急性転化を起こす可能性はほぼありません。CMLで命を落とすことはないでしょう。

なので我々は0.1%にこだわって治療を行っていきます。

IS 0.1%にうまく持っていくには薬を毎日忘れずに飲むことが大事です。治療でCML細胞が減るのは1日4%ずつですが、増えるのは8%です。飲み忘れると速く増えてきます。また増えるときに新たな遺伝子の異常が加わり、急性転化しやすくなります。

ただ薬には副作用がつきもので、なかなか毎日飲むのもしんどいかもしれません。しかし、自己判断で薬をやめたり減らしたりすることは危険です。外来で主治医に副作用のことを伝えてください。副作用によっては他の薬に変更を検討します。

また飲み忘れてしまったことも隠さず主治医に伝えてくださいね。


part 1ではここまでにします。

難しい話を私なりに分かりやすくしたつもりです。

我々病気の説明をするときというのは、患者さんに診断がついたときに行いますが、noteでは既に診断がついて時間の経っている方や、その家族や知り合いが見てくださっているのでしょうか。

実際に診断がついて不安もあるような方には、まりもっこりなんてふざけた説明は行いませんが、noteだと日頃とはまた違った、説明を行うことができますね。

とにかく大事なのは、症状がないからと甘く見ず、薬を忘れず飲むことです。

ご家族には小さな薬を飲んでるだけに見えますが、それでも不安や副作用などで後ろ向きな気持ちになることもありますから、それを理解する気持ちをもっていただければと思います。

part 2では、それぞれの薬剤の特徴、予後について説明します。

ではまた。

今回の血液関連の記事は役立ちましたでしょうか。役立ったという方、サポートで応援していただけると嬉しいです。