見出し画像

素敵な女性のスタンダード:バングル編

こども時代をスイスで過ごした帰国子女で、同時通訳の仕事の合間に英語の家庭教師をしてくれていたM先生との出会いが、私が「素敵な女性」を意識した最初だったと思います。先生は当時20代後半くらいだったのかな。

その頃中学生だった私は、紙パックのバナナオレをアテに、ファミリーサイズのキットカット一袋をまぁまぁの頻度でいただく、大きめもっさりコンプレックス女子でした。

そんな私に「ボーイフレンドいないの?大学生の知り合い紹介しようか?」「痩せたらかわいいのに」なんてセリフを真顔でさらっと言ってくるのが先生でした。

まぁ今ではアウトなんですかね。

でもなぜか私は悔しさや恥ずかしさ以上に、得体のしれない嬉しさを感じたんです。言葉そのものに大きな意味はないとしても、個人対個人の対等な視線で投げられた言葉には敬意を感じましたし、自分の混沌が幼稚に思えて清々しかったのだと思います。

先生はいつもベリーショートで、身体の線が出るニット素材のタイトスカートをよく履いていました。腕にはいつも、ゴールドのシンプルなバングル。真鍮だったのかもしれません。デザインのディテールはよく憶えていないし、それを欲しいと思ったわけでもありません。ただ、ひとつのバングルがどんな時も体に馴染んでいる様子は、素敵なアクセサリーをいくつも持っているよりも随分カッコいいことのように思えました。

渡仏することになった先生とは1年弱のお付き合いとなりました。その後は会っていませんが、今でも憧れの女性像を想像するときに彼女を思い出します。当時、のちの自分にこんなに深く印象を残すことになる方だと気づけなかったことは残念ですが、時間をかけて気づきに熟成されたのかもしれません。

私は50歳を目前にしても彼女の凛々しさには到底届かないし、しょせん、真似っこです。でも、毎朝同じシルバーのバングルをはめるたび、一人の女性との出会いをおしゃれのエッセンスに昇華できたことを心強く思うのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?