白夜さん

これは僕がまだ中学2年生のころのお話。

当時の僕はかなり深夜にゲームをすることが好きだった。
明日、学校があるのにおかまいなしで午前3時までずっとネッ友とゲームをしていた。

午前3時までネッ友とゲームをしていたなんて言ったら、みんな自分を不登校で学校に友達がいないような子供だと思うだろう。

それは、半分正解で半分不正解だ。

自慢じゃないけど、学校には毎日行っていたよ。なんなら学級委員だったし、先生から見たらクラス1の人気者だったと思う。勉強もスポーツもできるほうで、女の子からモテモテ。毎年、バレンタインデーのチョコレートは食べきれないぐらいもらっていたよ。

これが君が立てたであろう予想の不正解の部分。

え?正解の部分も教えろって?

あはは。そうだなー。僕には深い話をできる友人が1人もいなかった。

先生から教わる”みんなで仲良く”はすごい得意だった。

でも友人1人と深い関係になったりとかは苦手だった。

なんでだろう?結局、八方美人で、本心を隠して、誰に対してもいい顔をしていたら、人間関係がどんどん薄まっていってしまったんだと思う。

だからさー。修学旅行の部屋決めとか地獄だったなー。あはは。

みんなそれぞれ深い関係の友人がいて、グループがいてさ。

学級委員でそのとき司会だったからヒーロー面して

「余った人とでいいよ。」って言った。

自分はクラス1,2の嫌われ者と一緒になった。

教師は親に感謝と絶賛の電話をその晩かけてきた。

自分がその一言を言わなくても部屋決めの結果は変わらなかったと思う。

違いが起こるとすれば、教員からの電話が絶賛の電話になるか心配の電話になるかの話で、中学生の自分にとってはその違いが結構大事だった。

でも自分にはネッ友がいるから、それでもよかった。

もちろんゲームは楽しいのはもちろん。もっと楽しいのがチャットだった。
取るに足らないような雑談をずっとしていた。

こんな夜遅くまで起きている子供はもちろん自分だけで、周りは全員大人だった。大人と言っても”訳あり”な大人たちだった。

仕事をやめて今は、失業手当をもらいながら生きているとか、大学受験に失敗をして何年も浪人をしているうちにいつのまにか”引きこもり”と言われるようになってしまったとかいろいろな話を聞いた。

彼らは僕が中学生だからといって、子供扱いすることはなかった。
同じ深夜を生きる仲間だと言ってくれていた。

ああ。そうだ。白夜さんだ。
当時彼は24歳で無職だと言っていた。

毎日、午前3時まで自分の話し相手をしてくれていた人だ。

こないだ部屋を片付けているときに中学生の頃使っていた3DSを見つけた。

電源をつけてフレンドリストを見るとネッ友の名前がずらりと並んでいた。

もちろん全員オフラインになっていた。
もう3DSにかじりついている人間なんていないだろう。

そしてフレンドリストに白夜さんを見つけた。

白夜さんとの思い出がよみがえってきた。

白夜「今日はもう落ちるね。お休みyuちゃん!」

yu[白夜さん!今日もありがとうございました!」

僕は寝ている両親が起きないように、3DSを持ったまま寝室に向かってあるいた。

寝室のドアを開けると、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。

本棚にびっしり本が並べられていて、本棚に入りきらなかった本が床に山積みにされている。そして部屋の奥で青年が3DSにかじりついている。

しばらくそのまま呆然としていると青年がこちらを向いて

「ようこそYuちゃん!」

と言った。

「あはは。言うこととか言葉遣いが大人っぽいから疑ってたけど、見た目はちゃんと中学生だね。あはは。僕は白夜だよ。」

「白夜さん!ほんとに!なんか24って感じですね!」

「あはは。なんだよそれ。」

「てか。ここどこですか?」

「僕の部屋さ。」

「あはは。おかしいよ。だって。。。」

「まあまあ。夢ってことでいいんじゃないかな。」

自らが置かれている状況がわからない不安など、白夜さんに会えた喜びで吹き飛んだ。

「夢かー。じゃあなるべく覚めないように頑張らないと!」

「あはは。じゃあまず一緒にゲームでも一戦やるか!」

「そうこなくっちゃ!」

いつもはオンライン通信でゲームをしているのに、そのときはローカル通信でゲームをした。

だから白夜さんがまるで歳の離れた兄のように感じられた。

10分ほど2人で怪獣と格闘し、勝利した。

「自分も中学生の頃。ネット上で遊んでくれる大人がいた。」

白夜さんは自らの装備の装飾品を変えながらぽつりとつぶやいた。

「ただ中3のときに受験勉強しろってうるさい両親にゲームを没収されてしまってね。高校でも野球部に入ったから忙しくてゲーム機を触ることはなかった。退部した後、ようやくゲームができると思ったら、またまた受験勉強でそれどころではなくなってしまった。そうやっているうちにネッ友のことなんて忘れていたよ。でもこうして深夜ゲームをやっているとそんなことを思い出したりする。」

「え?白夜さん野球部だったの?」

「あはは。ちゃんと坊主だったよ。」

「へー。気になるなー。白夜さんの坊主姿。」

「じゃあ見に行ってみようか?」

「あはは!どうやってさ。」

「だからここは夢の中だからどこでも行けるよ。ブラジルだろうと。過去だろうとね。」

白夜さんは立ち上がり、部屋の扉を開けるとそこには野球のグラウンドが広がっていた。

「ほら!こっち!こっち!」

白夜さんに手をひかれてグラウンドにあるベンチまで来てしまった。
グラウンドには1カ所にユニフォームをきた大勢の部員たちが集まっていて、ベンチから監督が険しい表情で部員を見つめている。

「白夜さん!これ大丈夫なの?」

「あはは。大丈夫!監督や部員からは僕らは見えないから。ほら野球部名物地獄のランメニューが始まるよ!」

マネージャーが笛を吹くと大勢の部員が一斉に走り始めた。

すると1人だけ集団についていけずに、苦しそうに走っている部員がいる。

「Yuちゃん見て。あれ僕だよ。」

「あはは!白夜さん走るの苦手なんだ!」

「いやいや。周りが早すぎるだけだよ。クラスに戻れば速いほうだったんだけどね。でも当時はどうして自分だけがみんなについて行けないんだろう?って悩んでいたよ。劣等感。それよりも孤独感、疎外感。ずっと苦しかったなあ。」

「結局、どうだったの?ついていけるようになった?」

「あはは。結局、ついていけるようになったんだよ。でもそうやってみんなについていけるようになった時期に僕は部活を辞めてしまったんだ。」

「え?どうして?せっかくそこまで頑張ったのに!」

「結局、自分は練習についていけるようになっても孤独だったんだ。」

すると白夜さんは部員たちを見るのをやめて、どこかを目指してか歩きはじめた。

「Yuちゃんもおいで」

白夜さんについて行くとさび付いた小屋の前についた。
白夜さんは扉を開けると、そこは野球部の部室のようで、砂と汗が混ざった匂いがした。

「ほら。一応ここが僕の定位置。」

白夜さんの定位置は部屋の端っこだった。
中央にたくさんバックが無造作に置かれているのに、白夜さんのバックだけが端っこにさみしそうに立っていた。

「気付いたら。どんどん部員たちの会話に入れなくなって、気付いたらチーム一の無口になっていたよ。みんなとうまく話したいっていうのが本心だったけど、結局、うまくいかないから本心を隠して無口な人間を演じるようになってしまった。あはは。孤独だなー。」

「孤独かぁ。なんとなく分かる気がする。」

白夜さんは悲しみを噛みしめるように部室をしばらく眺めていた。

「そういえばYuちゃん。yuちゃんともうひとつ行きたい場所があるんだ。」

白夜さんが部室のドアを開けるとそこには喫茶店の風景が広がっていた。

白夜さんの表情は明るさを取り戻していた。

「お冷ぐらいもらおうか。」

白夜さんはコップを2つ勝手に調理場から取り、それに水と氷を入れた。
不思議なことに店主も客も僕たちの存在に全く気付いていないようだ。
僕らはカウンターに座って冷たい水を飲んだ。
白夜さんはずっと入り口のドアを気にしながら誰かを待っているようだった。

するとカランコロンという音とともに少しだけ今より日焼けした白夜さんが、白夜さんと同じ年齢ほどの美しい女性と一緒に入って来た。

「大学生の頃、よくあの子と喫茶店に来ていたんだ。」

「え?かわいい!彼女さん?」

「あはは。しっかり中学生の反応するねyuちゃん。でも残念ながらただの友達さ。」

「え?告白しなかったの?」

「あはは。思春期を抜けたら、そういう感情以外でも会ったりするものさ。」

2人は迷わずにナポリタンを2つ頼んだ。
2人とも楽しそうに会話をしている。

「こうやって引きこもって深夜に考えごとをしているとね。なぜか分からないんだけど、あの子いまどうしてるかな?って思い出すんだよ。恋い焦がれたわけでもないのになんであの子なんだろう?って。」

白夜さんは調理場に移動し、店主がナポリタンの具材を炒めているフライパンに勝手にピーマンとウインナーを追加して少年のようにニコリと笑った。

「僕が思うにあの子は白夜さんが本心を出せた相手なんじゃないかな?だってほら、今みたいな楽しそうな顔してるでしょ。きっとあの子の前では白夜さんは孤独じゃなかったんじゃないかな。」

「そうかな。」

僕らはカウンターに戻って、ナポリタンを食べる2人を眺めていた。

ナポリタンを食べてしばらく談笑した後、2人は店の外に出て行った。

「yuちゃんがさっき言ったことに関して考え込んでいたんだけど、やっぱり僕はあの子の前でも孤独だった。当時は気付かなかった。いや気付かないふりをしていただけかもしれないんだけどさ。やっぱり好きだったなって思うんだ。でもそれを言わなかった僕は結局、あの子に対しても本心を隠して関わっていたんだ。だから結局、僕は孤独だった。」

「あの子を引き留めてくる。」

「ちょっとyuちゃん!」

僕は無我夢中で走って2人を追った。
ようやくあの子の背中が見えて、声をかけたが返答はない。
手をつかもうとしたらすり抜けてしまった。

「今日のナポリタン前回より量多くなかった?」

「あはは。店主さんお得意様には量増やしてるのかもね。」

「え?顔覚えられてんのかな!私たち!」

「あはは。絶対そうだよ。」

2人はおしゃべりをしながら遠くまで行ってしまった。

「yuちゃん。僕のためにわざわざありがとう。」

白夜さんは僕の背後で優しく呟いた。

「はあー今孤独じゃないよ。もし君とゲームの世界じゃなく現実世界で会っていたら、もし年齢が近い友人として会っていたら、僕は死なずに済んだかもしれないね。」

「白夜さん。どういうこと?」

「実はね。さっき部屋で首を吊ってきたんだ。君とゲームをした、すぐ後にね。君は僕の最後の友人だから最後に挨拶に来た。」

「え?もう白夜さんとゲームできないってこと?」

「あはは。それは申し訳ない。」

「そうか。。。」

「だからね。yuちゃんに1つお願いがあるんだけど。僕のようにならないために他人に本心を出す勇気を忘れないで欲しい。今になって自分の孤独の原因が分かって後悔しているんだ。本心を出せない人間は孤独だ。だって本心を出せない人間は誰にも理解してもらえないから」

僕はしばらく考え込んで白夜さんにかける言葉を考えた。

「実は自分も本心を出せずに、困っていたんだ。だからとにかく頑張ってみるよ。白夜さんもあの子に最後、本心を言ってきてね。」

「そうだなー。喜んでくれるかなー。死者からの告白なんてさ。あはは。」

5

朝、リビングで目が覚めた。

「ほんとにもう!ゲームばかりして!」

母親の甲高い声ですっかり目が覚めた。

「あのさ。昨日、修学旅行の班決めの話ししてたでしょ。先生と。」

「なーに。それでゲームやりすぎの件チャラにしろって?」

「実は僕、友達いないんだ」

この一言から僕の人生は再スタートした。


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