遠い夏休みのように/8月20日(日)〜8月26日(土)

8月20日(日)

午前中は少し喫茶店で作業をしていたが、午後、帰宅し読書。大西巨人『神聖喜劇』第4巻(光文社文庫、2002年)を読み進める。リビングでエアコンと扇風機を回し、ビーズクッションに体を預け、これでもかと堕落した態で読書していると、わたしにも夏休みが来たような心持ちになる。黙々と読み進めると、どれくらい時間が経っただろう、お囃子が聞こえてきた。太鼓の低いデンデンという音と鉦の高いチャンチャンという音が混じったあの音が近づいてくる。リビングの窓を開けてしばらく眺めているとお囃子に続いて野太いうおーという声とともに神輿が登場した。おおっ、と内心湧き立つ。家の前から通り過ぎるまで、しばらく見ていた。
夕方になって、夕食をつくる。今夜はカレーだ。スパイスカレーだの、バターチキンカレーだのではない、市販のルーでつくる、普通のカレーだ。普通のカレーが、無性に食べたかった。つくりながら、なんとなく実家のカレーを思い出し、家族を想う。わたしは一人っ子の三人家族で、お母さんっ子だった。中学生になっても、授業参観に母が来てくれるとうれしかったくらいである。けれど母がもし同級生だったら、友達になっていただろうか。もしかしたらそれほどでもないかもしれない。父はどうだろう、父は家族内における天敵だが、同級生であれば意外とうまが合っていたかもしれない。いわゆる学者肌で、知的好奇心旺盛なぶん、大人になってからは話せる話題が増えていった。父は外面がいいし、他人行儀にしてくれれば、わたしもいくらか付き合いやすかったと思う。玉ねぎを、切っているときには出なかった涙が、炒めているときに出そうになるが、考えごととは関係がない。
夕食後、再び読書。『神聖喜劇』第4巻、無事読み終える。時系列の錯綜がいよいよ激しくなる。盛りあがってきた。

8月21日(月)

読書。田中美津『かけがえのない、大したことのない私』(インパクト出版、2005年)を読む。インタビューや座談会の収録が多い。過去に一読しているはずだし、他のところで読んだ内容と重複が多いので、新鮮さはない。とはいえ情報の整理にはなるし、細かくいえば得るところはあった。ミューズカル「おんなの解放」はやはり感動的。縁あって一度映像を観たことがあるのだが、本当にいいものだった。また鈴城雅文という人が書いた田中美津と谷川雁について書いている文章もよかった。田中美津における被害者/加害者を考える糸口になりそう。どうやら写真論の人らしく、『写真=その「肯定性」の方位』(1992年、御茶の水書房)をポチる。「肯定性」にフェミニティとルビが振ってあるのが気になる。

8月22日(火)

5年ほど前、友人知人との食事会に、ひとりが赤子を連れてきたことがある。そのとき別のもうひとりが、触っていい?と断りを入れて、赤子の小さな手に触れながら、
「子どもって、言葉がわからなくても聞いてるし、わかってるんだよね」
と言った。その言葉には妙に腑に落ちるものがあって、幼少期の自分が慰められるような気さえした。言いたいことが、うまく言えないことばかりで、自分でも何が言いたいのかよくわからなかったが、何も感じていないのではなかった。ちゃんとわかっていた。
今日読んだ平沢逸『点滅するものの革命』(講談社、2022年)はそんなことを思い出した小説だった。五歳のちえが語り手なのだが、語彙や洞察力など、子どもらしからぬ語りによって展開される。無口なのもあって、大人たちはちえに構わずたばこを吸ったり麻雀の話をしたり下ネタを言い合ったりするが、ちえは聞いているし、わかっている。ちえの語りは賢しらにそのことを主張したりはしないが、でも、あ、聞いてるんだなと思わせる(かと思えば聞いていないときもあるのだが)。そんな語りだった。「革命」というにはラストが弱い気もするが、全体的に好みの質感の小説だった。

8月23日(水)

午前中は読書、午後は月評を書く。通常、月評は見開き2頁で2000字ほどなので、朝から晩までやれば大体1日で書ける。昨日500字ほど書いていたので、今日中には仕上げられるだろう……とだらだらやっていたら深夜2時までかかってしまった。原稿を送った直後、誤解を招く表現に気づいたが、ゲラで直すことしてあきらめた。なかなか寝つけず、意識が途切れたのは3時くらいか。

8月24日(木)

朝、なんとか起きてシャワーを浴び、バイトへ。関わりのある社員さんと話していて、同い年であることが発覚する。いまのバイトを始めてからちょうど1年経つが、初めて雑談らしい雑談をした。
帰宅し、オンラインで読書会をする。2時間ほどかけて数頁しか進まなかった。恐るべき進まなさ。
夜になってゲラが届く。気がかりだった箇所に案の定編集さんの指摘が入っていて、安堵というと変だが、そんな気持ちに。しかしどう直そうか、意外と悩ましい。他に大きな指摘箇所はなく、戻しは明日の13時までとのことなので明日の午前中にやることにする。

8月25日(金)

朝、ごみを捨てのために8時前に起きる。朝食を食べ、洗濯機を回してから、再び2時間ほど眠る。起きて洗濯物を干した後、慌ててゲラを直して送った。大西巨人『神聖喜劇』第5巻(光文社文庫、2002年)を読み進めるも、生理痛と寝不足で全体的にぼんやりしていた。

8月26日(土)

引き続き、『神聖喜劇』第5巻を読み進める。500頁ほどあるうちの半分を読み進めることができた。冬木に対する執拗な取り調べが止み、やけにのどかなシーン。この後どうなるのだろう。
夜は飲み会。わたしと友人と、友人の友人で飲む予定だったが、友人の友人が体調不良でキャンセルとなり、いつも通り友人と飲む。友人は『神聖喜劇』をすべて読み終えてたので、第5巻後半はたたみかけるようにいろいろなことがあることを教えてもらう。帰宅して50頁ほど読み進めて、がたがた震える。

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