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【補講】補聴器に必要な聴覚生理学と聴覚の工学的モデルに関する知識 #063

はじめに


【重要なお知らせ】
2020年7月より約2年半続いた、このnote定期購読マガジン「イチからはじめる補聴器フィッティング」は今年の3月をもって一区切り、Season1は終了となります。初心者からマニアまで幅広く補聴器フィッティングのここでしか聞けない話題を提供することを目的にやってきましたが、おかげさまで購読者も増えて一定の役割を果たせたこと、これまでの記事をまとめて電子書籍化を目指して準備に入るためです。これに伴い、一部のバックナンバーも販売終了となります。マガジンならではの赤裸々な記事を読んでおきたい!という方は早めに購読されることをお勧めします。
4月からはドクターなかがわメインの新企画も計画中。そちらもどうぞ楽しみにしててください。

さて、本題に移りまして

今月号は、「補聴器ハンドブック勉強会」でお話ししきれなかった聴覚の生理と聴覚の工学的モデル(仮説)についてお話ししていきます。

勉強会オンデマンドもあわせてよろしくね❤️

イントロ 〜ベケシーの蝸牛階段〜

蝸牛は、しばしば螺旋階段モデルの中で語られています。二回転半のらせん状階段の一段、一段は、ピアノの鍵盤になぞらえることができると。

蝸牛の階段はピアノの鍵盤であり、有毛細胞はまさしく鍵盤そのものであると説明がなされてきたように思います。

しかし、この蝸牛階段モデルは、時代と共にその理論にマイナーチェンジが加えられ今に至っています。
ところが、どの教科書を開いてみてもそんな話は示されていません。アップデートお構いなしに古き良きべケシーの偉業だけが丁寧に説明されています。それが多くの人に混乱を与えているように思います。
今回のマガジンでは、現在(2023)の考え方について再確認していくことにします。

蝸牛のホントの姿

ピアノは88鍵盤が一列に並んでいます。
白鍵盤52で黒鍵盤32の見た目は二段のようにも見えますが、半音をわかりやすくする工夫であって事実上一列です。
ヒトの蝸牛の階段は2段です。
二階建ての構造となっています。白鍵盤が外有毛で黒鍵盤が内有毛ではありません。蝸牛というラセンを輪切りにして拡大すると、そこに金太郎アメのように三列に並んだ外有毛細胞(OHC、図では黄色い核の細胞として示してある2階部分)と一列だけの内有毛細胞が並ぶ1階部分を見ることができます。建物の基礎となるのが支持細胞で、蝸牛神経(AN)はその家屋から外に向かうネットワーク回線とたとえれば良いでしょうか。
そこにつながるIHCのシナプスはこのイラストで濃い緑で示してあります。
その触手は蝸牛神経に向かう求心シナプスと外有毛細胞に向かう遠心シナプスです。ちなみにOHCからIHCにあるいはANには、求心性に触手は伸びていません。

内有毛細胞(赤い核)と外有毛細胞(黄色い核)と支持細胞(灰色)

それぞれの有毛細胞やニューロン(あるいは神経線維)はお互いにどのような関係にあるのか、もう少し詳しく確認していきましょう。

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