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「なで肩でいいじゃん。REMいらんと思う。」・・・😅 #022


大塚さんの前回のREM話を受けて・・・

前回、大塚さんは、REMに移行しない(できない)そんな現状に対して、「アンラーニング」という問題を指摘していました。

ホント、耳の痛い話です。
ぼく自身も手抜きで時折REMをサボることがあるわけで、
彼のマガジン読みいたく反省したところです。


しかし、ぼくが思うに補聴器臨床の現場では、過去に身に着けた知識と技術が無価値になることを受け入れる勇気のないままに旧慣習や悪慣行を続けているという事例、枚挙にいとまはありません。

思いつくままにリストアップしてみると・・・

【補聴器は片耳装用でよい】
板橋の御大が補聴器の世界で君臨していた20年ほど前の話。
彼はことある毎に

「Sメン○は悪徳。」

「”両耳” 売らんかなの医師はやり過ぎ。」

と発言されました。

2001年にDillonの著したHearing Aids(訳書 補聴器ハンドブック2004年)という補聴器学のバイブル書には、

「補聴器は両耳装用が原則」

と書かれています。
海外の教科書を読む限りどの教科書にも「片耳でよい。」と書いてあるものはありません。
にもかかわらず
その大御所は、

「片耳でよい。両耳は悪徳だ。」

と言い切ってました。

そうした発言の真意、当時のぼくにはさっぱりわかりませんでした。

後々、業者が販売価格の10〜15%程度のリベートを医師に支払っていたという補聴器の暗黒史(2007年頃まで続いた)を聞かされ、
御大がなにを心配していたのかを理解できました。

(リベート問題は、自分が受け取っていなくても、そのリベートが自分のボスに環流される。巧妙な仕掛けなので「ぼくは、キレイだ。」と誰ひとり言えない。だからこそ厳しくそうしたメッセージを送られていたのだと思います。)

なにより御大が言いたかったのは、

「手術で治せるものはきちんと手術で治す。外科医としての矜持を保て。」

「リベート2倍に目がくらんで両耳とは笑止千万。耳鼻科医の風上にもおけん。」

と言うことだったのでしょう。

しかし、こうした発言が一人歩きし始めし、
いつしか
「両耳装用そのものを否定する」
ような風潮に市場をが向かってしまったのも事実です。

また、勉強していない虎の威を借る医師たちが、御大と同じことを言っておけばよかろうとオウム返ししたことで、補聴器医学は世界から20年遅れた市場になってしまいました。

【試験箱で評価すれば十分】
試験箱で2ccカプラ用いて、規準周波数レスポンスと90dB最大出力音圧レスポンス(OSPL90)を計測しておけば充分と考えている補聴器相談医は少なくありません。
なぜって、補聴器相談医の実技講習会で「それで充分」って教えているからです。

補聴器診療ガイドラインである「補聴器適合検査の指針(2010)」は、この10年改訂されていません。結果、補聴器の技術革新に追いつけていないのです。

古い知識のままに突き進む先生方が自信たっぷりに「試験箱で大丈夫」と言ってのけているわけですからどうしようもありません。

普通に考える頭があれば、2ccカプラで、装用時の評価ができるわけもないことは明らかです。2ccカプラと装用時の外耳道容積との差分は、0.8~1.5ccも差があります。音圧レベルにすると10〜20dBの出力差が生じうることを意味します。
最近流行りのIICやRICのようにレシーバ位置の深いタイプだと最大の差となってしまう可能性大でしょう。

ですから「2ccカプラでいいよ」という言説はありえないのです。

試験箱でこと足りると思っているとしたら、リスクマネジメント的にもNGといえます。福祉の高度難聴用の補聴器のMPOは最大で130dB以上出せるものがほとんどです。高レベルの入力音があったときに補聴器から130dB以上の音が出力されることを意味します。そこに外耳道共鳴効果分を加算すればどうなるか・・・。

「うちはまだ実耳しなくていいね。」

と判断するボスと仕事するのはだからヤバい。

5年ごとの補聴器の買い換えのタイミング毎に手帳の等級が上がっていくあるいは難聴が進行していく人の多くは、REMでの調整をしていなかった患者であったなんてことにでもなればまず裁判は勝てないでしょう。

どうすればいいかって?
Unity3かアフィニティコンパクトをすぐにでも発注。それが正解です。


【ハーフゲインと音場閾値(FG)で調整するのが基本である】
個人的には、
「ハーフゲイン」
「音場閾値」
「ターゲットゲイン30〜35dB」
「なで肩」
「音に馴れていく(うるささに順応していく)」

という旧石器時代のようなうさんくさい言説を展開する相談医を信用していません。

HG▶︎「古臭〜い(規定選択法しらんの?)」
FG▶︎「リニアしか知らんの?」
TG▶︎「NL、MC時代にナニをおっしゃるの?」
NG▶︎「REMやれよ!」
UR▶︎「耳壊したいの?」

とdisりたくなってきます。

研究医が、自らの信念に基づいて、時代遅れなやり方の中に意義を見いだすべく挑戦する姿にはエールを送りたいとおもっています。
しかし、現場には、グローバルスタンダードなフールプルーフなやり方をやって欲しいのです。
ところが、そんなグローバルスタンダードなフールプルーフなやり方でフィッティングできる補聴器を製造販売しているメーカー自身が、時代遅れなやり方の中に意義を見いだすべく挑戦する研究者を演者として舞台に立たせているので皆が混乱するわけです。教育セミナーは、マーケの視点ではなく教育の視点でおこなって欲しいのですが、ランチョンにせよメーカー主催セミナーにせよ、そうした流れになっていないのは悲しい限りです。

「過去に身に着けた知識と技術が無価値になることを受け入れる勇気のない人たち」のトンデモ言説の話題はまだまだいくつもありますが、この辺で、本題に移りたいと思います。

本論開始・・・

さて、前回の大塚さんの記事では、REMのテクニカルな詳細がわかりやすく展開されていたように思います。
でも、あの記事からそうしたテクニックがなぜ必須なのか理解するのはちょっと説明不足かなという印象でした。
そういうこともあって、今回のぼくのパートでは生理学的な視点からREMの意味や意義について掘り下げていきます。

REMについては、2021年4月15日にTwitterで
「REMのピークとC5dipのズレの理由知ってる?」
という問いかけをさせていただきました。


アンケートに答えてくれたのはわずか8名でしたが、ほぼ同数のDMでも質問もきました。興味深い質問もあれば、ちょっとズレた質問もありで、みなさんの迷いとか勉強する場のなさをあらためて認識する結果でした。

大塚さんの記事はそれなりに読み応えのあるものですが、REMの意味や意義について、リスク管理の視点からはあまり踏み込んでいませんでした(そこをぼくに振ってきたわけですね(-_-;))。

ということで、
「なぜにREMらなゃならんのか。その意味と意義を学ぶ!」

みたいな記事にすることにしたわけです。

読みおえた後に読者のみなさんから、

「ふかーいぃ」
「がってん👊」
「ホンマでっかー(゚Д゚)」

と言われることを願っています。
それでは、はじめていきましょう。

【目次】
耳に有害な音ってどんな音?
耳を守るためにするべきこと(2015/2019)
C5dipってなんだっけ?
「なで肩」じゃなぜダメなの?
MPOの意味
なるほどだから5も6も7もあるんだ
REMやろうぜ!

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