UCLはガマン大会ではない!#002

巻頭言: このマガジンをはじめるにあたって

 はじめまして、聴覚評論家の中川雅文です。
 まずは自己紹介と共同マガジン発刊のいきさつから。
ぼくの日常は、後進の指導やら学生の教育やらと日々耳鼻咽喉科の教育と臨床です。
週3回、補聴器外来を担当し、美人な認定技能者さんが立ち会いにきてくださったり、若くてかわいい言語聴覚士さんに囲まれたりな時間が、ぼくにとって憩いの時間になっています。
とはいえ、年間400件弱の補聴器適合検査(1と2の合計)をこなしていますからそれなりに忙しくしています。実耳測定は全例実施、TENテストも聴力レベルで70dB以上なところがあれば実施。さらには装用下で語音弁別の改善しないケースでは溝口方式を参考にした独自のスピーチテイク主体の聴覚リハなんかもやってます。関東圏では、そこそこアクティブにやっているんじゃないかなぁと。時間の許すかたは、是非、温泉とゴルフがてらにひやかしに立ち寄ってください。
 こう書いてしまうと、盤石で不安のかけらもない補聴器外来のように聞こえるかも知れませんが、実際は日々さまざまな問題にぶつかっています。出入りの技能者さんはやる気があるゆえから独立されたり引き抜かれたり。STさんたちも出産や産休と大忙しでブランクが入ることが少なくありません。通年でスキルアップ研修を計画しようにもそうは問屋が卸しません。人員確保と教育でいつも頭を抱えています。

 さて、こうした業務とは別チャンネルで、ぼくはブライベートなオンサイト勉強会をこの10年続けています。最初の頃はもっぱら臨床福祉専門学校の教え子たちの卒後教育みたいな趣旨だったのですが、補聴器ハンドブック第2版の分担翻訳で重要な役割するくらいまでに育ってしまい、いまやぼくが教わる方です。なにより教え子が聴覚や福祉の現場で活躍してくれているのはうれしいかぎりです。
 そんなわけで、ここ最近は、補聴器ハンドブック第2版を教材に「補聴器ハンドブック勉強会」というのを開催しています。門戸もひろげ、より多くのみなさんに参加いただけるような勉強会のスタイル。最近は、もっぱら技能者さんが集まってきてくれています。2019年度は、2020年1月に1泊2日の合宿スタイルで那須で開催。温泉とイタリア料理をほおばりながら大いに盛り上がりました。今年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大という状況もかんがみて、ZOOM開催としています。5月からスタートし、月1回第3土曜日。興味のある方はこちらから(補聴器ハンドブック勉強会ZOOM )参加申し込みしてみてください。あと、感染の状況次第ですが2021年1月第2週に幕張メッセにてオンサイト開催の仮押さえをしています。そちらもぜひリマインドしておいてくださいね。
 さて、補聴器ハンドブック勉強会に2年ほど前から足繁く参加してくださっているがんばりやさんな認定技能者さんがいます。Kさんと呼ぶことにします。彼女は、親子代々老舗のれんを背負って補聴器販売をされている補聴器専門店に勤務されてる店長さんで、2018年に新横浜を会場とした時は、その遠い距離を1年間、皆勤で出席してくれました。Kさんはその期の受講生さんの中でも抜きんでて熱心で、どんどん吸収してくれました。ぼくは、そんなKさんをかかえる「補聴器専門店 プロショップ大塚」さんのことがとても気になりはじめてきました。

「勉強熱心で優秀なスタッフを抱えている補聴器販売店の経営者ってどんな方なのだろう。」

思いはどんどん膨れあがり、気がつけば、大塚祥仁さんにSNSで絡み、とうとうリアルに交流する関係に発展、仲良くさせて頂いています。
大塚さんのお話しは、ぼくら病院の中のひとには、なかなか見えてこない補聴器に関する話題がいっぱいです。市況なり技術情報なり、それらに対する評価、実にリアルな声をいっぱい聞くことができます。
ぼく(Twitter:@masafummi)がつぶやくと、大塚さん(@mimi_otsuka)もエコーを奏でる。お互い示しあわせているわけでもないのですが、そんな彼とのやりとりの中で見えてきたことは、

”補聴器販売員のレベルアップなくして市場のビッグバンは訪れようもない。”

”技能者顔負けなマニアックなスーパーユーザーがどんどん生まれてこないことにはユーザーの広がりなど期待できない。”

”ヒアリング・リテラシーの高まりなくして難聴者(補聴器販売業)の未来はない。”

ということ。
大塚さんもぼくと同じく、人と教育で頭を悩ませていることがわかり、
だからふたりして、

”Twitterでつぶやくだけじゃなにも変わらないかもね。”

とこの共同マガジンの発刊へと話しがまとまっていったわけです。

 もちろんその背後には、ぼくらふたりを手のひらでころがす三蔵法師さまが控えていらっしゃいます。三蔵法師が、孫悟空、猪八戒、沙悟浄をひかえ天竺への取経を目指す旅に向かったように、大塚さんとぼくは、共同マガジンの最終形を求め、三蔵法師さまに導かれるようにスタートを切りました。いずれ、道すがら、三番目の共同マガジンメンバーが登場することでしょう。共同マガジンがどんなかたちの「経」にまとまるのか。さあ、補聴器の偉大なるグレイトジャーニーへとともにその一歩を踏み出していきましょう。

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このマガジンは、認定補聴器認定技能者である大塚さんとぼくとの往復書簡のかたちをとります。月2回の発行です。
第1号で大塚さんが冒頭に書かれていたように、読者層として1~3年目の補聴器技能者や言語聴覚士さんにフォーカスを置きます。
各回のコンテンツの半分以上は、初学者でも理解できるように丁寧な解説をするように心がけ、ベテランさんが読んでも楽しめるように、1/4くらいはマニアックな話題も盛り込みます。残りの1/4は、聴覚医学や脳科学あるいは社会医学的視点からのトピックスやときには「補聴器あるある」なトリビアも盛り込みながら、読み物としても楽しめるよう心がけます。
このマガジンの狙いは、学びたいと思った人が、自分のタイミングで、学びたいことをオンデマンドで学べる場の提供。蓄積されたコンテンツは、気がつけばしっかりアーカイブスの体をなしていき「補聴器あるあるお役立ちリファレンス」へと成長させることにあります。
補聴器フィッティングに関わるマガジンの読者なみなさんとともに学び、実践的知識のレベルをともに深めていく。そんなことを期待しながら連載を続けていきたいです。
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前回、大塚さんから「補聴器の圧縮比をカンタン・自動で調整する方法!(第1回)」のお話をいただきました。

その中で彼は、

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