補聴器適合検査について(前編)#027
はじめに
6月号で『補聴器適合検査のアウトカム#024』と称して、補聴器適合検査の指針に示されている「6つの評価基準」と「8つの評価方法」の中からその一部(8つの評価方法の1と4)についてお話しさせていていただきました。
いきなり「6つの評価基準」と「8つの評価方法」を示したせいもあって読者のみなさんもすこし面食くらってしまったかもしれませんm(_ _)m。
その前の大塚さんの話(RECDでREMフィッティングをやってみよう!#023)を受けての裏技的な話題の提供が趣旨だったのでそうした流れになってしまったわけで、
ちょっとわかりにくくて申し訳ありませんでした。
そのわかりにくい流れを修復するように大塚さんから#025、#026とさらに詳しくREMのおはなしをいただけたので、まあなんとかながれはついたようにも思っていたのですが・・・
読者のみなさんからは、
「そもそも医療機関でやってらっしゃるその補聴器適合検査ってなにやってるの。」
「補聴器適合検査の実際ってどうなってるの?」
「中川先生は、実のところどう思っていますか?」
「カプラでやるだけじゃどうしてダメなの?」
なんて素朴な質問をいただくことになってしまいました。
そんなわけで、今回のマガジンでは、
医療機関でやってる『補聴器適合検査』とは何であるか。
「6つの評価基準(前編#027)」と「8つの評価方法(後編#028)」について、基本に立ち返って(世間話とナカガワ理論を交えつつ、カプラのダメなところを)解説させていただくことにします。
補聴器適合検査とは・・・
およそ20年前の2000年3月の診療報酬改定によって「補聴器適合検査」の診療報酬が定められました。
それまで医師は無報酬、つまり補聴器販売店に丸投げであった補聴器の「装用耳の決定」「ターゲットゲインの指定」「(処方式の指定)」「耳せんの指定」「装用訓練の要否」などに見合う報酬が決まったことに、当時の耳鼻咽喉科医は大喜びしました。
いかほどのコストが請求できるようになったかと言うと「補聴器適合検査なる診療報酬(D244-2 1回目 1300点、2回目以降 700点)」と言ったあんばい。1点がおよそ10円ですから2回目以降でも内視鏡検査と同じくらいのコストを請求できるようになりました。それまでは再診料かせいぜい「ことばのききとり検査(D244-2 350点)」しか請求できていませんでしたからほんと拍手喝采ものだったのです。
補聴器認定技能者資格取得の厳格化とか、1999年に第1回言語聴覚士国家試験が行われたこと。現場の環境が大きく変わったことも影響していたのかなと思います。
第27 補聴器適合検査
1 補聴器適合検査に関する施設基準
(1) 耳鼻咽喉科を標榜している保険医療機関であり、厚生労働省主催補聴器適合判定医師研修 会を修了した耳鼻咽喉科を担当する常勤の医師が1名以上配置されていること。
(2) 当該検査を行うために必要な次に掲げる装置・器具を常時備えていること。 ア 音場での補聴器装着実耳検査に必要な機器並びに装置(スピーカー法による聴覚検査が 可能なオージオメータ等) イ 騒音・環境音・雑音などの検査用音源又は発生装置 ウ 補聴器周波数特性測定装置
2 届出に関する事項 補聴器適合検査の施設基準に係る届出は、別添2の様式29又はそれに準ずる様式を用いること。
(特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(保医発0305第2号 平成26年3月5日))
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(保医発0305第2号 平成26年3月5日)
当時の理事長の八木先生も感慨深く次のように述べられています。
「今まである意味で野放し状態にあった補聴器適合検査が、(ようやく)医療行為であると承認された。」
「われわれ耳鼻咽喉科医にとってきわめて重大な意義を持つものである。」
(八木聡明 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (2005))
野放し状態って・・・ 😨😨😨😨😨
少なくとも2005年ごろまでの耳鼻咽喉科医の補聴器販売店のみなさんに対する認識はこんな感じだったわけです。
補聴器に関わる認定資格には様々なものがあります。認定補聴器技能者は、補聴器の調整や販売を行う技術者の為の認定資格です。補聴器を購入される方の使用目的や使用環境・希望価格等について相談に応じ、 補聴器の選定・適合調整・使用指導・補聴効果の確認を適切に行う、専門的な知識及び技能を修得した者と定義されています。公益財団法人テクノエイド協会による養成課程があり、4期にわたる4年間の養成課程と技能者試験を受け合格することが必要で、その後も更新制となっております。平成28年3月時点での認定登録者は3239名となっています。全国で補聴器を販売している店は7651店あり、一定の知識を持つ認定補聴器技能者が在籍しているのは1848店、約24%となります。そして、補聴器年間販売台数56万台のうち、55%の約31万台が日本補聴器販売店協会加盟店により販売され、その約8割を認定補聴器技能者が販売していると推定されています。認定補聴器技能者でなければ補聴器が扱えないわけでも無く、認定されていない方が一概に不適切な補聴器相談を行っているとは言えませんが、認定補聴器技能者であれば、有る程度の補聴器に関する知識・技能が担保されていると考えて宜しいかと思われます。
引用:医療法人社団三昧耶会 ゆげ耳鼻咽喉科
http://yuge-ent-clinic.com/hocyouki/?page_id=92
これは、ゆげ耳鼻咽喉科のHPからの引用(2018年ごろの記事)ですが、認定技能者さんでなければ信用できないと言うニュアンスがひしひし伝わってきます。
どれくらい酷かったかって?
20年以上キャリアのある先輩をつかまえて当時の話を伺えば、そのダークサイドぶりの一端を伺い知ることはできるでしょう。
もし、あなたの先輩が「まあ、いろいろあったけど過去の話だよね。」と軽く流すだけだったならその先輩は当然ダークサイドにいた方だったのだと思います(⌒-⌒; )
補聴器適合検査に関する施設基準
さて、補聴器適合検査という診療報酬を請求できる医療機関になるためには、
○厚労省の認める保険医療機関であること
○補聴器適合判定医が常勤として勤務していること。
○以下の装置・器具を備えていること。
ア 音場域値・音場語音検査の出来る設備
●スピーカー法による検査が可能なオージオメータ
イ 騒音・環境音・雑音などの検査用音源又は発生装置
●騒音・環境音・雑音などの検査用音源
ウ 補聴器周波数特性測定装置
●いわゆる試験箱(特性器)
などマンパワーと設備に一定の条件が定められています。
その先の、具体的な作法についてはほとんど触れていないのがこの施設基準の微妙な問題点です。
で、実務上の具体的な手順なりを示したものとして、診療報酬が制定され遅れること8年、日本聴覚医学会から補聴器適合検査の指針(2008)がリリースされました。2010年には補聴器適合検査の指針(2010)と正式に確定されています(後述)。
2012年には、補聴器適合検査の指針(2010)検査用音源CD(2枚組)が聴覚医学会からリリースされ、現行のリオン社のオージオメーターにはオプションでこれらの音源を装置内にプリインストールすることが可能です。
補聴器適合判定医師研修会について
補聴器適合判定医は、厚生労働省主催 補聴器適合判定医師研修会を修了した耳鼻咽喉科医師のことで、日耳鼻の主催する講習会を修了した補聴器相談医とは別ものです。
ぼくは、平成2年度開催の研修会に参加しました(平成2年7月2日(月)〜5日(金)、国立身体障害者リハビリテーション学院、正式な名称は平成2年度厚生労働省主催補聴器適合判定医師研修会)。
定員は30名で、当時の受講資格は、身体障害者更生相談所・更生援助施設又は病院等において補聴器適合判定に従事する耳鼻咽喉科医師とされていました。
岡本途也先生(昭和大学)、小寺一興先生(帝京大学)、服部浩先生(神戸大)、設楽哲也先生(北里大学)、調所廣之先生(関東労災病院)などそうそうたる講師陣でした(所属は当時のもの)。
月朝から金夕までの5日間、朝から晩まで聴覚と補聴器ざんまいな研修の場でした。
毎朝、ひとコマかふたコマの講義があり、あとは実習がメインの研修でした。補聴器相談医の講習会ではお目にかかることもない小児難聴関連の座学でも以下のような5コマがありましたし、
1. 乳幼児の聴力検査(BOAやCORについて)
2. 乳幼児のフィッティング理論
3. 重度発達遅滞例におけるフィッティング
4. 聴力変動がある場合
5. 左右差のある難聴の場合
1組8人で受ける実習は、2時間一コマで8単位、
① 補聴器特性の測定実習 I・II
② 補聴器フィッティング演習 I・II
③ 補聴器フィッティング実習 I・II
実にタイトな研修でした。
ぼくが受講した30年前当時、実習で用意されていたのはこんな感じの巨大な特性器でした(B&K 社製)。
↑スイープの記載はアナログでペンが動く仕組み
↑MOPはMPOと同義
詳しくは書きませんが当時のベストフィッティングなるものがどんなものであったかについてはこの図の特性から推し量っていただけると幸いです(使用した補聴器はリオンの箱型補聴器 型式 HA−66)。
テクニカルな研修会であると同時に、身体障害者福祉法や児童福祉法に熟知した専門家として適正な補聴器適合判定に従事することができるようになることが目的な研修でした。
補聴器相談医委嘱のための講習会は、この補聴器適合判定医師研修のコンパクト版というか抜粋版みたいな位置づけにあり、法規の話とか小児難聴の話は含まれていません。
補聴器適合検査の指針(2010)について
日本聴覚医学会は、2008年に補聴器適合検査の指針(2008)(いわゆるベータ版)をリリースしました。
ついで2010年に、完成版の「補聴器適合検査の指針(2010)」を正式発表しました。2010年版は2008年版を正式認証する作業のようなもので内容的にはこの2つに大きさ差異はありません。その後、10年経ちますが、新版はリリースされていません。ここが大問題なわけです(^◇^;)。
およそこの10年(2021年)で補聴器のテクノロジーの進歩をふり返ってみると、
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