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【医師解説】認知症における腸内細菌の作用について

アルツハイマー病は神経細胞の変性を原因とし、進行が非常に遅く、発症する30年以上前から変化が起こると考えられています。初期段階ではアミロイドβの凝集とリン酸化タウによる神経原線維変化が生じ、その後脳内の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化と慢性炎症が神経細胞の障害と脳萎縮を引き起こします。治療法は未だ確立されていないため、予防が重要視されており、脳腸相関が認知症の予防に関連しているとされています。

脳と腸は迷走神経を介して密接に結ばれており、「脳腸相関」が重要であることが示されています。乳酸菌の一種であるラクトバチルス・ロイテリをモデルマウスに投与すると、迷走神経を介した経路で社会的行動が改善されることが報告されています。また、腸内細菌が産生する代謝産物が脳機能に関与することも示唆されており、腸内細菌叢の特徴が脳機能障害と関連しているとされています。

これらの知見を背景に、ビフィズス菌A1株がアルツハイマー病の発症を予防できる可能性が示唆されています。

ビフィズス菌A1株をアミロイドβを脳室内に注入したマウスに経口投与すると、認知機能が改善されることが示されました。

特に、海馬における遺伝子発現解析により、ビフィズス菌A1株投与群では炎症関連遺伝子群の発現亢進が抑制されたことが明らかになりました。そのため、ビフィズス菌A1株はアミロイドβ誘導性の認知障害を抑制する可能性が考えられます。

さらに、軽度認知障害(mild cognitive impairment :MCI) が疑われる高齢者を対象に、ビフィズス菌A1株の摂取による無作為化プラセボ二重盲検平行群間試験が行われました。その結果、MCIと診断される対象者でビフィズス菌A1株の摂取により認知機能の改善が確認されました。

現在は、ビフィズス菌A1株の中枢神経系への作用メカニズムについて、液性因子による作用、血液脳関門を介した末梢のマクロファージの影響、そして迷走神経を介した作用などの可能性が考えられています。

これらのメカニズムが単独または複数重なることで、ビフィズス菌A1株の認知機能改善作用が発揮されたと考えられています。

加齢によって、腸内細菌叢が変化し、特に60歳以上ではビフィズス菌が減少し、大腸菌などが増加する「腸内細菌叢の老化」が起こります。

この現象はさまざまな加齢に関連する疾患と因果関係があることがわかっています。特にLeaky Gut(腸管透過性亢進)は、多くの加齢に関連する疾患の重要な要因であり、認知障害との関連性も示唆されています。

ビフィズス菌を増やすプロバイオティクスやプレバイオティクスの素材を定期的に摂取することは、健康な腸内細菌叢や腸管バリア機能の維持につながり、有効な抗老化対策の一つと考えられています。

青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範


参考文献:

1) Wu L. Zheng R. Zinellu A. et al A Cross Sectional Study of Compositional and Functional Profiles of Gut Microbiota in Sardinian Centenarians. mSystems.2019:4: e-00325-19

2) Yang H. Liu A. Zhang M, et al. Oral Administration of Live Bifidobacterium Substrains Isolated from Centenarians Enhances Intestinal Function in Mice.

3) アンチエイジング医学 日本抗加齢医学会 Vol.16 No.2

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