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タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉖
「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》思惑
私はミクロになり細胞の海を訪れた。そこは浅い海のように光に満ちていて珊瑚のような核と魚のようなミトコンドリアと小エビのようなRNAがいて、イソギンチャクやヒトデのようにゴルジ体やリボソームや小胞体がいる。温かい小さな海だ。私は、思考と、記憶と、行動と、変化と、電気という文字を海に浮かべて迷宮の扉を開けようとしている。
ミトコンドリアとRNAは小刻みな運動のように泳ぎ、ゴルジ体とリボソームはそれぞれの作業を続け、球形の核は考え続ける脳のように鎮座している。核膜のなかに絡んだイトミミズのような染色体が入っていて、またその染色体の中に入っている沢山のDNAが、過去の記憶を今のことのように話すので、高い女の声だったり、ぼそぼそとしゃべる男の声だったり、子供の声だったりする。それらの話し声は私自身のはずなのに何を言っているのか分からない。
核よ、聞きたいことがある。あなたはここで何をしているのか。あなたは、ただの記憶媒体なのか。
一瞬、声が止まり静かになるが、また話し始める。その声が私の質問とは全く関係ないことは、言葉が通じないこととは別に分かる。
染色体がゆっくり蠢く。分裂の準備を始めるのか。そうして保たれる私というDNAの乗り物。
「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》思惑より一部抜粋。
「思惑」は前回タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉕からの続きです。
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星原理沙
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